3-11
メイベールとジャスパーが兄妹仲睦まじく抱き合っているのを、アイラは頬を赤らめ眺めていました。そこへ、
「アイラ嬢、」
ルイスがやってきました。メイベールも流石に手を離し、抱いてくれていた兄から離れます。
ルイスが心配そうに聞きます。
「大丈夫かい?何があった?」
「ハイ。大丈夫です。ただ、メイベールさんに魔法を教えてもらっただけです」
「そうか……メイベール嬢には感謝する」
ルイスは胸に片手を当て、頭を下げました。
「殿下!おやめください!わたくしは何もしておりませんわ。むしろ巻き込んでしまったというか、」
ルイスはメイベールとジャスパーが抱き合っていたので、よほどの事があったのだと勘違いしたのでしょう。
頭を上げてルイスが言います。
「本当なら私が側にいるべきだったのだ。分かったと思うが彼女の魔力は膨大だ。それを受け止められるのは、同じく高い魔力を持っていなければならない。安易に魔法を使えば魔力が暴走する危険性だってあったのだ。ジョージ先生がいるからと、任せたのが迂闊だった。キミが居てくれて助かったよ」
「本当に、わたくしは何もしておりませんので、お気遣いなく」
「いや、そうはいかない。何か礼をさせてくれ」
「でも……」
ジャスパーがニヤリと笑って言います。
「メイベール。ルイスもこう言っているんだ。断るのは失礼というものだよ。しかし皇室に恩を売るチャンスなんてそうは無いからね。この場で焦って決める必要は無い。とりあえず保留にしておくというのも手さ。なんならずっと恩を売ったままでもいい」
「人が悪いぞ、ジャスパー」
「そうですわ、お兄様」
彼は肩をすぼめました。
兄の発言はケステル家の為なのか、それともただの冗談なのか?分かりかねた朝日は話を流すことにしました。
「そういえば、テオ様の姿が見えませんが、ご一緒ではないの?」
アイラも頷いています。
またジャスパーがニヤリと笑いました。それを見られないよう背を向けて話します。
「彼は拷問部屋だよ」
「え?」
朝日は青ざめました。
「知らないのかい?この学校の噂を……」
「おい、ジャスパー」
ルイスが怪訝そうに見ています。ジャスパーは唇に人差し指を当てました。
メイベールに向き直り、人差し指を立てたまま語ります。
「この学校は元々あったリード城を利用して作られたんだ。校内には城の名残が今も残っている昨日ダンスを踊ったのは謁見の大広間だし、今日キミたちが魔法の授業をおこなった場所は兵士の訓練場だった」
ジャスパーが立てていた人差し指をメイベールの後ろへ向けます。彼女は振り返りました。その方向には高い塔が立っています。彼はメイベールの肩へ手をかけ、耳元に顔を近づけ言いました。
「あれは幽閉の塔さ。あそこには罪人を捕らえておく牢獄が今もある。さらにその地下には拷問部屋があったんだ。今はジョージ先生の研究室になっているけどね。けど、あそこでは今も拷問が続けられているという噂だよ。先生に目を付けられた生徒があそこに呼ばれるんだ。しかし何をされたのか聞いても生徒達は応えてくれない」
「大変!」
メイベールは駆けだしました。アイラも二人にお辞儀をしてから後を追います。
「ジャスパー……」
呆れるルイスに彼が笑って応えます。
「妹がね、久しぶりに甘えてくれたんだ。嬉しくなってしまってね。つい昔の様に、からかいたくなってしまったんだよ」
走っていくメイベールの姿はもう見えなくなってしまいました。
「お転婆なのは昔と変わらないな」
ルイスも笑いました。
「聞いたか?彼女、噂になっているぞ。今日の授業で笑いながら魔法を爆発させようとしたらしい。誰が言ったのかレディ・ボムと呼ばれてる」
ジャスパーの顔は引きつりました。
「レディなんて呼べないな。よいよどこの貴族からも相手にされないかもしれない。そうなったらテオに押し付けるしかないな」
「もしテオが嫌だというなら私が引き取ろう。さっきの借りもあるしな」
「それは借りを返したことにはならないだろう。それより、今返してくれてもいい。アイラ嬢は雷の魔法で辺り一面、吹き飛ばそうとしたそうじゃないか。あの子、雷公女様なんて呼ばれているようだけど、何者だい?」
今度はルイスが顔を引きつらせて応えました。
「借りはメイベールにあるんだ。キミに返す必要は無いよ」




