140話 合宿帰りの夜行バス-2
「バスでじっとしているの、ボクはちょっと苦手なんだよね……」
不満げに口を尖らせたのはアイリだった。いつもエネルギッシュに動き回る彼女にとって、狭い座席に拘束されるのは辛いらしい。
「わたしもです! 気を紛らわせるため、その場で足踏み運動します!」
元気いっぱいにノゾミが言うが、その発言にすかさずユイが眉をひそめた。
「気持ちは分かりますが、危ないですわよ?」
ユイの冷静な指摘に、ノゾミは「むぅ……」と頬を膨らませつつも、しぶしぶ座り直した。
「ふわぁ~……。某は眠いでござる……」
「むにゃむにゃ……」
セツナが大きなあくびをしながら、隣のマキにもたれかかる。マキもすでに瞼が半分落ちかけており、微かに寝言のようなものを漏らしていた。
この2人は、桃色青春高校野球部の中でも新入りだ。覇闘峯山高校との試合では素晴らしい活躍を見せてくれた。攻守にわたって躍動し、最後まで全力を尽くしただけに、その疲労は相当なものだろう。
「ふぁ……私も少し眠いです。龍様は大丈夫なのですか?」
ミオが柔らかく瞬きをしながら、龍之介を見上げる。その瞳には、眠気と同時に尊敬の色が滲んでいた。