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146話 ハルカ-1

 新年――。


 電車の揺れに身を任せながら、少女は膝の上で手を組んだ。車窓の向こうには街の朝靄が広がっている。買い物や初詣に向かう人が多いのだろうか。車内はどこか浮き足立った空気に包まれていたが、彼女の心は晴れなかった。


 少女の名前はハルカ。スターライト学園のエースにして4番バッターだ。


 彼女はいつもより早起きして、マフラーを巻いて初詣に向かった。凍えるような空気を頬に受けても、頭の中はずっともやがかかっているようだった。誰かの笑い声が遠くで弾けるたび、それが自分とは無関係な幸福の音に聞こえて、胸の奥が少しだけきゅっとなった。


 ――仲直り、したいな。


 心の奥から浮かび上がったその願いは、まるで雪の上にこぼれた一滴のインクのように、じわじわと胸の内を染めていく。思い出すのは、中学時代のチームメイト、龍之介の顔。ベンチで肩を並べていた日々。球場の端で交わした冗談。いずれも、今の彼女には無縁のものだ。


「素直になれますように。仲直りできますように……」


 神社で手を合わせたとき、ふと唇からこぼれた願いは、あまりに小さく、でも自分にとっては切実だった。人混みの中で押し合いながらも、まっすぐに頭を下げた。拍手の音に紛れて、心の声が届いてくれればと願った。

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