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「今日は何を買ってくれるんだい?」
ゲームと同じセリフに朝日は嬉しくなって、つい顔が緩みます。こじんまりとした店内には様々なものが所狭しと並べられていました。
棚を飾る赤や青や緑の小瓶、カウンターに並べられているカップにティーセット、かどの本棚には分厚い魔導書らしきもの、天井から吊るされる花やハーブのドライブーケ、ショーケースの中にはキラキラ輝く石、壁につるされている可愛らしい小さな箒、誰かが着ていたのだろうと分かる、ヨレた学生服もかけられています。売っているものはゲームとは違うようですが、心くすぐる物ばかりです。
しかし、今は雑貨を眺めに来たのではありません。
「あの、ジョージ先生の研究室はここで合っていますでしょうか?わたくし達、放課後に来るようにと申し付けられておりますの」
「そうかい、ジョージに……」
マリーさんは二人を交互に見てから言いました。
「研究室はこの奥だよ」
お礼を言って指さされた方へ進みます。廊下を少し行くと牢が見えてきました。人が一人、寝る分のスペースしかないそこは、太く頑丈な鉄の柵で遮られています。中には木箱が積まれているので、どうやら今は倉庫として使われているようです。しかし、ここが牢獄だったのは間違いありません。
薄暗い廊下をビクビクしながら進み、角を曲がるとそこに階段が2つ現れました。一方は壁に沿って螺旋となり上へと登っていきます。もう一方は開けたままになっている扉の先で地下へと降りていきます。
「研究室って地下だよね?」
「そうだと思います」
確認したのは、ためらったからです。拷問部屋だと聞いていた地下へと続くその階段は暗く、足を踏み出すには少し勇気がいります。
「うっ……あぁ!……」
「ひっ!」
人のうめき声の様なものが聞こえ、本当に拷問がおこなわれていたらどうしよう?と、朝日は気弱になりました。その彼女の手をアイラが握ります。
「行きましょう。お兄さんが酷い目にあっているかもしれない」
(二人で来てよかった)
決心した朝日はアイラの手を握り返し、一緒に階段を降り始めました。石作りの階段にカツ、カツ、カツと足音が鳴り、狭い通路は音を反響させます。一歩、また一歩と降りるたびに、恐怖が増していくようでした。握った手は汗ばみ、冷えてやけに冷たく感じます。
階段を降り切ると、鉄の扉が現れました。中からはやっぱりうめき声が聞こえます。テオが拷問とまではいかないまでも、お仕置きされているのかもしれません。
校則違反の罰がどんなものか分かりませんが、誠心誠意謝れば許してくれるに違いありません。それが駄目なら、言いたくはありませんがケステルの名を出し開き直ろうと朝日は考えていました。ジャスパーをまた怒らせる事になろうとも、実の兄である明星を助ける為です。しょうがありません。
「うああぁぁぁ!」
中から今度はうめき声ではなく叫び声が聞こえます。
躊躇している場合じゃない!朝日は扉を勢いよく開けました。
バン!
薄暗い室内には抱き合っている人がいます。ローブをまとった人物は入口に背を向けて立ち、朝日には顔は見えませんでしたが、黒い長髪が肩から垂れ下がっているのでジョージ先生だと判断しました。そしてその先生の肩に頭を乗せているのはテオです。
「おにぃ!」
「お兄さん!」
朝日は一瞬のうちに変な想像をしてしまいました。アナドリはパラメーターさえ上げれば誰とでも付き合えます。それは先生と生徒であろうが同性どうしだって構いません。
SNSでは妄想を爆発させたプレイヤーが誰と誰をくっつけるのかで盛り上がっているのを朝日も目にしました。今、目の前の光景はまさに妄想が現実になったかのようです。
(だっ、ダメだよ!おにぃ!そっちの世界は!)
二人は抱き合ったまま固まっています。
朝日とアイラも衝撃的な光景に動けませんでした。
「うぅ……」
「うっ!くっ!」
彼らからは苦しそうな声が漏れています。いったい抱き合ったまま何をしているのか?ローブで隠されたその内側はどうなっているのか?朝日の頭の中に変な妄想がグルグルと高速で巡っていきました。




