77話 強敵スキルトレーニング・不知火-1
「ふっ……! ふっ……!! ふんっ……!!」
桃色青春高校が大火熱血高校に敗北してから、一週間程が経過した。
11月も末になり、寒さが厳しさを増している。
「はぁ……はぁ……! くそっ! ダメだ……!!」
試合に負けてからというもの、龍之介は多くの時間をランニングに費やしている。
腕や肩を安静にして疲労を取り除くと共に、課題である体力不足を克服するためだ。
だが、その効果はイマイチのようである。
彼は今も、1人で川沿いを走り続けていた。
「はっ……! はあっ……!!」
(こんなんじゃ、次の大会でもまた同じことの繰り返しになる……!!)
そんなことを考えた、その時だった。
「……龍之介」
龍之介を呼ぶ声が聞こえた。
彼は立ち止まり、声のした方に視線を向けると――そこには不知火が立っていた。
「不知火? お前がどうしてここに……」
「どうしてって……ここは大火熱血高校の近くだぜ? ランニングコースに使っているんだ」
「そうなのか?」
「てかよ、お前こそどうしたんだ? 桃色青春高校からここまで、かなり離れてるだろ」
「ああ……。それなんだがな……」
龍之介は不知火に自分がここにいる理由を話した。
次の大会に向けて、今自分にできることをしているということを。
「……なるほどなぁ」
不知火は今聞いた話を頭で整理する。
そして、2人はしばらく黙ったまま沈黙していたが――やがて不知火が再び口を開いた。
「体力不足なんざ、気にする必要ないんじゃないか? あの日は特別に暑かったし、こっちには控え投手がたくさんいたんだし……。接戦になったら、こっちが有利なのは分かっていたことだ」
不知火はハッキリと言い放った。
龍之介は何も言い返さずに、じっと彼女を見る。
「あ……悪い。変なこと言っちまったな……。アタシだって、最後まで龍之介と投げ合いたかったんだけどよ……。卑怯な勝ち方をして申し訳ないと思ってる」
彼の沈黙に圧されたのか、不知火が謝罪した。
そんな彼に、龍之介は言う。
「いや……別に責めているわけじゃないんだ。卑怯でも何でもない。試合は総合力で決めるものだし、控え投手も立派な戦力だ。俺たちのチームだって、次の大会までにはリリーフピッチャーを育てるつもりさ。……だがな、できれば俺が完投したいという気持ちもあるんだ」
龍之介の口調は力強かった。
彼もまた、悔しく思っていたのだ。
「だから今は練習しかないと思ってる。走り込みでも筋力トレーニングでもいい。とにかくできることは全てやっておきたいんだ。ただ……」
「ただ?」
「体力はついてきているんだが、何かが足りないような気がしているんだ。不知火みたいに、暑さ自体を楽しんだり、ある程度疲れると逆に調子を上げたり……。そんな精神的な技術みたいなものが、俺には足りないような気がするんだ」
「精神的な技術か……」
「そうだ。そうしないと、俺はいつまで経っても半人前だ……。皆を野球部に誘ったエース兼部長として、もっと強くなりたい」
「……」
龍之介の絞り出すような言葉を聞いて、不知火はしばし考える。
そして――何かを決意したように口を開いた。