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2-7

ルイスが言いました。

「アイラ譲、一曲踊らないか?」

その様子を見ていた明星が朝日を肘で突っつきます。(おい、いいのか?)その目はそう言っています。朝日は彼の腕に手を回して制止させ、頷き返しました(大丈夫)と。

目の前のアイラはダンスの誘いに対して首を横に振るのみです。ルイスが微笑んで言います。

「緊張しているのかな?大丈夫。踊っているうちに体もほぐれるよ」

彼女は小声で応えました。

「私、踊れません」


誘われたダンスを断る場合、気遣いというものが必要です。ダンスでは男が誘うのがマナーですが、それに気をよくし例え踊りたくない相手でも、上から目線であしらっては品位を疑われます。踊り疲れただとか、曲が好みでないといった風に、相手を傷つけない言葉を選ばなければいけません。

今アイラが見せたそれは、まったく気遣いがありませんでした。失礼だと思われれば、二度とこういう場に招待される事は無いでしょう。社交界から締め出されるのは貴族がもっとも恐れるところであります。しかも誘った相手は皇太子殿下。周りで聞き耳を立てていた皆が冷や汗をかくほど、緊張が走りました。


『このっ無礼者!』

メイベールが持っていた飲み物をアイラに向けてぶちまける……それがゲームの展開です。朝日はこの瞬間を待っていました。けれど、手が震えて出来ません。

(アタシには無理だよぉー!)

悪役令嬢モノでは水をかけるのはよくあるネタです。朝日もアナドリでそれを見て、あるあると笑っていました。しかし、ここはゲームの世界に似た現実そのもの。公衆の面前でそんな事をすれば相手はトラウマになるのは確実。笑って済ませられるゲームではないのです。


「おにぃ、ごめん……」

朝日は弱々しく謝りました。彼は気付いていました。妹の手が震えているのを。

「大丈夫だ」

兄のつぶやきに朝日は安心しました。このイベントが上手くいかなくても次がある。そう考えると緊張していた体からは力が抜け、その拍子に膝がガクッと崩れました。

「あっ!」


バシャ!


はずみで持っていた飲み物がアイラの方へ飛び散ります。しかし素早く身を挺してルイスがかばい、彼の衣装を濡らしてしまいました。

「ご、ごめんなさい!」

慌てるメイベールをルイスがなだめます。

「大丈夫だよ。どうってことない」

少し離れていたところで控えていたルイスの近侍が駆け寄り、衣装を拭きながら言います。

「お着替えがありますので、行きましょう」

「そうか。……少し失礼する」

ルイスが去っていくと、すかさずジャスパーが声を張り上げて言いました。

「我が愚妹が失礼した。みな、ダンスを楽しんでくれ」

再びダンスは再開されました。


朝日はあっけに取られていました。

(これって強制力なの?)

自分には飲み物をぶちまける気など無かったのに、結果的にはそうなってしまった。しかし、彼女の知る展開とは少し違っています。ゲームではドレスを汚されたアイラが着替えてくると言って、涙を浮かべ会場から飛び出していくのです。それを追った相手が誰もいないところで、二人きりのダンスを踊ります。上手く踊れないアイラをリードすることで最初の小さなきっかけが生まれる……このイベントは誰が追いかけてくるのかアイラ役の自分が選択できます。選択するという事はそのルートを進めようという意思の表れなので、重要なのは朝日も分かっていました。


放心状態の朝日に明星が呼びかけます。

「おい、」

彼の視線はテラスへ出ていくアイラに向けられていました。ハッとして朝日は言いました。

「おにぃ、追って」

明星は頷くとテラスへと向かいました。

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