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朝日は食堂に向かわず校内をさまよって、目に付いた中庭のベンチに腰を下ろしました。秋の空は晴れ渡り空気も清々しいのに彼女の心だけが曇り空の様に淀んでいます。
(なんでこんなにも虚しいんだろう?)
まるで心にぽっかり穴が開いたように思えました。
明星は日本へ帰る為に一生懸命やってくれている。アイラと仲良くなることは帰る為に必要な事だと分かってる。でも……
ふと、見上げると中庭に植えられたプラタナスの木から一枚の葉がヒラヒラと舞い落ちました。まだ紅葉して色づき始めたばかりなのに、その葉だけが落ちていく有様は、のけ者にされている様に朝日には感じました。
むこうでは昼食を終えた生徒達が笑いながら通り過ぎていくのが見えます。昼休みを思い思いに過ごすざわめきの中で自分だけが取り残された気分です。
彼女は小さく呟きました。
「おにぃ……」
いつも彼女の側には兄の明星が居てくれました。どんなに我がままを言おうと兄は優しく見守ってくれていました。けど、今回は我がままが許されないのは彼女にも分かっています。帰ることが彼の望みであり、それは妹である朝日の為を思ってしてくれているのだから。
「こんな所に居たのか」
落ち込む朝日に声をかけたのは明星でした。隣に腰を下ろした彼が優しく微笑んで持っていた紙包みを渡します。
「お菓子、好きだろ?」
中身はクッキーでした。食堂に居ない朝日を気遣ってわざわざ持ってきてくれたのです。
「うん……」
いつもの様に優しい兄の眼差しにも、今は心が晴れる事はありません。
明星が聞きます。
「さっきのはイベントだったのか?」
「たぶん、そう。」
「お前は無理に悪役なんてしなくていいんだぞ?あれがイベントならお前が居なくても強制力とかいうヤツで進んでいくんだろう」
「うん、そうかもしれない」
「大丈夫だ。オレに任せておけ」
朝日が気落ちしているのはイベントに対してではないのです。彼女は聞きました。
「アイラは?」
「食堂で飯、食ってるよ。今から行くか?」
朝日は首を振りました。
「ルイスが側で見ててくれるみたいだから、大丈夫だろう。お前もなるべく側に居てやってくれ。アイラは貴族じゃないから色々言われやすいんだ。オレ達が側に居れば誰も何も言いやしない。なにせオレ達は大貴族らしいからな」
笑っている兄に聞きました。
「ねぇ、なんであの子、おにぃの事”お兄さん”なんて呼ぶの?」
明星はあっけらかんと答えました。
「兄妹だからだろ?」
「は?」
「ん?」
お互い顔を見合わせます。
「どういう事?心の兄妹的な?」
明星が自分の髪を指さして言いました。
「そうじゃなく、血の繋がった兄妹らしいぞ?髪の色、同じだろ」
「はーーーーあ⁉」
朝日は驚いて声を上げました。周りにいた生徒の視線を集めます。
「おい……」
明星が見渡すと生徒達は目線を外し、去っていきました。誰もいなくなったのを確認し、声を潜めて言います。
「お前、ゲームやってたのに知らなかったのか?」
「知らない……」
アナドリには3つのトゥルーエンディングがありますが、それをクリアした後にアイラの出生や世界の秘密が語られる裏エンディングが隠されているのです。朝日はトゥルーエンディングはクリアしましたが、その後ジャスパーとメイベールのパラメーター上げに精を出していたので知らないのです。
明星がフッと、鼻で笑って言いました。
「なんだ、お前あの子に焼きもち焼いてたのか?」
朝日の頭をバンバン叩く様に雑に撫でてきます。
「ちがうもん!」
不安は杞憂だと分かり、急にお腹が空いた彼女はクッキーをむさぼりました。
今度は優しく頭を撫で明星が言います。
「一緒に帰ろう」
朝日の空っぽだった心は満たされました。




