156話 顔合わせ-3
「知らなくても当然さ! 野球部が再建されて、まだ間もないからな! だが、いずれ俺は日本を代表するエースになる! この交流合宿で一番のピッチャーになるのは、その第一歩だ!!」
龍之介の声は真っ直ぐで、熱を帯びていた。
「なんだと!? ジャパニーズの分際で!」
「調子に乗るなよ! 俺は日本人が大嫌いだから容赦はしねぇぞ!」
「いつまで野球先進国を気取ってやがる! 俺たちを甘く見るんじゃねぇ!!」
次々と怒号を上げる選手たち。
2100年の今、オーストラリアは、アメリカや日本に匹敵するほどの野球人気を誇っている。
新たな野球大国に生きる彼らには、譲れないプライドがあった。
「おやおや、何か騒がしいね」
声が割って入る。
グラウンドに1人の老人が現れた。
白髪混じりの頭に、よく手入れされたジャージ姿。
落ち着きと迫力を同時に纏うような佇まいに、空気が一瞬で変わる。
「やる気満々なようで、大変結構。……だが、日本球児の諸君は先ほど到着したばかりだ。コンディションは万全ではないだろう」
低く落ち着いた声だったが、その言葉には誰も抗えぬ力があった。
その静謐な一言で、先ほどまでの熱気は霧のように薄れていく。
彼の語る言葉はまるで、長年の経験と洞察を一言一句に込めているようだった。
「そうだな、明後日だ。今日は疲れを癒やし、明日は合同練習。その次の日に、紅白戦といこうじゃないか。お互いの実力を把握しておいた方が、その後の交流合宿にも身が入るだろう?」
その提案に込められた理と情。
穏やかな微笑を浮かべながらも、どこか問答無用の圧をまとっている。
指導者としての確かな威厳、それが言葉以上に周囲を納得させていた。