13-7
庭を横切り、石垣を抜けました。とたん今日も風は強く吹き付けます。二人は乱れる髪も気にしず、飛ばされそうになる竿を握りしめ崖先まで来ました。
「ねえ!崖になってるけど!コレって糸!海まで届くかなぁ?」
朝日は崖下を覗き込みながら言いました。眼下はすぐ海という訳ではなく、わずかながら陸地も見えます。ここから糸を垂らしても届くようには思えません。
「え!なんですかっ?」
アイラが聞き返します。強風なので声を張り上げないと聞こえないのです。
「こ!こ!で!できるのっ?」
アイラが指を差しました。その方向には崖伝いに降りて行ける階段があるようです。
崩れ落ちそうな階段とも呼べない階段を降りて行くと、下に見えていた小さな浜に辿り着きました。周囲は崖に囲まれており、ちょっとしたプライベートビーチ感覚です。けれど残念なのは、その陸地が砂ではなく大小様々な砂利で出来ていること。歩きにくくてしょうがありません。
(わー……うみだー……)
朝日には目の前に広がる海を見ても感動はありませんでした。なにせ風が強く吹き、波は大荒れなのですから。巻き上げられた細かい海水が顔に吹きつけ、ヒリヒリと痛い気がします。それに寒くてしょうがありませんし、お腹も減っていて気力が湧きません。
嘆いていてもしょうがないと、アイラがまずお手本に竿を振り始めました。しかし、何度も何度も一生懸命に振るものの、強風に押し戻されて糸が上手く飛ばないようです。
朝日はその様子をダンゴムシの様に丸まって見ている事しか出来ませんでした。
「そうだ!」
アイラが何か思いついたらしく笑顔を向けます。
「釣りを愉しみに来たんじゃないんですよ!魚が獲れればいいんです!」
彼女は竿を置きました。
「メイベールさん!危ないかもしれないので!シールドを張ってください!」
何をするのか分からないけど大声を張り上げて聞き返す気力も無いので、朝日は言われた通りシールドを張りました。
彼女が海に向かって手を掲げます。
「いきます!……ハッ!」
バーン!と、大きな音を立てアイラの放った雷魔法が海に落ちました。
……
暫く海を眺めていたアイラですが、首をかしげました。
「あれ?おかしいな……もう一度いきます!サンダーボルト!」
ババーーーーン!と、さっきよりも威力の大きな雷が海に落ちました。
……
海を見つめていたアイラですが、やっぱり首をかしげます。
「あれー?おっかしいなー」
朝日は隣に行き聞きました。
「何してるの?」
「雷で魚を痺れさせれば浮いてくると思ったんですけど、威力が弱いのかな?」
「おお!あったまイイ!最初の一撃に驚いて魚が逃げたのかもしれないよ?もっと広範囲に出来ない?」
「やってみます」
朝日はまた離れて見守りました。
アイラが呪文の詠唱を始めます。
「一時、その瞬きの内に、始まりと終わりが告げられる……」
まだ簡易的な詠唱しか出来ない彼女の足元には、小さな魔法陣が1つだけ現れました。
「……雷鳴よとどろけ!サンダーボルト!」
ババババババババーーーーーーーーーーーーンッ‼
体が震えるほどの爆音とともに幾筋もの雷が落ち、青白く光った閃光が海の上を駆け抜けて行きました。
(うひゃーぁ‼すごい威力!さすが聖女様)
朝日はあまりの光景に目が覚めました。
「何やってんだいっ!」
雷の様な怒鳴り声に二人は振り向きます。いつの間にかグランダが立っていました。
「あ、その、釣りを……」
「なんだってっ?ハッキリ言いなっ!」
「魚釣りですっ!」
「アレのどこが釣りだって言うんだい!」
「雷で魚を痺れさせようと、」
「あんな馬鹿みたいに雷落として!アンタ達クジラでも捕ろうって言うのかい?ええ?」
グランダは自分のこめかみを人差し指でコツコツと、さし示しました。
「もっと頭使いな!カミナリ落としたぐらいで魚が獲れるなら、嵐の日に海の魚は全部感電死しちまうだろうさ!電気は水面で拡散して水中には届かないんだよ!まったく!」
どうやら雷が落ちたのは二人の頭の上だったようです。
ふてくされた朝日はボソッといいました。
「だったらどうしろっていうの……こんな所で」
「これだから……まずはウサギを捕まえな!」
グランダはそれだけ言い放つと、パッと消えてしまいました。




