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地下室からアトリエまで戻って来て、やっと落ち着きました。湿度を含んだ重たい空気を吐き出す様に「ふぅ」と息をつくと、それを見てマリーさんが笑います。
「お疲れのようだね」
「ええ、あの方はマイペースでいらっしゃるわ。こちらは振り回されて疲れてしまいました。言っては失礼ですけど、ジョージ先生は変人ですわね」
「変人かい?そうりゃあいい!ハハハハハ!」
マリーさんは豪快に笑いました。
テオが呼びかけます。
「二人とも、」
彼が先ほど貰ったチップを一枚づつ差し出してきます。
「これで何か買うといい」
アイラは驚いて首を横に振りました。
「そんなっ、お兄さんがせっかく稼いだのに、いただけません!」
「いいんだ。さっき魔力を分けてくれたお礼だと思ってくれ」
「でも……」
朝日はそのチップをすんなり受け取りました。
「ありがと。」
兄は優しい目で笑っています。
二人で暮らしている時も、明星は時々お小遣いをくれる事がありました。苦労して稼いだお金を無駄遣いする事ないと、朝日は言うのですが『欲しいものとかあるだろ?』と渡してくるのです。
そのお金を貯めて朝日はゲーム機を買いました。兄と一緒に遊べたらいいなと。結局、彼は仕事に疲れていて一緒に遊べる日はほとんどありませんが、それでも妹に我慢をさせたくないという兄の望みは叶えたようで、ゲームばかりする朝日が怒られた事はありません。横で優しく見守ってくれているのです。
その事を彼女も知っているので、申し訳なく思いつつもお小遣いは笑顔で受け取るようにしています。
アイラもメイベールが受け取ったのならと、頭を下げチップを貰いました。
「何か買ってくれるのかい?ゆっくり見てって」
二人は店内の商品をじっくり眺め始めました。どの品も値段は1チップとか2チップばかりです。
(駄菓子屋感覚⁉)
採算度外視の値段設定なのでしょう。どうやら体験プログラムというのは本当の様です。
見て回るうち、飾るようにして壁に掛けてある制服に目がとまりました。誰かが着ていたのであろう制服の値段は10000です。
「たかっ!」
周りが安すぎるので比べると高く感じてしまい、思わず声が出ていました。マリーさんが笑って言います。
「その制服はこの学校始まって以来の天才と言われた学生が着ていたものだよ」
「へー、そうですの」
どうやら記念品のようなので、売るつもりは無いのでしょう。
「いい匂い……」
アイラが手に取っているのはポプリです。ガーゼにくるまれたハーブが可愛くリボンで結ばれています。手に持つと甘い香りが広がりました。
「私、コレにします」
「ハイ。ありがとね」
明星も何か買うつもりらしく、真剣な表情で棚を見ています。朝日はコッソリ話しかけました。
「おにぃ、何か欲しい物あったの?だったらアタシ達はよかったのに」
「いや、別に。先生を手伝ってたのは呼ばれたからだ。何するのか知らなかったし、」
「ふーん」
朝日もせっかくなので何か買おうと、ウロウロしていると変わったものを見つけました。カウンターの上に、ひと抱え程ある金属製の小箱が置いてあり、取っ手の付いた蓋には『開けたら閉める!』と張り紙がされているのです。
マリーさんが言います。
「アイスクリームが入ってるんだよ」
「アイス⁉」
驚きです。貴族が居て魔法もある、中世の様なファンタジー世界でアイスクリームが売っているのですから。
「食堂でアイスが出る事は無いから、生徒達に人気なんだよ」
マリーさんが蓋を開けて見せてくれました。冷気がモヤとなって流れ出ます。どうやらこの箱は魔道具になっているのでしょう。
中には乳白色のバニラアイスが詰まっており、隣に置いてあるカップに自分ですくうセルフ方式の様です。値段はちょっぴり高めな3チップ。
「わたくし、コレにしますわ」
「ハイ。ありがとね。自分で好きなだけ乗せていいから」
「好きなだけ⁉」
やはり採算度外視のガバガバ経営のようです。




