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1-2

朝日が立っていたのはどこかの廊下でした。けれど、ただの廊下ではありません。学校の校舎の様に長い廊下には磨き上げられた大理石のタイルが敷き詰められており、天井に目を移せば優美な絵画が描かれ、それを支える柱には精緻な彫刻が施されています。まるで朝日がプレイしていた乙女ゲームに出て来そうな貴族のお屋敷そのまま。

「なに?……え?どうなって⁉」


バーン!ゴロゴロゴロゴロー……


雷の音にビックリして、近くの窓を見た彼女は更に驚きました。

「は?」

思わず頬を撫でました。窓に映る自分らしき者も同じ動きをします。視線を移し手を見ました。白い手袋をはめています。そのまま視線を下げ、自分の体を確認します。着ていたパーカーやハーフパンツ姿ではありません。自分ではよっぽどのことが無い限り選ばないであろうロングワンピースを身に着けています。

認識したものだからそれがやたらと重く感じ、少し腰を振ってみました。ちょっと揺らした程度でも中に何枚も着こんでいるのが分かりました。彼女には縁が遠いものですが、おそらくコレはドレスだろうと思いました。

(え?なんで?)

信じられなくて、もう一度窓を鏡代わりに覗き込みます。

すると背後に人影が立っているのに気付きました。彼女はとっさに振り返りました。


「だれ?」

「だれだ……」


同じことを言った目の前の男性に朝日はどこか既視感を覚えました。彼女より頭一つ分は背が高く、全体にガッチリとして引き締まった体。深い赤色の髪はショートに刈られ、その端正な顔立ちに合う切れ長で少し威圧感のある目。

(この人、どこかで……)

男性は鋭い目つきで朝日の事を見ています。それに気づき朝日は慌てて取り繕いました。

「アタシ、怪しい者じゃないですっ!あっ、でも怪しいというか、その、なんでここにいるのか、よく分からないんだけど、」

男性も訳が分からないといった様子です。それは朝日に対するものではなく、自分自身に対するものでした。さっきの朝日と同じように手を見たり体を確認したりしています。


朝日はもう一度聞きました。

「アナタ、誰?」

「オレは……テオ・ベオルマ」

男性は言ってからハッとしたように口を押えました。朝日も同じようにハッと閃きました。その名前には覚えがあったのです。『テオ・ベオルマ』朝日がのめり込んでいる乙女ゲーム『another world of dreams』に出てくるメインキャラの一人です。言われてみれば顔立ちはそのままですし、着ている服も貴族が身につけるそのキャラ固有衣装でした。違うのはゲーム画面の2次元か、現実の3次元かだけ。

(なに?コスプレ?)


「オレはなんでこんな格好で、ここはいったい……」

今度は朝日の視線に気づいた男性が取り繕います。

「いや、違うんだ、待ってくれ……怪しい者じゃないです。オレは佐野明星さのあきとといいます」

彼女はドキっとしました。その名前はさっき名乗ったものとは違います。だから思わずいつもの調子で聞き返しました。

「おにぃ……なの?」

呼びかけに戸惑う男性。確かめようと朝日も名乗りました。

「アタシだよ!朝日だよ!」

男性は信じられないといった風にかぶりを振りました。

「そんなはずは……なんだよ、その姿」

朝日にも信じられませんが、気付き始めました。それは彼女が何度も頭の中で繰り返してきた妄想。『異世界に転生できたらなぁ』それが現実に起きているのでは?


自分が佐野朝日だと分かってもらうために、彼女は思いつく限りの存在証明をしました。

「アタシの名前は佐野朝日!5月15日生まれで、もうすぐ16歳。お父さんは佐野明。お母さんは佐野沙織。4年前に二人とも死んじゃってて、えっと、、、それからぁ」

「本当に朝日なんだな?お前、なんで……」

「おにぃの方こそ……」

まだよく分からないままですが、兄と思われる人物と出会った事で朝日は安心しました。顔がゆるみ、今にも泣きだしそうな彼女を心配したのか、明星が妹を強く抱きしめます。

「……大丈夫だ」

その言葉だけで彼女は堪えきれず泣きそうになりました。けど、

「お二人さん。」

突然声をかけられ、二人は固まってしまいました。

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