表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/171

171話 弓道部のサユ-1

 弓道場の引き戸は半分だけ開いていて、冬の空気が薄い墨のように溜まっていた。 

 中へ一歩踏み入れると、鼻先を掠めるのは畳の乾いた匂い。

 空間を切り取るように灯された小さな明かりが、微かに揺れている。


 場内には人の気配があるはずなのに、不思議と時間が止まっているようだった。

 呼吸すら憚られる静寂の中、張り詰めた弓の弦が、ぴんと空気を裂いた。

 的に矢が刺さる。

 刺さった矢は、黒い輪と白い輪の境い目で微かに震えていた。


 次の一手を番える少女の横顔は、まるで石膏のように静かで、冷たい。

 吐く息さえ白くならず、ただその目だけが、射るべき先を貫いていた。


 龍之介は敷居の外で立ち止まった。

 視線の先にあるものを壊さぬように。

 音を立てることさえ躊躇われた。


「……見学? なら、靴はそっち。土を持ち込まないで」


 よく通る声だった。

 彼女は龍之介を振り返ることなく、自然な動作で肘を持ち上げ、頬に弦を寄せた。

 弓の腹が軋むたび、彼女の肩甲骨が静かに広がり、背中の筋が美しく浮き上がる。

 重力さえ一時忘れるかのような集中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ