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食堂に入ると、そこには生徒が溢れかえっていました。
(他の子もいたんだ)
十数人しかいない授業の後だったので、朝日は少し気おされました。久しく学校になど行っていない彼女には生徒達が集まる場所というものに拒否反応があります。だから入って行くのをためらってしまいました。アイラの方も側に立ったまま辺りを見回し、動き出そうとしません。
そこへ、
「こっちだ」
呼びかけてくれる人物が。テオでした。ちゃんと会えたことで安心し、朝日が笑顔で応えようとすると、
「お兄さん!」
先にアイラが応えました。彼女がテオの側に駆け寄っていきます。
「おにぃ……さん?」
きっと『ておさん』と聞き間違えたのだろうと、朝日も平静を装って二人の元に向かいました。アイラはとても親しげにテオへ笑顔を向けています。彼もそれに応えて笑顔でした。
アイラがテオの袖をチョンと握って言います。
「お兄さんに会えて良かった」
今度は聞き間違えなどではありません。確かにお兄さんと呼んでいました。
(アイラにそんな設定あったっけ⁉)
朝日の心境は複雑でした。テオはメイベールの婚約者です。しかも中の二人は元々兄妹なのです。この強い関係に割って入れる人なんていないと考えていました。それはアイラに対してもです。昨日、明星はバラを送ってくれました。安心できるようにと。彼女は照れながらも本当に枕元へそのバラを置いて眠ったのです。彼はずっと側にいてくれると信じて。
メイベールが睨んでいるのに気づきテオが説明します。
「昨日、仲良くなってな。なんだ、その、お兄さんと呼びたいんだってさ」
「ダメですか?」
アイラが不安そうにテオの事を見ます。彼は恥ずかしがったのか苦笑いしています。
朝日は感情を表に出さないよう、抑えた声で言いました。
「アイラさん。お兄さんでは他の方が聞いたら誤解されますわよ?」
「そう、ですね……すいませんでした。これからは人目のない所だけで呼ぶようにします」
(そうじゃない!)
今、飲み物を持っていたら確実にアイラへ向けてぶちまけていたところです。紅茶を飲む前で助かりました。
「とりあえず座ろう」
テオに促されテーブルに向かいます。1年生と2年生で込み合う場所とは違い、案内されたそこは空いていました。上級生が座る場所なのです。しかも一角だけは誰も座っていません。暗黙の了解で、上位貴族が座る場所と決まっているのでした。
テオが座ると、すぐさまアイラが横に腰掛けます。朝日もアイラと反対側の隣に座りました。挟まれたテオがまた苦笑いしています。
そこへジャスパーがやってきました。
「テオ!自分で取りに行かないばかりか、女性に囲まれてズルじゃないか」
「すまない。ここの事はよく分からなくて、」
「キミは結局いままでティータイムに顔を出さなかったからな。今回だけだぞ?」
ジャスパーはメイベールの向かいに腰を下ろすと、持ってきたビスケットを差し出しました。
「お食べ」
ティータイムがあると聞いた時は楽しみにしていた朝日も、今は気分を害され食べる気にはなれません。けれど、ジャスパーがニコニコと見てくるので、食べないわけにはいきませんでした。
「いただきます。お兄様」
ビスケットと言われていましたが、色々あるようです。主に焼き菓子で、ビスケットにクッキー、スコーンなど。スコーンはナッツの入ったものやドライフルーツの入ったものもあるようです。
クッキーを一枚摘まみ頬張ります。バターの風味が効いていて美味しいものでした。テオとアイラも摘まみ始めました。
食べているところへルイスも現れました。トレイにティーセットを乗せて持っています。
「皇太子である私に給仕をさせるのか?」
メイベールはすぐさま立ち上がりました。
「申し訳ありません!殿下」
ルイスは笑っています。
「冗談だよ。メイベール。座ってくれ。紅茶を淹れてあげよう」
殿下に紅茶を淹れさせるなど、本当にあり得ない事です。しかしここは魔法学校。入学してしまえば貴族であろうと、自分の事は自分でするのがルールです。
出された紅茶を遠慮なく飲んでいいものか、3人は固まりました。ジャスパーが見かねてティーカップを手に取り飲み始めます。
「ルイス、キミも5年かけてようやく普通に飲める紅茶が出せるようになったね。来年ここを卒業したら、うちの給仕として雇ってあげようか?」
フフ、と笑ってルイスが返します。
「紅茶の味が分からないような主人に仕えるつもりはないよ」
メイベールも紅茶をすすります。
「美味しいですわ。殿下」
「ありがとう。メイベールは誰かと違って紅茶の味が分かるんだね。キミになら給仕として喜んで雇われよう」
ティータイムは和やかに過ぎました。腹を立てていた朝日も小腹が満たされたことで落ち着きを取り戻しました。
カラーン、カラーン、カラーン、
授業再開の鐘が鳴り、みな教室へ戻っていきます。テオがメイベールとアイラを呼び止めました。
「二人とも仲良くな」
「言われなくても……」
「はい。」
アイラは笑顔でした。
彼女のテオに対する好感度が上がっているのだから、当初の思惑通りです。こうなるようにと進めていたはずなのに、やっぱり朝日の心の中にはモヤモヤとしたモノが残っていました。
「次は昼休みに、またここで会おう」
「はい。」
「……」
朝日はなにも応えませんでした。




