表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/171

72話 2回の裏 全力プレイ

『2回の裏、大火熱血高校の攻撃は、4番・ファースト・熱海君』


「うおぉおぉっ! 行くぜぇえええ!!」


 4番打者の熱海が打席に入る。

 彼女は大きな声で叫び、素振りを行った後に構える。


(ふぅ……。暑苦しい連中だな」


 龍之介は内心で愚痴をこぼす。

 今日は、11月とは思えないほど気温が高い。

 それに加え、対戦相手まで野球熱に侵されている。

 否が応でも、体感気温は増していくばかりだった。


『ストライクッ! バッターアウトッ!!』


 そんなことを考えているうちに、熱海を三振に仕留めた。

 ツーボール・ツーストライクからファウルを挟み、合計で6球を費やした。


(勢いばかりに見せかけて、意外に選球眼も良いんだよな。しかも、粘り強さもあるし……)


 龍之介は相手打線をそう評価する。

 明らかに、1回戦や2回戦の打線とは異なる。

 そもそも、3回戦で当たるには少し早いように感じる打線だ。

 龍之介は組み合わせ運の悪さを呪う。


(……まぁいい。頑張って勝ち進んでいけば、春の甲子園に出場できる機会も巡ってくるだろう。そうなれば、冬休みあたりに強化合宿をするなんてのもいいな)


 龍之介は前向きに考える。

 そして、相手打者に向き直った。


『5番・ライト・灯谷君』


「まだまだぁっ!! 次こそ出塁やるぜぇええ!!」


 灯谷がフルスイングする。

 5球目を打ったそれは、本来ならばただのライトフライだった。

 だが――


「くっ! 野球ロボではギリ追いつけない当たりか。これでワンナウト・ランナー1塁……むっ!?」


 ライト方向に上がったフライ性の打球が、ギリギリで右翼手の前に落ちてヒットになった。

 それはいい。

 しかし、バッターランナーの灯谷はそんな微妙な当たりでも走塁の手を抜かず、2塁に向かっていたのだ。


「アイリ!!」


「任せて!」


 龍之介は慌てて、遊撃手のアイリに声をかける。

 アイリは右翼手からの送球を受け、滑り込んでくるランナーにタッチプレイを行う。


「だっしゃあああぁあああっ!!!」


『セーフ!!』


 灯谷選手が雄叫びを上げながら滑り込む。

 アイリの的確なタッチも実らず、彼女は2塁に到達してしまった。


『6番・ピッチャー・不知火君』


 次のバッターは不知火。

 ピンチである。

 龍之介は心の中で悪態をつく。


(やはり野球ロボの穴が大きいな……。まぁ部員不足でも試合ができるのは野球ロボのおかげだし、練習でも役立ってくれているので不満はないのだが……。やはり、選手力という点では野球ロボは人間選手には及ばない。それが露呈してしまった)


 龍之介は冷静に、そして客観的に判断を下す。


(だが、嘆いていても仕方がない。今はこのピンチを凌ぐしかない)


 龍之介が不知火に向き直る。

 不知火は、龍之介の瞳を見据えている。


「っしゃああぁ! まずは1点を返させてもらおうかぁっ!!」


 不知火が吠える。

 明らかにタイムリーヒットを狙っているように見えた。

 龍之介は臆さずに投球するが、彼はある異変に気付く。


(これは……!)


 不知火はバットを寝かせて構えた。

 明らかに、バントの構えである。


(ここで送りバント? いや、違う!)


 龍之介はすぐに考えを改める。

 これは送りバントではない。


「セーフティバントか!!」


 龍之介の額に汗が滲む。

 ワンアウト・ランナー2塁の状況から、6番バッターがセーフティバント。

 あまり見ない光景ではあるが、あり得ないほどでもない。

 そして実際、それは有効だった。

 不知火がバントした打球が1塁方向に転がる。


「ミオ! ボールを拾って俺にトスだ!!」


「はいっ!!」


 野球経験の浅い者が多い桃色青春高校ではあるが、龍之介の主導の元で連携プレーは十分に練習している。

 だが――


「うおおおぉおっ!! どらあああああぁあああっ!!!」


『セーフ!』


 ミオがボールを拾い、すぐに龍之介が待つ1塁に送球した。

 しかし、不知火の足の方が速い。

 バッターランナーセーフ。

 そして、2塁ランナーも3塁に進んでいる。


(しまったな……。いきなり搦め手を使ってくるとは、予想外だった)


 龍之介が心の中で舌打ちする。

 こうして、桃色青春高校はピンチを迎えることになったのだった。



     123456789 計

―――――――――――――――――

桃色青春|30       |3|

大火熱血|0        |0|

―――――――――――――――――

2回裏、大火熱血高校の攻撃中

ワンアウト・ランナー1塁3塁

バッター:7番・セカンド・赤月




【高校野球】2099年東京都秋大会雑談スレ31【ダークホース桃色青春高校】


600:代走名無し@野球大好きオジサン

大火熱血高校、点を返していくチャンスだな


601:代走名無し@野球大好きオジサン

5番の灯谷選手が2塁に行っていたのが大きいよな

あれはファインプレーだった


602:代走名無し@野球大好きオジサン

>>601

そうか?

普通のチームが相手だったら、ただのライトフライじゃん


603:代走名無し@野球大好きオジサン

アイリ選手のタッチプレイは的確だったし、その後のミオ選手だってセーフティバントの処理は上手かった

大火熱血高校の気迫が一枚上手だったか

アウト性の当たりでも手を抜かないのは感心する


604:代走名無し@野球大好きオジサン

桃色青春高校にとって不幸中の幸いは、これから下位打線だってことだな

何とか無失点……あるいは1失点ぐらいで切り抜けたいところだろう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ