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166話 帰国と女子中学生-3
「あんまり効いてないな……」
龍之介が眉をひそめ、わずかに姿勢を沈める。
獲物を狙うような目が、次の一手を見据えていた。
「なら、俺の番だ」
低く呟いたその瞬間、彼の右腕が鋭く振り抜かれた。
硬球は一度地面に跳ねて角度を変え――男の股間を、鋭角に貫いた。
「ぐっ……ああっ!?」
悲鳴とともに崩れ落ちる男。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、構内に現れた警備ロボがスムーズに男を拘束する。
『対象確保。周囲の安全を確認しました』
電子音声が事務的に告げる中、まばらにいた乗客たちがどよめきを上げる。
その波をかきわけるように、あの少女が駆け寄ってきた。
細い肩を震わせ、頬を紅潮させながら、彼の元へと一直線に駆け寄ってくる。
「あ、あの、本当にありがとうございましたっ! お名前、教えてください……っ!」
息を切らしながら、彼女は懸命に言葉をつむいだ。
その眼差しには、驚きと敬意と、そして何よりも、熱がこもっていた。
龍之介は、ほんの一瞬だけ目を細めて少女を見つめ、微笑む。