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66話 3回戦の日

「暑い……。どうして今日はこんなに暑いんだ……?」


 龍之介が嘆く。

 2099年度の秋季大会は、既に3回戦まで進んでいた。


 球児たちの負担を減らすため、日程には余裕がある。

 そのため、今はもう11月だ。

 暑さよりも寒さが身に染みる季節である。

 しかし、快晴の空から降り注ぐ日差しは、まるで真夏のように暑かった。

 桃色青春高校野球部の一同は、汗だくになりながら試合会場に向かっていく。


「本当に暑いですね。私は暑いのも平気ですが……」


「龍之介が心配だよね。こういうのって、ピッチャーの方が体力を使うって言うし……」


 ミオとアイリが語る。

 彼女たちは、龍之介の体調を心配しているのだ。


「ああ……。確かに、投手が最も体力を使うな」


 龍之介が同意する。

 野球において、最も大切で重要で負担の大きいポジションはどこか?

 綺麗事を言うなら、『どこのポジションも大切だ』ということになるだろう。

 しかし、現実的にはピッチャーが最も体力を消耗する。

 日程に余裕を設けられた上でのトーナメント形式ならば、エースピッチャーの影響度は大きい。


「龍先輩、大変だったら打たせてもいいですからね? わたしだって、センターの守備をがんばりますから!」


「そうですわね。無理に三振を狙うよりも、打たせて取るスタイルの方が体力を温存できますわ」


 ユイとユイナが提案してくる。

 彼女たちは、龍之介を慮っていた。


「いや、そういうわけにもいかないだろ?」


 龍之介は首を横に振る。

 そして、言葉を続けた。


「『打たせて取る』なんてのは幻想さ。打球を前に飛ばされた時点で、出塁される確率は高まる。ポテンヒット、ボテボテの内野安打、イレギュラーバウンド、太陽の日差しの眩しさ、様々な要因でランナーは塁に出る」


 龍之介が語る。

 事実として、『打たせて取る』という考え方はやや時代遅れである。

 プロ野球において、『奪三振率は低いが長期間エースとして君臨した』というようなピッチャーはほぼいない。

 プロ野球におけるワンシーズン、あるいは高校野球における一大会ぐらいではたまに存在するが……。

 実力というよりは『バカスカ打たれたが野手正面の当たりが多く結果オーライの形で抑えられた』というようなケースがほとんどだ。

 つまり、『打たせて取る』というのは非常に危険な考え方なのである。


「某に投手が務まれば、龍殿が体力を気にする必要もなかったのでござるが……」


「いやいや、新戦力のセツナにそこまでの負担をかけるわけにはいかない。それに、他の面々にもな」


 桃色青春高校野球部の人間選手は、6人に達している。

 発足時に比べると、戦力が充実してきていると言っていいだろう。

 だが、まだまだ穴はある。


 まず、いまだに野球ロボが務めている3ポジション。

 セカンド、サード、ライトだ。

 これらを人間選手に置き換えることができれば、守備力が増す。

 その上、打線にも厚みが出るだろう。

 この穴を埋めることが、今後の桃色青春高校野球部の成長に直結する。


 さらに言えば、投手が龍之介1人しかいないことも弱点だ。

 日程に余裕がある現代の大会において、致命的な弱点というほどではない。

 だが、龍之介の消耗具合によっては試合終盤に崩れてしまう可能性もあるだろう。


「私も肩は鍛えていますが……。まだまだコントロールが悪くて……」


「ボクも少し投手練習をしたけど、やっぱりマウンドは慣れないなぁ……」


 ミオとアイリが呟く。

 2人とも、龍之介についで送球力が高いメンバーである。

 だが、野手としての送球と投手としてのピッチングでは求められるものが違う。

 バッティングや守備に慣れることで精一杯の今、投手練習まで本格的にさせるのは負担が大きすぎる。

 そう龍之介は考えていた。


「ま、いいさ。今日がここまで暑いのは想定外だったが、文句を言っても仕方ない。俺たちは俺らのできる範囲でやるだけだ」


 龍之介はそう言う。

 そして、球場に到着した。

 そこで一同が目にしたのは――


「いいかっ!? お前らっ!! 今日は3回戦だ!!」


「「押忍ッ!!」」


「相手は無名の桃色青春高校! だが、ここまで上がってきたからにはその実力に疑いの余地はなし!!」


「「押忍ッ!!」」


「我ら【大火熱血高校】野球部は、3回戦も勝利する! そして、宿敵【スターライト学園】への雪辱に向けて突き進むのみだッ!!」


「「押忍ッ!!」」


「【大火熱血高校】の魂を見せ付けろッッ!!!」


「「押忍ッ!!!」」


 非常に暑苦しい集団だった。

 鬼軍曹のような風格の女性キャプテンが、部員を鼓舞している。

 そして、それを取り巻くように100人ほどの部員が集まっていた。


「試合前の恒例行事、行くぞぉおおおおっ!! 熱血力で勝て! 超火力で勝て! 運動力で勝て! 意志力で勝て!!」


「「押忍ッ!! 灼熱力で勝つ! 燃焼力で勝つ! 精神力で勝つ! 根性力で勝つ! 集中力で勝つ! 連帯力で勝つ! 炎上力で勝つ! 火花力で勝つ! 気合力で勝つ! 大火力で勝つ!! 熱血力で勝つ!!!」


 暑苦しい……。

 というか、暑苦しいどころではない。

 野球部全体が灼熱の炎に包まれているかのような熱気である。


(これが3回戦の相手……大火熱血高校か……)


 龍之介は、その暑苦しさに圧倒される。

 こうして、3回戦開始の時間が近づいてくるのだった。

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