79話 再始動
「あっ! 龍様!!」
「今日こそ逃さないから!」
「わたしの足からは逃げられませんよ!」
翌日。
龍之介はグラウンドに向かおうとしたが――すぐに3人に取り囲まれてしまった。
ミオ、アイリ、ノゾミの3人である。
「おお? ど、どうしたんだ?」
龍之介が戸惑う。
彼は普通に練習に向かおうとしていただけなのだが――どうしてここまで過剰に反応されるのだろうか?
「龍さん、今日こそはわたくしたちと一緒に練習してくださいまし!」
「某の未熟さ故、龍殿に無理をさせてしまったことは痛恨の極み。何卒、汚名返上の機会を頂きたいでござる!」
ユイとセツナまでもが合流し、龍之介に懇願した。
「えっ? いや……何の話だ?」
困惑する龍之介だが、5人は彼の答えを聞こうとはしない。
彼はそのままグラウンドへ連行されてしまう。
「龍様! 私と練習しましょう!!」
「ボクとだよ!」
「わたしとです!」
「ここはバッテリー間の連携が先ですわ! つまり、わたくしとです!」
「否! 最も新参の某に指導していただくことが有効でござろう!」
5人がそれぞれ、自分を選んでと詰め寄る。
「ちょ、ちょっと待ってくれ……! どうして皆、そんなに必死なんだ!?」
「それはもちろん、龍様がご不在で寂しかったからです!」
ミオがズバッと切り出す。
「ボクも……龍之介と練習したいと思ってるよ」
「某も、まだ未熟者故……」
「龍先輩、わたしを捨てないで……」
「黙っていなくなられたら……寂しいですわ……」
アイリ、セツナ、ノゾミ、ユイも続ける。
(そ、そうだったのか……)
龍之介は心の中で反省した。
5人を傷つけるつもりなどなかった。
先日の試合で負けたのは、自分の体力不足が最大の要因だと認識している。
そのため、試合後には皆との反省会もそこそこに、ひたすらに走り込みをしていたのだ。
今思えば、コミュニケーション不足は否めない。
「みんな、すまない……。俺が間違っていた。これからは、いつも通り皆で練習していこう」
そう言って、深々と頭を下げる龍之介。
5人はホッと胸を撫で下ろした。
そして、ユイが口を開く。
「それでは龍さん! これから一緒に練習を……」
「いや……まだダメだ!」
「……ええっ!? ど、どうしてですか!?」
ユイが問いかけると、龍之介は首を横に振った。
「練習の前に、現状の戦力を確認しておこうぜ。今のチーム状況をしっかりと把握しておかないと、有効な練習メニューを組めないからな」
「た、確かにそうですね……」
ミオが納得する。
桃色青春高校野球部の成長速度は、本当に凄まじい。
他の部活動でレギュラークラスだった面々であり、野球の練習をすればする程にグングンと成長しているのだ。
また、龍之介との間に存在する忠誠、友愛、感謝、信頼、共感などといった要素も、皆の成長速度を引き上げている。
「では、現状の把握に移ろう。ロボ1号。恒例のやつを頼む。俺たちの成長を言葉で表現してくれ。そして、現状の能力もな」
『ピピッ。承知しました。スキャンを始めます……』
龍之介から指示を受けたロボ1号が、6人の体をスキャンしていく。
彼らは、その分析結果を静かに待つのだった。