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2-3

用意されていた食事のコーナーには手軽に摘まめるサンドイッチなどが並んでいました。

(パーティーって言うから、もっと豪華なんだと思った)

朝日は少しがっかりしたようです。初めて出席する本物のパーティーに期待を抱いていたのでしょう。今日のパーティーの目的は料理ではなく交流なのです。続々と入場してくる新入生たちはそれぞれの両親、在学中の兄、姉に付き添われ、貴族同士でお互いの家を賛辞し合う挨拶が始まっています。ルイスとジャスパーもあっという間に、挨拶に訪れる人達に囲まれてしまいました。

この場は貴族にとって人脈を広げる事が重要なのであって、食事は二の次なのです。


そんな事情を知らない朝日はサンドイッチを頬張りはじめました。明星も数日ぶりに会う妹を優しく見守っています。

「ちゃんと食べてたか?」

「うん。マナーとか大変だけどね」

「あぁ、分かる」

メイベールのケステル家もテオのベオルマ家も貴族五爵の第一位である公爵であり、ブリトン王国の中でも指折りの大貴族です。お近づきになりたい貴族は多いのですが、婚約者同士仲良く食事をとる姿は微笑ましく、また身分も高いので気を遣って誰も挨拶に声をかける事が出来ません。


近くに誰もいないことを確認し、朝日は声を潜めて言いました。

「おにぃ、準備はいい?」

「いいも何も……」

明星は小さくため息を吐いてから、飲み物を手に取り口にしました。

「アイラと仲良くなるのが、おにぃの役目なんだからね?」

「何が起きるとか、何をすればいいのとか、まだこっちは何も知らないんだぞ?」

「うん。これから説明するから」


朝日はサンドイッチを食べきって言いました。

「主人公のアイラには、これから学園生活で色んなイベントが発生する。そのイベントを通して一番仲良くなった相手と結ばれる事になるの」

朝日は貴族達に囲まれるルイスとジャスパーに視線を移しました。

「警戒しないといけないのはあの二人。おにぃはあの二人より先にアイラとのイベントを発生させることに集中して」

明星が不安そうに聞きます。

「イベントさえ発生させれば、この前言っていた強制力?だかいうもので勝手に進むんだよな?」

「そのはずだよ。おにぃも経験したでしょ?体が勝手に動くの」

「ああ、変な気分だった」

「それに任せていれば何とかなるはず」

「任せればいいと言ったって、何が起こるのかぐらい分からないのか?」

「うん……分かってるよ。このパーティーでまず最初のイベントが起きる。この後ダンスが始まるんだけど、そこでアイラはおにぃ達3人のうち誰かと踊ることになる。これは個別イベントじゃないから、あの二人との競争だよ?おにぃがアイラと確実に踊ってね」


話しているうちに楽団による演奏は優雅な調べから、心躍るアップテンポな音楽へと変わりました。誰かが声を張り上げます。

「さぁ!ダンスの時間だ」

この魔法学校の伝統でダンスの最初は生徒達が皆一緒になって踊るのです。在校生が目に付く新入生の手を次々に取り、ダンスの輪の中に引っ張り込んでいきます。手を取られた方は半ば無理やりに引きずられていきます。皆、その様子が可笑しくて笑いに溢れました。ここの卒業生である貴族達は自分の時もそうだったと、懐かしむのです。身分など、今だけは関係ありません。手当たり次第に引っ張り込まれます。中には嫌がって手を後ろに隠す子もいますが、そういうのは二人掛かりで両脇を抱えられ、足が浮いたまま運ばれて行きます。


(あ、やばっ!)

朝日は明星の腕にしがみつきました。それを察して彼は妹を連れて人混みを縫い、ダンスの中心から離れていきます。

会場から抜け出し、誰もいないテラスまで逃げて来たところで彼女が聞きました。

「おにぃ、学校でダンスやった?」

「ああ、中学の授業でやったな。けどあんなの貴族が踊るモノとは全く違うぞ」


日本の中学では2012年からダンスの授業が必修となりました。けれど、ダンスと言っても創作ダンスやヒップホップのリズムに合わせた現代のダンスを指しているので、貴族が踊るような優美なものではありません。

それだから明星は社交ダンスを踊れませんし、朝日は中学で不登校になってしまったので、皆で踊るという経験すらありません。


「少し踊ってみるか?」

明星はそう言うと、返事を待たず朝日の腰に手を回しグッと体を引き寄せました。

「ちょ!おにぃ⁉」

「大丈夫だ」

手を握り構えて、明星がリードします。

「1・2・3、、、1・2・3」

耳元で兄の声を聞きながら、朝日は頭がボーっとしていくのを感じていました。一定のリズムで繰り返されるその声に安心感の様なものを感じつつ、体は熱いくらいに火照っているのです。

「1・2・3、、、どうだ?なかなか上手いだろう?今日ダンスがあると聞いてたから、一応踊れるように屋敷で教えてもらったんだ」

足を踏まない様に下ばかり見ていた朝日は顔を上げました。兄が優しく微笑みかけてくれます。

「練習は必要なかったみたいだけどな。体が覚えているのか、勝手に動いてくれる」

朝日もまったく踊ろうとはしていません。体が勝手に動いてくれました。そもそもボーっとしすぎて意識がはっきりしません。ただ兄の顔を見つめ、力強くリードしてくれるその動きに身を任せていました。

「1・2・3、、、最後だ、いくぞ?」

掛け声とともに、朝日の体は華麗に一回転しました。そして引き戻され兄の胸の中へと収まりました。まるで自分が本当のお姫様になったかのようです。


「……」

「……」


二人は見つめ合いました。ダンスで少し息の上がった兄の吐息が首筋にかかります。ゾクゾクと痺れるような感覚に、彼女の体は全く動けません。だから気付いていませんでした。二人の事を睨んでいる視線に。

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