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第四章 「拷問部屋」 4-1

秋の日は落ちるのが早い。

けれど、その塔の先端は落ちる夕日の光を最後まで残し続ける。まるで蠟燭にともった炎の様に。時の移ろいを、命の儚さを、表すかのように。


ある貴族が幽閉された。最後まで家臣が全て悪いのだと言い張り、責任を取ろうとしないその男は、何年も何年も呪いの言葉を吐き続けた。

統治する民、同盟を結ぶ諸侯、仕える王にまで暴言を吐いて見限られ、最後は自分の子供、妻にまで見捨てられた。


ある令嬢が幽閉された。自分は悪くない、騙されたのだと喚いた。不貞を働いた令嬢を婚約者は許さなかった。泣いて謝り、許しを請う彼女を許さなかった。

月日が経ち、髪は荒れ、肌の艶は無くなり、目はくぼんで光を失い、華やかな頃とは別人になった彼女は、自慢だった美しく長い髪で自らの首を吊って死んだ。


幾つもの悲劇が語られず押し込まれてきたその塔の下には、語る価値すらない罪人の牢獄があった。ただ処刑を待つだけの僅かな日々に、罪人は声を張り上げ世界を呪った。

だが、その声が誰かに届くことはない。そこは城の中の牢獄。聖職者ですら立ち入る事はかなわず、最後の懺悔も許されない。全てはこの地を治める統治者の裁量で決まる事。


牢獄の奥には地下へと降りる階段がある。暗くジメジメとした階段を降りると、分厚い扉で区切られた小さな部屋がある。光など差し込まないその地下室では罪人であろうとなかろうと、連れてこられた者は全てを諦める。その拷問に耐えかねて。


◇◇◇


「せんせい……オレ、もう」

短く刈られた赤髪に目つきの鋭いその生徒は、少しこわもてな見た目とは裏腹に弱気な声を漏らした。

「大丈夫。全てを出し切るのです」

先生と呼ばれた黒いローブをまとった人物が、一つしかない灯りに横顔を照らされ妖艶な笑みを浮かべている。

この体はどれだけ耐えられるのか?ローブの男の興味はそれしかない。

苦悶の表情を浮かべ、生徒は身を悶えながらその言葉に従う。この男が満足するまで。

「うっ……あぁ!……くッ、ハァ!ハァ!」

光の差さない地下室では、そのうめき声が誰かに届くことはない……



メイベールとアイラは塔の元までやってきました。

ジャスパーは牢獄や拷問部屋があると言っていたので不気味な場所をイメージしていたのですが、そこには花壇があり、色とりどりの秋の花が咲いていました。奥に柵で囲まれた小さな畑も見えます。どうやら誰かが住んでいるようです。

家と呼んでいいのか、その武骨な外観の建物は兄が言っていたように元は牢獄だったのでしょう。それを改装してあるようです。庭に面したテラスには日よけが張られ、外壁はツタが這い、小洒落た印象を与えています。

入り口にブドウのツルをイメージして作られたアイアン製のブラケットが取り付けられ、下がっている看板は『アトリエ・マリー』と書かれていました。


朝日は驚きました。

(マリーさんのお店って、ここにあるの⁉)

マリーさんとはアナドリに出てくるキャラクターです。その彼女のお店にはゲーム内で使うアイテムが売られているのです。各種パラメーターを上げる秘密の薬や意中の相手へ送るプレゼント、寮で自分の部屋を飾る小物などが取り揃えてあります。

けれど、マリーさんのお店は一枚絵で表示されるのみなので、ゲームではそれがどこにあるのかまでは分からないのです。


塔はこのアトリエと繋がっているようです。周囲には他にそれらしき建物もありません。研究室はここで合っているのか?不思議に思いつつも扉をノックすると中から声がしました。

「はーい、開いてるよ」

「お邪魔しまーす……」

「しまーす……」

ドアを開け、二人でおずおずと中を覗きました。

「おや、アナタ達新入生だね」

愛想よく迎えてくれたのは、中年の女性でした。小柄でふっくらとした体格にエプロンを付けて、ゲームで見ていたマリーさんです。実際に会ってみるとお母さんという言葉がよく似合う人でした。初めて会った見ず知らずの他人ですが妙に親近感を覚え、二人は警戒心を解きました。

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