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次の授業は法律に関するものでした。統治者として法律は頭に入れておくべき貴族の知識です。しかし、メイベールの頭の中にはその知識は無いようでした。まだ学習していないのです。なので朝日は先生の話にまったくついていけません。
思い返すと昨日、明星が言っていた『不敬罪』というのは、テオがこの学校で学んだ知識だったのでしょう。でなければ明星があんな法律用語知っているとは思えません。朝日は初めて聞く専門用語や判例に苦戦する予感がしました。
当然の様にまた隣に座ったアイラを横目で見ると、やっぱり真面目にメモを取っています。朝日も渋々メモを取り始めました。
カラーン、カラーン、カラーン、
昼休みの鐘が鳴り、アイラが言います。
「食堂へ行きましょ」
「いえ……わたくしはもう少し授業の内容をまとめておきたいので、お先にどうぞ」
「そうですか、」
アイラは足早に教室を出ていってしまいました。
(ハァ……何なの?あの子)
昨日は目を合わせる事もしなかったのに、今日になって急に馴れ馴れしく感じます。それだけ明星が上手く相手をしてくれたという事なのでしょう。そう思うと、兄が自分以外の人と親しくしているようで嫌な気分になります。
(ハァ……ダメだ)
きっとお腹が空いてイライラしているだけだろうと、勉強を切り上げ食堂へ向かいました。
食堂の入り口では明星が待っていてくれました。
「おにぃ」
「一人か?」
「アイラは先に行くって言ってたけど?」
「見てないな」
「トイレじゃない?」
「うーん……ちょっと気になるから探してくる」
彼は行ってしまいました。
(心配しすぎじゃないかな?)
食堂に入ろうとして朝日は気付きました。
(もしかして、イベントが発生してる⁉)
人目を避け壁際に行き、ポケットに入れておいた手帳を取り出します。
(えーっと、テオルートの最初のイベントってなんだっけ?)
記憶を頼りに出来る限りアナドリで発生するイベントを書き記した手帳には『アイラがいじめを受ける』と書いてありました。
ゲームではアイラがテオと仲良くしているのを不満に思ったメイベールが、彼女を人気のない場所に呼び出し、脅すのです。『わたくしの婚約者に色目を使いましたわね!』と。
設定ではメイベールはテオを嫌っている事になっています。それはテオでは自分と釣り合わないと思っている為です。メイベールのケステル家とテオのベオルマ家は共に貴族でも最高位の公爵家ですが、その上には王族がいます。彼女は自分が王族にふさわしいと考えているので、本当はルイスと婚約を結ぶべきだと思っていました。
しかし、突如現れたアイラがテオと仲良くしているのも気に入らないのです。自分の都合しか考えない我がままな令嬢。それがメイベールです。
朝日も二人を探しに向かいました。
イベントが起きるのならメイベールがいないといけません。とりあえず明星を先に見つけて事情を説明しておきたい。
しかし、先に見つけたのはアイラの方でした。彼女は女生徒3人に囲まれています。朝日は隠れて様子を伺いました。
「あなた、アイラ・ステラって言うんでしょう?」
「ステラって聖職者の名前よねぇ?」
「なんで貴族の学校にいるの?」
「……」
アイラは何も言えず固まっています。
(これってイベント⁉)
あの場に居なくてはいけないのはメイベールのはずですが、既に似たような状況が
起こっています。
上級生の、おそらく2年生と思われる子がアイラに詰め寄りました。
「それよりアナタ、食堂でどこに座ってるのか分かってないの?」
「……」
(やばい、)
誰がどこに座ろうが勝手だし、学校で身分がどうの言うのは間違っている気がします。そもそも彼女達に何か不都合があったのでしょうか?個人の事情にわざわざ口出ししてくるのが朝日は気に入りません。
しかし、今アイラを助けてしまうと今後の展開が読みにくくなってしまいます。なぜならFLSというゲームシステムのおかげで、誰とでも好感度パラメーターは上がってしまうのです。それはアイラとメイベールでも結ばれる可能性があるという事です。
(どうしよう……)
「任せろ」
声がしたと思ったら、肩をポンと叩き、進み出る人物が……テオです。
(おにぃ!)
彼は堂々とした振る舞いで言いました。
「そこで何してる?」
テオの鋭い視線が女子生徒達を捉えます。
「なっ⁉……なにもしてません」
テオはガッチリとした体格の上に赤髪で否応なしに目立ちます。しかも公爵家なので、校内で知らない者はいないのです。そんな人物を相手に出来るはずがありません。女生徒達はそそくさと去ってしまいました。
(よかった……流石おにぃ)
メイベールも出ていこうとして足を止めました。
「ありがとうございます!お兄さん」
アイラがテオに抱きついたのです。反射的に朝日は背を向け走り出していました。




