13-6
(うー……さむいー)
やっぱり寒くて目が覚めた朝日。頭に被っていたコートは寝ているうちにズレていました。鼻先は息を吸っても感覚がありません。肺に入った空気がとても冷たく、吐いた息は白く立ち登りました。
隣のアイラは朝日の首元に顔をうずめるようにして寒さをしのいでいます。
(恥ずかしい……)
首筋に寝息がかかってこそばゆいのでした。
部屋は明るくなっています。朝です。けれど、気持ちのいい目覚めではありません。体は寝心地の悪いベッドのせいで痛いし、寒くて夜中に何度も目が覚めた為に、頭はボーっとするのでスッキリしないのです。
スッキリしないのは天気も同じようです。寝ながら見上げた窓の空は、今日も寒々しい薄曇りでした。
その灰色の空を眺めながらこれからどうしようか考えていると、目の前が急に暗くなりました。ヌッと現れた何かによって窓が覆われたのです!
(ヒッ!)
寝ているため逆さに見えているその何かの目と朝日の目が合いました。そのとたん彼女は大声を上げて叫びました。
「キャーーーーーーーーッ!」
飛び起きると、窓の外のナニかはのそのそと歩いて行きます。
「どーしたんですかぁ?」
アイラも目をこすりながら起きました。
朝日がおそるおそる窓に近づき外を確かめます。人の、おそらく男性の後ろ姿が見えました。
「覗かれてた!」
コートだけ急いで羽織り、外に飛び出しました。その男は向かいの家へと入って行きます。入れ違いにグランダが出てきて言いました。
「朝っぱらから騒がしいねぇ」
家の中の男に対して朝日は指を差しました。
「そ、その人っ!」
「オリバーだよ。ここの雑用を任せてる」
ガタイの良い男が振り向くと、被っていた帽子をちょいと上げてみせます。白髪頭のオリバーはそのまま奥に行ってしまうのでした。
「分からないことがあったらヤツに聞くといい。ナル!ミルクは持ってきてくれたかい?紅茶を淹れとくれ」
グランダはなぜかオリバーをナルと呼びます。そして、朝日の事など放っておいて扉を閉めてしまうのでした。
(なんなの……騒いでるアタシが子供みたいじゃない)
悔しいので朝日も何事も無かったかのように、部屋に戻りました。
アイラが不思議そうに聞きます。
「何かあったんですか?」
「ううん、なにも。なんか、使用人の男の人がいるから分からない事は聞けって」
服を着直して二人はテーブルに着きました。お腹がとても減っています。食事は自分達で用意しろと言っていたので、待っていても朝食が運ばれてくるとは思えませんでした。けれど、食材が無いので料理が出来るわけありません。
「どうしましょう?」
「しょうがないから聞いてみる?」
二人は向かいの家へ行きドアをノックしました。出て来てくれたのはオリバーです。
「あの、何か食べ物が欲しいのだけれど」
ガタイの良い男の後ろから、鼻で笑うのが聞こえました。
「ハッ!アンタら乞食かい?」
カチンときたので、女王だか何だか知らないと、朝日も言い返します。
「だって、いきなり連れてこられて何も持ってないし!あの部屋、何も無いし!」
「食べ物ならいくらでもあるだろう?」
オリバーがのっそり動きました。それをグランダが止めます。
「ナル、アンタはやらなくていい。」
彼はピタリと動きを止めました。
入口からでもグランダが椅子に座り、くつろいでいるのが見えます。彼女は優雅に紅茶を飲んでいる最中で、スコーンをこれ見よがしに取ると、それを半分に割ってテーブルの上で澄ましている猫にあげるのでした。そして残りの半分を足元で尻尾を振って待っている犬に与えたのです。
「いつまでそこに突っ立ってんだい?寒いだろうが!」
オリバーが顎をしゃくって出る様にと促します。二人は何も言えず外に出ました。なぜか彼も一緒に出てきて手招きします。
「え?なに?」
二人を家の脇に連れてくると、そこにある小さな納屋の戸を開けました。
「使え。」
一言いっただけで彼はまた家の中へ戻って行ってしまいました。かなり寡黙な性格の様です。
「なに?言ってくれなきゃわかんないじゃん!」
アイラが納屋の中を指さします。
「竿がありますよ!」
「えー、自分で釣れって?もー……ねぇ、釣りしたことある?」
「はい。父と子供の頃に少しだけ」
「アタシはやった事ないや」
とりあえず竿を手に取ります。
「エサはどうするの?虫とか捕まえるんじゃないの?」
「あ、コレ、毛針になってますよ。エサは必要ないです」
「そうなの?良かった。虫触るの絶対ムリ」
二人は文句を言いながらも海へ向かうのでした。




