168話 帰国と女子中学生-5
「春の選抜大会、頑張れよな」
龍之介が不意に言った。
その声には、余計な感情を交えず、ただ真っ直ぐな想いだけが込められていた。
「当然よ。でも……いいの?」
「何がだ?」
「大舞台での経験は、間違いなくチームを強化するわ。春大会でスターライト学園が活躍すれば、夏大会でのあんたたちの勝算はますます下がるわよ」
その言葉は、分析であり、忠告でもあり――どこかで、挑発のようでもあった。
だが、龍之介は少しも動じない。
むしろ、楽しそうに笑った。
「へっ、そんなこと気にすんなよ。お前たちが強くなるなら、俺たちはそれ以上に強くなるだけだ」
その言葉に嘘はない。
虚勢でもない。
ただ、まっすぐな自信と、仲間への信頼と、自分自身の誇りがあった。
「ふふ……あんたはそういう男だったわね」
ハルカもまた、静かに笑った。
その笑みには、かつてと今を繋ぐ温かさが宿っていた。
次の駅で、電車は停まる。
互いに降りる準備をしながら、最後にもう一度だけ目を合わせた。
――また、グラウンドで。
言葉にせずとも、その約束は、瞳の奥でしっかりと交わされていた。
ドアが開き、冷たい風がふたりの間をすり抜けていく。
それでも、その背中には、確かに熱が残っていた――。