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休憩中、アイラが喋りかけてきました。
「メイベールさん、さっきの魔法凄いですね」
『当り前です。このわたくしを誰だと思っていますの?ケステル家の令嬢、メイベール・ケステルですのよ。あれくらい余裕ですわ』
朝日は浮かんだ言葉を全て飲み込みました。頬に手を当て高笑いまでしそうだったのも、なんとか堪えます。
「はは、ちょっとやり過ぎちゃったかな」
頬をポリポリと掻きました。
アイラの表情は曇っています。
「どうしよう……私、魔法が使えないんです」
(そういえば、マジックキャンセラーなんだっけ……あれ?)
朝日は不思議に思いました。ゲームではジョージ先生を感嘆させるほどの魔法を彼女は放つのです。周囲の生徒達も驚き、それは妬みとなって貴族でないアイラに向けられます。クラスで孤立する悲劇のヒロインの誕生です。ですが現実は……
(もしかしてストーリーが書き換わった⁉)
朝日は周囲を見渡し、クラスメイトの様子を探りました。どの子もメイベールが顔を向けると視線を外されます。それはBクラスの子達も同じです。皆こちらを気にしているのに視線は合いません。けれどその感情は妬みと言うより、恐怖に近いものの様です。みな遠すぎる程の距離を保っています。『この子に逆らってはいけない』そう判断されたのでしょう。ある意味ケステル家の威信を知らしめた形ではありました。
(アタシ、ぼっち確定じゃん!)
まだぼっちとは決まっていないことに気づき、アイラの手を取りました。
「大丈夫。きっと使えるから。そうだ!アタシと一緒に、ちょっと練習してみようか」
「はい!お願いします」
お互い両手を繋ぎ、向き合って立ちました。
「アタシが右手からアイラに魔力を流すから、アイラも右手からアタシに魔力を流して。お互いの体の中をグルグル右回りに魔力が流れていくイメージをしてね」
これはまだ魔法を使えない小さな子が、魔力に慣れる為に行われる練習です。メイベールはジャスパーからこの方法を教えてもらい、初めて魔力というものを意識できたのです。昔の記憶が残っていたようで、ちょうど思い出し助かりました。
繋いでいる右手に意識を集中させます。
「じゃあいくよ?」
「ハイ」
さっきメイベールがとんでもない魔法を使った事で、朝日にも魔力というものがなんとなく分かりました。詠唱中、体の中をジンジンとした何かが駆け巡っているのを感じていたのです。そのジンジンとしたモノをもう一度……
魔力を流すとアイラの体がビクビクと反応しました。目の前の顔は興奮して、顔が紅潮しています。
「凄い!なんだか温かいというか、ジンジンします!」
「そのジンジンを今度はアタシに流して」
「ハイ、やってみます」
彼女が真剣な目つきになると、繋いだ左手から魔力が流れ込んできました。
(やっぱり魔力はあるじゃん)
魔力とは総量が決まっているのです。人の体は器の様なもので、魔力が満ちている状態で故意に魔力が流し込まれれば、あふれ出ようとします。なので魔法に不慣れでも、体に流れる魔力を意識できるようになるのです。
「アイラの魔力はちゃんとあるから、魔法は使えるはずだよ」
「本当ですか⁉」
彼女は安心したのか、笑顔になりました。
「やっぱりメイベールさんといて良かった」
(アタシもアイラがいてくれてよかった……)
朝日はぼっちにならずに済んだことに、胸をなでおろしました。
「今みたいに魔力を体の外へ流すことが出来れば、後は魔法を唱えるだけだよ。忘れないうちに、もう一度やってみようか」
「お願いします」
また魔力を流すとちゃんと返してくれました。けれどアイラの魔力は朝日が思っていたモノとは少し違います。ジンジンではなく、ビリビリと痺れるような感覚なのです。
彼女も魔力を操ることに慣れてきたのか、そのビリビリは返してくる度に強くなっていきます。
「んぁ!」
繰り返し魔力の交換をするうち、思わず変な声が出てしまいました。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ちょっと痺れるだけ……はぁ……たぶんコレ、得意な魔法が違うからなんだろうね。適性ってやつ?アタシは炎だから熱く感じて、アイラのは雷なのかな?ビリビリする」
再び手に意識を集中させます。左手から受け取った魔力が左腕を通り、胸を通過し、右腕を通り、右手から相手へ流れる。慣れてくるとグルグル回る魔力の輪っかがハッキリとイメージできます。
けれど、慣れない部分もあります。それは適正でない相手の魔力が通過するときの刺激。メイベールはアイラの魔力が流れ込んでくる度、体の芯を貫かれるような刺激に変な声が出ていました。
「んっ!……あっ!……ん!ん!……ハァ、ハァ」
声を殺しているものの、アイラには聞こえているはずです。そのアイラも火照った様に顔を真っ赤にして、息を殺していました。
「ハァ、ハァ、ハァ、んっ!ハァ、ハァ、ハァ」
お互い変な気分でしたが、その刺激が快楽の様にも感じてやめられません。魔力に魅入られてしまっているのです。だから周りが見えていませんでした……
二人が憑りつかれた様にもっと、もっと、と魔力の受け渡しを早めます。それは高速で回転する魔力の渦となり、周囲に影響を与え始めていました。
メイベールの熱エネルギーが渦をなし、空気を巻き込んで上昇気流となります。アイラの電気エネルギーはバチバチと放電しながら上昇気流に乗ると、上空へ登り雷雲となって空を暗くしました。
まるで周囲は暴風のように荒れ狂い、生徒達はみな避難しました。気付いてないのはメイベールとアイラだけです。二人は台風の目の中に立っている様なもので影響はなく、しかもお互い興奮して見つめ合っていたので、異変に気付いていません。生徒達がやめる様に大声で呼びかけましたが、暴風に阻まれて届きませんでした。
「これは?」
ジョージ先生が異変に気付き駆けつけます。
彼は何が起こっているのか直ぐに理解し、魔法を発動させました。それは先ほど火球を閉じ込めた結界と同じ原理で、今度は結界の中にエネルギーを吸い込むというものです。主に魔道具の核を作る為に編み出された魔法です。
先生の魔法が二人の渦をなす魔力を全て吸い切ると、雲は晴れ暴風も収まりました。ゴトン!と重い音をさせ転がった魔力の石は静電気を発するようにビカビカ光りました。
「あぁーぁ……」
「うーーぅ……」
メイベールとアイラは精魂尽き果て、手を繋いだまま地面にへたり込んでしまいました。
ジョージ先生が駆け寄ります。
「素晴らしい!」
彼は二人を心配するわけでもなく、怒る事もなく、褒めてくれました。
「通常、魔力の受け渡しは適性が同じ者同士でないと反発し合うのです。それがこれほどまでに融合し合うとは!少量の魔力は反発し合っても、大量の魔力なら大きな流れとなり混ざり合う。これは新たな知見ですよ!」
なんだか知らないけど褒められたことは分かり、朝日は先生に疲れ切った笑顔を向けました。
ジョージ先生も笑顔で言います。
「二人とも放課後は私の研究室に来るように。校内でみだりに魔法を使うのは校則違反です。なので罰を与えます」
顔は笑っていましたが、どうやらお仕置きが待っているようです。




