表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/171

38話 ユイとの一騎打ち

 龍之介がユイから強烈なサーブを顔面に受けた、その数日後――。


「うふふ。わたくしの鉄壁の守備を突破できるでしょうか?」


「くっ……! やっぱりユイ先輩は手強いです……!!」


 桃色青春高校の第一体育館では、今日もバレーボール部の練習が行なわれている。

 ユイは、バレー部のエースだ。

 彼女が練習を引っ張ることで、部全体が活気に満ちているように見える。


「ふーむ……。やはりユイの動きは素晴らしいな……」


 龍之介が呟く。

 彼は、あの日からユイに執心している。

 野球部の練習を一通り終えた後は、彼女をスカウトするべくずっと偵察しているのだ。


「特筆するべきは、あのサーブか……。間違いなく肩の筋肉が発達している。ボールを受け止める能力も素晴らしい。加えて、一見すると貧乳にも見えるあの胸部も実は……。うん、ユイは文句なしだ」


 龍之介は満足気に頷く。

 すると、そんな彼の背後から1人の女子生徒が現れた。


「あっ! 今日も来ているわね! この覗き魔!!」


「ユイ先輩のストーカーめ! 来るなって言っているでしょう!!」


 ユイのチームメイトである女子生徒が叫ぶ。

 彼女たちから龍之介への心証はあまり良くないようだ。


「おいおい、人聞きの悪いことを言うな。俺は別に覗きをしたわけじゃない」


「ふ、ふん! そんな言い逃れをしても無駄なんだから!!」


「そうよ! 早く、私たちのユイ先輩を諦めなさい!!」


 女子生徒が龍之介の腕を引っ張る。

 しかし、彼は腐っても中学時代の野球大会の覇者。

 簡単に引きずられたりはしない。


「こら! あなたたち、何をしているのかしら!?」


 と、そこにユイの怒声が飛ぶ。

 彼女はチームメイトを押し退けると、龍之介にずんずんと歩み寄った。


「またあなたですの? ずいぶんと諦めが悪いようですわね。わたくし、あなたに興味はありませんの」


「いいや、君は俺のことを好きになるはずだ。俺と一緒に甲子園を目指そうぜ!」


 龍之介はユイに向かって右手を差し出す。

 しかし、彼女はそれを払い除けた。


「はぁ……。まったく懲りない人ですわね。お断りと言っているでしょう?」


「ユイ先輩の言う通りよ! いい加減にしないと、本当に通報するわよ!?」


 ユイのチームメイトが龍之介を睨みつける。

 そんな彼女たちに向かって、ユイは笑顔を向けた。


「みなさん、安心してくださいまし。この人の相手をするのはわたくしだけで十分ですわ」


「先輩……」


「この人の相手をするですって……?」


 ユイの言葉に、チームメイトたちが言葉を失う。

 一方の龍之介は、目を輝かせていた。


「お……おお! さすがはユイだぜ!! 俺の期待通りに動いてくれるな!!!」


「勘違いしないでくださいな。わたくしは、あなたの心を完膚なきまでにへし折る策を思いついただけですわ」


 ユイが龍之介を睨みつける。

 彼女の背後には、静かながらも鬼神の如きオーラが漂っていた。


「策……だと……? いったい何をする気だ?」


「ふふ……それはですわね……」


 ユイは微笑むと、右手の人差し指を龍之介に突きつける。

 そして――


「わたくしと、バレーボールで一騎打ちをしなさい!!」


 そう言い放った。


「バレーボールで……一騎打ちだと!?」


 ユイの宣言に、龍之介は顔を強張らせる。

 そんな彼に対して、彼女は不敵に笑った。


「ええ、そうですわ! 1対1の変則バレーで10点先取です。あなたがわたくしに勝てたら、野球部の臨時メンバーになるのを考えてさしあげますわ」


「な、なんだと!?」


 ユイからの突然の提案に、龍之介は動揺した。

 そんな彼に畳みかけるように、ユイが続ける。


「あら? お嫌でしたら別に構いませんわよ? それならそれで、二度とわたくしの視界に入らないでくださいな」


「嫌とは言っていない! いいぜ! その勝負、受けて立つ!!」


「うふふ……。あなたの威勢の良さだけは認めて差し上げますわ」


 ユイが不敵な笑みを浮かべる。

 そして、少々の準備の後、さっそく彼女のバレーボールによる勝負が始まった。


「来い! ユイ!!」


「ええ! 全力で叩き潰してあげますわ!!」


 ユイは強烈なサーブを放った。

 その速度はかなり速い。

 だが――


「へへっ! さすがに、何度も顔面に受けてたまるかよ!!」


 龍之介は見事にボールを弾き返した。

 彼は既に2度も強烈なサーブを顔面に受けているが、あれは不意打ちの要素も大きかった。

 万全の態勢でコートに立っている状況なら、サーブを返すことは可能である。


「まだですわっ!!」


「は、速――へぶっ!?」


 龍之介が返した甘いボールに、ユイが強烈なスパイクを叩き込む。

 そのボールは、やはりと言うべきか龍之介の顔面に吸い込まれていった。


「うふふ……。バレーボール部の練習を邪魔したのが運の尽きでしたわね。野球部員や恋人役は、他の部やクラスの方たちを当たってくださいまし」


 ユイが冷たい視線で龍之介を見下ろす。

 そんな彼女を、龍之介は鼻から流れる血を拭いながら見上げた。


「はぁ……はぁ……。ま、まだだ……! まだ俺はやられていないぞ……!!」


「この1球で実力の差が分からなかったのですか? 諦めの悪い殿方は嫌われますわよ?」


 ユイが冷たい視線を向けてくる。

 そんな彼女の態度に、龍之介はニヤリと笑った。


「ふ……ふふ……。諦めないのが俺のポリシーでな。諦めの悪さなら、俺は誰にも負けない自信があるぜ」


「……いいでしょう。では、何度でも顔面に打ち込んで差し上げます! 顔が変形しても後悔なさらないことですね!!」


 ユイがボールを構える。

 こうして、2人の一騎打ちは続いていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ