表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/171

22話 組み合わせ抽選会

「ふぅ……。少し緊張してきたな……」


 龍之介が呟く。

 彼は1人で抽選会場に来ていた。

 他の部員たちは、グラウンドで練習に励んでいる。

 身体能力は一流でも野球経験の浅い彼女たちは、少しの練習時間でも大いに成長できる。

 秋大会が迫った今、組み合わせ抽選よりも練習を優先するのは合理的な判断と言えるだろう。


「さて……。これだけのチームが地区予選を戦うことになるんだな……」


 龍之介はそう呟く。

 抽選会場には、軽く100人を超える高校生たちが集まっていた。


「――あら? そこにいるのは、龍之介じゃない!」


「ん?」


 そんな龍之介に、聞き覚えのある声がかけられる。

 龍之介がそちらを見ると、そこには1人の少女がいた。


「ハルカじゃないか。お前も抽選会に来てたのか」


「ええ、もちろんよ! 今年の秋大会も、優勝は私たち【スターライト学園】がもらうわ!」


 そう言って、元気に笑うハルカ。

 彼女は龍之介の中学時代のチームメイトだ。

 幼なじみでもあり、しかも失恋の相手でもある。


「それで? どうしてあんたがここにいるのよ?」


「もちろん、秋大会に参加するためさ」


 龍之介が当然と言わんばかりにそう答える。

 すると、ハルカは不機嫌そうに顔をしかめた。


「ふんっ! せっかく、私が引導を渡してあげたのに……。あんたも懲りないわね。中学時代の才能なんて、もう終わったって分かるでしょ?」


「いいや、終わっていない。俺だって優勝を目指している。諦めるつもりなんてないさ」


 龍之介とハルカは睨み合う。

 そんな彼らを遠巻きに見つつ、ひそひそと噂する者もいた。


(おい……あの女の子、スターライト学園のエースだろ? 男の方は誰だ?)


(あんな冴えないやつが、なんでスターライト学園のエースと知り合いなんだ……?)


(知らないのかよ。あいつは龍之介とかいう奴だ。中学でチームメイトだったらしいぜ)


 そんな声が聞こえてくる。

 高校2年生にして夏の優勝投手になったハルカの知名度は凄まじいものがある。

 一方の龍之介は、中学生大会の優勝投手だ。

 凄いのは間違いないが、高校野球に比べて注目度が低い上、既に2年前の過去の話となってしまっている。

 そのため、知名度はさほどでもない。


「ふん……。まぁいいわ。どうせ、練習試合と同じ結果に終わるだけよ」


 ハルカが鼻で笑うようにそう言う。

 そして、彼女は去っていった。


「……まったくあいつは。相変わらずだな」


 龍之介は、ハルカの背中を眺めながら呆れたように呟く。

 周囲の人々はそのやり取り興味深そうに見ていた。

 そうこうしている内に、抽選の準備が終わり――。


『これより、秋大会の組み合わせ抽選会を行います! まずは――』


 会場内に、マイクを通した声が響き渡る。

 いよいよ抽選会が始まった。


『【スターライト学園】! Aブロックの1番!!』


『【雷神高校】! Aブロックの8番!!』


『【天空大附属高校】! Aブロックの19番!!』


『【ビクトリー・ハイスクール】! Bブロックの11番!!』


『【桃色青春高校】! Bブロックの1番!!』


 次々と高校名が呼ばれ、トーナメント表に振り分けられていく。

 偶然だが、ハルカ率いるスターライト学園とは真逆のブロックだった。

 これならば、決勝戦まで当たることはない。

 それに、決勝戦で必ずしも勝つ必要さえなかった。

 この地方大会から甲子園には2つの高校が出場できるからだ。

 つまり、ベストツーに残ればそれで十分だった。


「よし……。理想的な結果だ。やはり俺は、くじ運がいい」


 龍之介が満足げな笑みを浮かべる。

 退学を免れるために理事長と交わした約束は、「来年の夏までに甲子園で優勝すること」だ。

 夏大会に限ったことではない。

 秋大会でベストツーに入り、春の甲子園への出場権を手に入れる。

 そうすれば、夏を待たずに優勝できるチャンスはあった。


「おやおやwwwこれはこれは、拙者たちとの1回戦は楽勝でござるかwww」


「ん?」


 龍之介が輝かしい未来を夢想していると、特徴的な言葉遣いの言葉が聞こえてくる。

 振り向いてみると、そこには――。


「ぶふぉおwww拙者たち【大草原高校】と当たるとは、くじ運がないでござるなぁwww」


「お前は……?」


 そこにいたのは、小太りの女子生徒だった。

 ぐるぐるメガネに、ボサボサの髪。

 いかにもオタクっぽい風貌である。


 大草原高校といえば、地区内でもド田舎に位置する高校だ。

 雄大な草原が広がる場所だが、整備されていないためスポーツが盛んとは言えない。

 自然に関連した勉学に力を入れている他、インターネットを用いた学習にも力を入れている高校だ。


「その口ぶりだと、お前は大草原高校の部員らしいな。俺は桃色青春高校の龍之介だ」


「拙者は大草原高校の2年生、草刃エルと申すwww中学の覇者である龍之介殿のことは存じているでござるよwww」


「そうか。ま、お手柔らかに頼むぜ」


「ぶふぉおwwwそうはいかんでござるwww噂じゃ肩を壊したとかイップスになったとかwww」


「いや……」


 龍之介は否定の言葉を口にしようとした。

 別に肩を壊したわけでもないし、イップスになったわけでもない。

 高校で野球を辞めていたのは、失恋でショックを受けていたからだ。


「かつての覇者をフルボッコにするのが楽しみでござるwwwこれは、ネットの掲示板も盛り上がること間違いなしでござるなぁwww」


 オタク少女エルは、笑いながらそう答えた。

 どうやら、龍之介のことを完全に舐めているらしい。

 いくら中学時代の覇者とはいえ、進学先は野球の無名校で、1年以上の間まともな活動実績がなかったのだ。

 侮られるのも仕方のないことだろう。


「……」


 龍之介は反論しようとしたが、やめた。

 試合でボコボコにすればいいだけの話だ。

 こうして、龍之介率いる【桃色青春高校】の1回戦の相手は【大草原高校】に決まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ