160話 日本 vs オーストラリア -3
「女子? いや、それは今どき珍しくないとしても……子ども?」
驚愕と戸惑いの入り混じった声が、思わず漏れる。
グラウンドに立つその少女は、迷いの一切ない足取りでマウンドへ向かっていた。
その背には、夕日を浴びて輝く長い赤髪が風に揺れ、きらきらと煌めいていた。
ユニフォームは明らかに大きすぎた。
肩も袖もダボついていて、着せられているという印象が強い。
それでも、彼女の一歩一歩には、自信と誇りが宿っていた。
まっすぐにキャッチャーを見据える真紅の瞳には、迷いの影一つない。
未だあどけなさを残した顔つきとは裏腹に、立ち姿は堂々としており、そこにいるだけで空気が変わるようだった。
「ピッチャー交代、ルビー」
アナウンスが響く。
――彼女はオーストラリアと日本のハーフだ。
この高校の系列校に通う中学生。
本来は試合を見学するだけの立場である。
だが、彼女の強い希望によって登板に至ったのだ。
「あははっ! ミーの実力……世に知らしめるときが来たデース!!」
「……コイツ」
龍之介はマウンド上の少女を見つめた。
ハイテンションで軽い台詞とは裏腹に、只者ではない雰囲気があった。
遠目にも分かる――“肩が違う”。