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先生が床に転がっていた石を魔法で浮かび上がらせます。
「今日のは私の魔力も混ざって面白い反応をしていますね。いいサンプルが取れました」
その石は複雑に色が混ざって、見る角度で色を変えています。キラキラと虹色に輝く石を見つめ、先生は満足そうです。
石をテーブルの上に置いた先生が、メイベール達に向き直って聞きます。
「それで、何の用ですか?」
朝日は呆れました。どうやらこの人は、目の前の興味ある事に集中すると周りが見えなくなるようです。
「ジョージ先生が言いましたのよ?放課後、わたくし達に研究室へ来るようにと」
アイラもテオの膝から降りて言います。
「さっきは校則違反をして、すいませんでした」
彼女は頭を下げました。
先生は「あ~あ」と頷き、やっと思い出したようです。
これなら言いつけ通り来なくても問題なかったのかもしれません。そもそも来る前からテオとの実験にのめり込んでいたようですし。心配していた自分がアホらしく思えて、朝日は頭を下げませんでした。メイベールお嬢様の体もそれを拒否しています。
先生は少し考えてから言いました。
「罰を与えるのでしたね」
メイベールの前に立った彼が、両手を出します。
「なんですの?」
目の前の顔がニヤリと笑いました。
「魔力交換をしましょう。テオ君はもう出来なさそうですし、」
「いっ!嫌ですわっ!」
メイベールは自分の体を抱きしめて、拒否反応を示しました。なんだか生理的に受け付けないのです。今の状況をアナドリのファンが見たのならメイベールの支持率は暴落したに違いないでしょう。元々彼女の人気はありませんが。
今度は先生の視線がアイラに向きます。アイラもビクついてテオの後ろに隠れてしまいました。
「これでは罰になりませんねぇ」
「わたくし達、今日は疲れておりますの」
先ほどジャスパーから魔力を分けてもらったので、メイベールの疲れは吹き飛んでいますが適当に誤魔化すしかありません。
「それに魔力の交換なんて親しい間柄でおこなうものでしょう?兄からはそう教えられておりますわ。みだりに他人同士で交換するなど、はしたない」
「ケステル家ではそういう方針なのですか。興味深い」
「ま、まあ、アイラさんとなら、やってあげてもよろしくてよ?ね?」
アイラに視線を向けると、彼女は少し顔を赤らめて言いました。
「はい……メイベールさんとなら」
また変なパラメーターが上がってなければいいなと思いつつ、言ってしまったものはしょうがありません。
「ふむ。先ほどの魔力交換を見る限り、メイベール嬢とアイラ嬢はよほど相性がいいようだ。けれど、アレをこの研究室で再現しては、建物が壊れてしまわないか少々不安ですね」
朝日も生き埋めになど、なりたくはありません。その表情を読み取ったのか、先生は諦めたように言いました。
「仕方ありませんね。今日のところは帰ってよろしい。近いうちに研究室の結界を強化しておきますので、準備が出来てからにしましょう」
なら、もうここに用はありません。さっさと帰ろうとすると先生が呼び止めました。
「テオ君、今日の分の謝礼です」
先生が差し出してきたのは、薄い金属の板です。長さ3センチ、幅1センチほどの真ちゅう製で、くすんだ黄金色をしています。
「これは何ですの?」
その板を見せてもらうと、10と刻印されていました。それが3枚。
「アナタ達は入学したばかりでまだ知らないのですね。それはチップです。この学校の中だけで使えるお金の様なものです。上のアトリエで出せば商品と交換できますよ」
「なぜわざわざチップなんて使うのです?お金で払ってはいけませんの?」
「ここは貴族が通う学校ですからね。貴族というのは領地を貸して得られる収入で暮らしているので、裕福な家だと一生、労働というものを経験しないまま過ごしてしまいます。そのチップはこの学校生活の中で必要な仕事、例えば先生の授業を手伝うだとか、掃除や片付けをするだとか、労働の対価として与えられます。いわば労働を学ぶ体験プログラムの一環です。アトリエではチップのみしか使えません。だからお金をいくら積んでも買えないので、欲しいものがあればテオ君の様に働いてください」
(本当にゲームみたい)
アナドリの中でもミニゲームをこなしてお金を貯め、マリーさんのお店でアイテムを買うのです。
先生は、そうそうと言って付け加えました。
「この研究室でチップがもらえる事は他の生徒に言ってはダメですよ。魔力を提供するだけでチップが貰えると知れたら、生徒が押しかけてくるかもしれませんからね」
先生に呼ばれた生徒が何をされたのか喋らないというのは、こういう事だったのかと納得した朝日は研究室を後にしました。




