162話 日本 vs オーストラリア -5
(この子、野球が好きなんだな)
龍之介はふと、心の中で呟いた。
オーストラリアは、野球後進国とは言わないまでも、日本やアメリカに比べれば環境が整っているとは言いがたい。
女子選手への偏見や機会の不平等は、まだ少し残っている。
きっと彼女は、それらすべてと闘ってきたのだ。
その肩で。
(だったら俺は――その覚悟に、真っ直ぐ応える)
ラストボール。
ルビーは真ん中高めにストレートを“置きにきた”。
「甘い!」
龍之介のバットが唸りを上げる。
白球が快音とともに青空を裂いた。
右中間――。
フェンスを超えた。
『龍之介選手、ホームランです!』
実況ロボの声が響く。
これで6対2。
その後は点数が動かず、そのまま試合終了。
日本チームの勝利となった。
――だが、その場にいた誰もが、勝敗以上の何かを見たような気がしていた。
それは、技術でも戦術でもない。
心と心の激突。
ぶつかり合った先に生まれた、確かな“絆”だった。
龍之介は、整列したオーストラリアの選手たちに向かって一歩一歩近づく。
差し出される手。
握手を交わすその一瞬一瞬に、言葉では言い尽くせない感情が流れる。
そこにはもう、わだかまりはなかった。
勝者と敗者という線引きを超えて、お互いの実力を認め合う純粋な敬意がそこにあった。
お互いの実力を確認しあった今、これからの交流合宿に何の憂いもない。