165話 帰国と女子中学生-2
「試合のこと?」
「ああ。ルビーとの勝負も、お前と一時的とはいえチームメイトになったのも……全部が濃すぎた」
彼の言葉には、充実感や懐かしさが混ざっていた。
中学時代、チームメイトだった二人。
けれど、今は別々の高校でエースナンバーを背負い、次の夏大会ではぶつかり合う可能性の高いライバルだ。
そんな関係でありながら、こうして自然体で会話できることに、どこか不思議な感覚を覚えていた。
ホームに電車が滑り込んでくる。
金属の車輪がレールを削るような音とともに、冷たい風が吹き抜ける。
そして、扉が開いたその瞬間――
ドンッ。
龍之介の肩にぶつかるように、ひとりの男が走り抜けた。
「あっ……! 誰かっ、その人を捕まえて! カバンを盗まれたの!」
甲高い悲鳴が構内に響いた。
制服姿の少女――おそらくは女子中学生――が必死に追いかけようとしていたが、スピードが違いすぎた。
龍之介は即座にバッグのファスナーを開け、硬球を取り出す。
隣では、ハルカがすでに投球動作に入っていた。
「くらいなさいっ!」
「ぐえっ!? く、くそっ……!」
鋭く腕を振り抜いたハルカの一球は、男の背中を正確に捉えた。
だが、男はよろめきつつも、そのまま走り続ける。