13-4
水平線に太陽が沈んでいきます。
二人は無言で粗末な小屋へと引き返しました。なにより吹き付ける海風は冷たく、その場で立っている事も我慢できません。
体を震わせながら、とりあえずテーブルに着きました。
「あー、寒い。お腹も減ったし」
「何か温かいもの食べたいですね」
テーブルの上にはグランダが残していったクッキーがあります。ポットも残されていたので中を覗いてみましたが、入っていたのは冷たいミルク。何の飾り気のないカップも2つ置いてあり、二人はミルクとクッキーを分け合って食べました。
「食事は自分達で用意しろって言ってたけど、いきなり連れてこられたんだから何も用意できる訳ないじゃん!……うー、さむい」
冷たいミルクは口に含む度、体の底から震えが来ます。クッキーは大ぶりでバターの風味が効いていて美味しいものでしたが、サクサクとした食感は口の水分を奪い、ミルクなしでは食べにくいのです。
すぐ食べ終えた朝日は言いました。
「ねぇ、この部屋に何があるかだけでも見ておこう?」
「そうですね。もうすぐ日も暮れますし、」
薄暗くなり始めた部屋を二人で見て回ります。部屋の北側にはキッチンらしきものがありました。けれど朝日にはソコをどう使っていいのかよく分かりません。キッチンには流しがあるものの、水道がないのです。
(蛇口はどこ?)
隣にはカマドらしきものもあります。ここで火を焚ければ少しは部屋も暖かくなったのでしょうが、肝心の薪がありません。そもそも火を起こしたことのない朝日には扱いは難しそうです。
アイラはキャビネットを開いて中を確認していました。
「調理道具などは揃っているみたいですよ」
「アイラさんって料理出来る?」
「少しくらいなら」
(独りじゃなくて助かったぁ)
今まで食事は全て明星が用意してくれていたので、朝日は料理が全くできません。
部屋の南側の窓辺にはベッドが二つ置かれています。それも粗末なのが一目で分かりました。おそらく素人によって手作りされたものらしく、木の足組は不格好です。マットを押してみましたが固くて、板の上に毛布が何枚か敷かれているだけの様です。
「ここで寝るの?」
「みたいですね、」
朝日が日本で住んでいたアパートは古くはありましたが、畳の部屋があったので布団敷きでの寝心地は悪くはありませんでした。板だけの上で寝るのは、きっと体が痛くなるだろうなと想像がつきます。
他に目に付く物と言えば、西の壁に扉が1つありました。開けてみると、小さな部屋になっています。手洗い場があるので、おそらく洗面所だろうということは分かりました。けれど、ここにも水道はないのです。
「なんでここって蛇口が無いの?」
「きっと井戸水を汲んで運んでこないといけないんじゃないですかね。教会の暮らしもそうでしたよ」
「あ~ぁ、井戸水ね……」
魔法学校では水道が使えたので不便はありませんでした。それは恵まれた環境だったのだと、改めて気付かされます。
更に洗面所の奥には扉があります。家の構造的には外に飛び出している格好のそこはトイレでした。朝日はそのトイレを見て絶句しました。
(水洗じゃない⁉)
一段高くなった所に板が渡してあり、その板に穴があけられているのです。たぶんコレが便座だとは分かりましたが、ただの板があるだけで、その下は穴が深く掘られている様でした。その暗い穴からは冷たくなった鼻でも分かる、ツーンとした匂いが立ち登ってきます。
バタン!
朝日は思わず扉を閉めていました。
「ウソでしょ……」
アイラも苦笑いするばかりです。
意気消沈する二人はまたテーブルに着きました。部屋はほとんど暗くなっています。
「ここって魔道具もないんだね……」
天井を見上げても魔道具の照明はありません。アイラが不慣れな魔法で指先にライトをつけてくれました。魔力が安定しない為にその光はか細く、気持ちは益々心細くなっていく気がします。
「今日はもう寝ませんか?こうしていても寒いだけですし、毛布にくるまっていれば少しは暖かいかも」
「そうだね。何かできる訳じゃないもんね。明日、明るくなってからどうするか考えよう」




