3-10
魔法の授業が終わって、トボトボ帰るメイベールとアイラ。
アイラが不意に笑いました。
「疲れましたね」
「そうだね」
アイラが頬を赤らめて言います。
「でも……」
メイベールも笑います。
「気持ちよかった?」
「ハイ……」
アイラが手を繋いできました。
「メイベールさんとは、その、気が合うというか、これからも上手くやっていけそうな気がします」
繋いだ手からアイラの魔力がビリっと流れ込んできました。メイベールも応えて熱い魔力を流し返します。
「フフフ、」
「ふふふ、」
二人は少し照れながら笑い合いました。けど、朝日はハッと気づいて我に返りました。
(いけない!これってアイラとメイベールのパラメーターが上がったんじゃないの⁉)
アナドリの世界ではパラメーターを上げさえすれば、誰とでも付き合えるのです。
(だっ、ダメだよ!女の子同士なんて!)
朝日にはそっちの気はありません。けど、メイベールはどうなのでしょう?あの我の強いお嬢様がアイラに対して拒否反応を示しません。お嬢様が手を握られたのなら『馴れ馴れしくしないで下さる?』とか言い、その手を叩き返してしまいそうですが、そんな様子は体に現れませんでした。ただ疲れているだけかもしれませんが……
朝日は誤魔化して言いました。
「さあ、早くジョージ先生の研究室に行こ」
アイラの手を引き、歩き出したところで呼び止められました。
「待ちなさい。メイベール。」
ジャスパーです。彼はいつもの様に微笑んではいません、その目に優しさは感じられず、鋭いものでした。
ドキン!と心臓が脈打ち、メイベールの足は止まりました。あの怖いもの知らずのお嬢様が動揺しているのが朝日にも伝わります。
「なんでしょう?お兄様」
「さっきの騒ぎはキミが起こしたのかい?」
彼の声にも、いつもの優しさを含んでいません。かなり怒っているのは朝日も気付きました。明星も怒る時は怒鳴るのではなく、淡々と話すので普段優しい人物が怒るその怖さは分かっています。
(どうしよう!どうしよう!どうしよう!)
兄というのは妹の我がままに大抵は怒らないものです。少なくとも明星はそうです。その兄が怒るというのは彼にとって譲れない部分に触れてしまったからです。
朝日は頭が真っ白になりました。すると体が勝手に動き、ジャスパーに抱きついたではありませんか。その胸に頬ずりしてから顔をあげ、上目遣いで言ったのです。
「私、頑張ったよ?お兄ちゃん」
あのメイベール嬢とは思えない甘えた言葉です。朝日はビックリして何も出来ませんでした。
ジャスパーはハァと息を吐くと、手を背中に回してきて撫でながら言いました。
「やり過ぎだよ。メイベール」
その声はいつもの優しい兄の声に戻っていました。
「ダメだったの?私、ケステル家の為に頑張ったのに」
「ダメじゃない。だけど、ただ力を示せばそれでいいというものではないんだよ。行き過ぎた力は周りに恐怖を与えるだけだ。上に立つ者として傲慢であってはならない。分かるね?」
「うん……ごめんなさい、お兄ちゃん」
朝日は気付き始めました。もしかしたらこっちがメイベールの素なんじゃないかと。普段、高飛車なのはケステル家という名を背をっている為で、気を張って舐められない様にしていたのではないかと。
ジャスパーが体を離し、今度は頬に手を触れました。親指で目の下をなぞります。
「少しやつれているね。僕の魔力を分けてあげよう」
触れている手からはジンジンと熱いものが流れ込んできました。それはとめどなぐ注がれ、メイベールを満たしていきます。体の疲れは吹き飛び、顔の血色も良くなっていきます。触れている頬も、さっきから熱くてしょうがない耳も真っ赤になりました。
(スチルイベントきたーーーぁ!)
ジャスパーとメイベールのパラメーターを上げていた朝日は、こういう兄妹の姿が見たかったのです。
「もういいかい?」
「まだダメ」
十分すぎる程、魔力は注がれましたがメイベールが兄の手を取り、頬から離そうとしません。
(くぅーーーーーーっ!)
朝日はこのやり取りを言葉に表せない気分で味わっていました。




