表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

実りある為に

作者: 月河庵出

これは異世界のゴーレム戦士から数百年後のお話です。





 僕は今日もつまならない、と言うか面白くもない人達と歩いている。でも、一緒に帰らないと意地悪されたり、時々殴られたり、もっと酷い事になる。

 でもなあ、僕はまだ良い方だ。今、目の前にいる鈴木君よりはましだ。



「スー、何やってんだよ!俺達のカバンが汚れんだろ?しっかりしろよ!!」



そう。俺の前で鈴木君が竹内君達のカバンを持たされている。カバンの中身は教科書じゃない。石を詰めてわざと重くしたものを持たせているんだ。

 鈴木君は、カバンの重さで限界みたいだ。僕より体の大きい鈴木君がへとへとなんだから僕じゃあ無理だ。


 中学生になっても何も変わらないな。



「・・・」



「おう、なんだ?その反抗的な目は??ああっああ!」



 次の瞬間。鈴木君に蹴りが入る。当然、くたくたの鈴木君は無様に倒れて泥まみれになる。

 その後は、いつも通り。カバンが汚れたと言って鈴木君に殴る蹴るの暴力が始まる。


 僕はそれをただ見つめているだけ。下手に動けば僕が鈴木君の代わりになるだけだ。僕では、鈴木君の様に毎日、持ち堪えられるか分からない。

 だから、黙って見ている。


 その時だ。僕の周りが丸く光ったように見えた。



「・・・あれ?鈴木君は??・・・」



 少しの間、気を失っていたのだろ。周りを見ると舗装もなく土の道の上にいるようだ。近くには木があるし、草原も見える。

 自分を見ると、やはり帰宅途中の恰好のままだ。



「・・・何だ?ここは??・・・取り敢えず、家に帰らなきゃあ。そうだ!スマホだよ・・・」



 カバンの中からスマホを取り出してお母さんに掛けようとしたが電波が圏外だ。電源を入れ直したが変わらない。

 どうやらスマホが壊れているかも知れない。



「クソー、肝心な時にはいつもこれだよな。相変わらず運が悪い」


 

 悪態を吐いていると、何処からかドスン、ドスンと音がする。音がする方を見ると。



「・・・あれって、ロボットだよな・・・すげー、いつの間に技術が進歩したんだよ。まだ、ニュースでもやってないし、スゲーカッコいい」



 ロボットが遠くに見えたが直ぐに近くまで来て止まった。



「坊主、危ないぞ。道を急ぐんだ空けてくれよ」



 驚き過ぎて声も出ない。近くで見るとロボットは自分が住んでいるアパートの2階より少し大きい程度に見える。これが、最新鋭のロボットか。これで、敵をガンガンやっつけるんだろうな。



「おい坊主!邪魔だ。道を開けろ!!」



 はあ?!腹部のハッチが開いて顔を出したのは金髪角刈りで青い目をした白人だった。ここは日本のはずだろう?米軍かよ。米軍が何の許可もなしでロボットで公道を歩いて良いのかよ??



「すみません。僕は英語が良く分からなくて」



「英語?お前、何言ってるんだ??何処の田舎から出て来たのか知らないが、()()()()どけ!」



 日本語がペラペラだな。流石、在日米軍。下士官ともなれば当たり前か。しかし、困ったな。どけるのは良いが、ここが何処かも分からない。そうだ!彼らに付いていけば少なくとも米軍基地には着ける。


 今日の僕は冴えているな。



 道を開けて彼らを通して後を付けて行くのは良いと思ったけど、進む速度が全く違う。僕が走っても少し遅れるくらいになってしまう。



「はあ、はあ・・・やばいな。全く見えなくなっちゃった・・・辺りは暗くなって来たし、どうしよう・・・」



 困って野宿する所を探していると、先程のロボットがズシン、ズシンと言う振動と共に現れた。


 

「全く、俺もとんだ御人好しだぜ。坊主!困ってんなら、俺らの所に来いよ。連れて行くから、この手に乗りな!!」



 ロボットの手か。乗って握り潰されたら、死ぬな。でも、この人、学校でいじめをしている連中とは違う感じがする。ロボットの手の平に乗るか。



 暫く、ロボットの手の平に揺られると、明かりが見えて来た。明かりを見ると、ほっとした。



「おいおい、スターよ。ガキ連れて来たのかよ。どうするんだそれ?」

「また、スターのお節介が始まったよ」

「スター。悪い事は言わねえ。元の所に返してきな」



「うるせい!俺の勝手だ。お前らに、とやかく言われる筋はねえ」



「お前、ジミーの・・・」



「うるせんだよ!今度、ジミーの事を話した奴はただじゃあおかねえ・・・」



 どうやら、僕の事で揉めている様だ。軍隊なら作戦の途中だったかも知れない。隊長は?・・・いないのか??



「皆、静かにしろ!・・・スター後で俺の所へ来い!!」



 なるほど、あの人が隊長か。スターさんだっけ?あの人より背が高く、シルバー色のぼさぼさの髪だな。

 見とれてぼーとしていると、僕と年が変わらないような子が声を掛けてくれた。



「お腹、減ってない?何か食べる??」



「・・・うん。お腹減っているんだ。何かあるの?」



「ああ、早くこっちに来て!こっち、こっち」



 彼に付いていくと、暖かな良い匂いがして来た。皆、並んで食事を貰っているみたいだ。



「早くしないと、無くなっちゃうよ。ここで、トレーとこのボウルとコップを取って・・・そうそう」



 彼の言う通り、トレー等を取って並ぶと、パンとシチューと水を貰えた。夕方から何も食べていないから凄くお腹が減っていて、直ぐに食べたがったが、目の前に座っている彼の事が気になった。

 まだ、名前も聞いていないしな。



「色々とありがとう。僕は黒須(くろす) 優吾(ゆうご)。家名が黒須で、名前が優吾だよ。君は?」



「僕はトニーだよ。宜しくね。クロス・ユーゴかあ。でもさあ、その服に、家名があるって言うのはユーゴは貴族なんでしょう?」



「フフフッ。トニーさあ。アメリカでも家名と言うか苗字くらいあるでしょう?」



「アメリカ?何それ??平民は名前だけだよ。貴族でもないのに家名を名乗るのは重罪だよ」



「・・・へえ、日本では普通なんだけどね。所で、トニーの生まれた国は何処なの?」



「僕の生まれた国?村じゃなくて??・・・国か・・・国はオハラ連邦だよ」



 オハラ連邦?なんだそれ??しかも家名は貴族以外名乗るのは重罪って・・・あのロボットとと言い・・・。

 僕は帰宅途中だった。でも、あの時、僕の周りだけ丸く光っていた。そして、今現在。これって、物語に出てくるような話だろう。



「よし、ステータスオープン!・・・ステータス!」



 でないな。



「ぷっ。ユーゴ、何やってんだよ。ステータスってさあ、表示装置使わないと分からないでしょう?それに分かるのって魔法のレベル程度で、ギルドにあるけど余り利用されていないよなあ」



「はあ?ステータスってさあ、強さや魔力量やスキルなどを数字で表示するやつだよ」



「・・・そんな物があればいいよなあ。しかし、ユーゴは面白い事を考える。ユーゴは何処から来たんだ?この大陸だとオハラ連邦以外の国を聞いた事がないな」



「僕?僕は日本人で国は日本だよ。聞いた事がある??」



「ブ――。ゲホ、ゲホ」



「汚いな」



「ごめんごめん、だってさあ。ユーゴが冗談言うんだもの。日本って初代連邦の議長の伝説の国と言われてるんだぜ。オハラ議長の伝記は凄いよな。人類が魔物によって滅びそうな時にその日本からやって来て、強力な魔道兵士や魔道騎士を開発して人類圏を広げて、敵対する魔族のお姫様と結婚し、魔族と人族との橋渡となり今の連邦の基礎を作ったんだ。男だったら憧れるよな」



「・・・魔道兵士・・・魔道騎士って、トニーの乗っていた奴もその魔道兵士とかいう奴か?」



「はあ?ユーゴは常識がないな。魔道兵士は人間の脳だけを取り出しゴーレムに移植した兵士の事で、第4世代の魔道騎士の初期型を軍が払い下げした物が俺達が乗っているワーカーギアだよ。まあ皆、単にワーカーって言っているけど・・・」



「・・・なるほど・・・」



 何言ってんだか、全く分からないな。



「いや、俺も早くバトルギアに乗って魔物を討伐したいんだけど、いつになるか・・・」



「何言ってるんだ。ワーカーだっけ?あれも凄いじゃないか」



「そうか。ユーゴは冒険者の事を余り知らないんだな。俺が乗っているワーカーは軍の払い下げだけど旧時代の物なんだ。今じゃあゴブリンライフルを防ぐのが精々さあ。今の仕事も運び屋だしね」



「運び屋?」



「俺達はね。魔物狩りをする冒険者の食料や弾薬を運んだり、倒した魔物の素材を採取して運んだりが仕事だよ」



 なるほど。良く物語の中だと冒険者に従って物資や素材を運ぶ仕事があったよな。深い森の中では車両タイプでは付いていけないからか?それとも魔物がかなり強力なのか??

 驚く事ばかりの連続だけど、もう少し情報を集めないと。今の僕は、ご飯にも不自由する。ここは何処にしろ、生活出来るようにしないと死んでしまう。


 

「坊主!飯を食べたか?隊長が呼んでいる。付いてきてくれ」



 なんだろう?

 少し大きなテントに入ると、隊長と呼ばれる人がいた。



「坊主、名前は?」



「僕は、黒須 優吾と言います。でも、貴族ではありません」



「ほう?家名を持つのに貴族でない。お前、変わってるな。それで、坊主は今後どうする予定だ?」



「・・・」



「黙ってちゃあ、分からねえ。話はハッキリ言う、いいな!」



「・・・信じて貰えないかも知れないけど、さっきまでこことは違う別の世界で学生でした。家族も知り合いもいないので困っています」



「こことは違う世界・・・ふーん。それで俺にどうして貰いたい?ただ困っているじゃあ、分からねえよ」



 分からない?確かにそうだ。僕が逆の立場だとこの様な物言いでは困るよな。今一番必要なものは?ご飯を食べて生きて行く事。つまり、お金を稼がなければならないという事だ。



「お金。お金を稼いで生きて行く事です」



「ふーん。金を稼ぐか・・・お前に何が出来る?話を聞くとこの世界の知識どころか常識すら知らねえ。この世界はな。お前の様な奴は1日も経たないうちに死んじまう世界なんだよ。身内でもねえ、お前の面倒を見て何の得があるのか逆にお前に聞きたいな」



 僕・・・背も大きくなく腕力もない。成績も中位だから頭が良い訳でもない。いじめだって、自分がいじめられるのが嫌で見て見ぬ振りをしているヘタレだ。良く考えてみたら、何の為に生きているのだろう?将来だって考えた事もない。取り敢えず、成績に合った高校に行くくらいだ。



「・・・」



「何だ?また、だんまりかよ。お前は自分がどうやって生きて行きたいのかも考えられない屑だ。お前はゴミの様に死ぬのが合ってるよ。スター、お前、とんだゴミを拾って来たな。こんなゴミは直ぐに棄ててこい!」



 屑?俺は屑か??確かに他人が虐められている所を見ても知らない振りをするよ。でも、それは屑なのか???

 ゴミ?俺はゴミなのか??確かに成績も良くなく将来の展望すらない。その事はゴミなのか???


 違うだろう。虐めは虐めている奴が屑なんだ。僕は怖くて見ているだけじゃないか!

 違うだろう。僕より成績の悪い奴は沢山いるんだ。僕はそいつらと比べてマシじゃないか!



「ふっ。お前、今こう思ったんじゃないか?自分は世の中の不都合な部分を見ているだけで当事者じゃあない。自分より他人を下だと勝手に決めつけて、自分はマシな人間だってな。そう言う人間を屑とかゴミって言うんだよ!分かったかゴミ野郎!!」



 クソクソクソクソ、僕だけ何でこんな目に合わなければならないんだ。勝手な事ばかり言って、僕はまだ子供なんだから、大人が手助けしてくれて当たり前じゃないか。

 


「どうした?腹が立ったか??顔が真っ赤だぞ。何か言いたい事でもあるのか?それとも泣いて土下座して助けを乞うのか??ハッキリしろ!」



 本当に意地悪な人だ。こんな知らない土地に置いていかれたら死んでしまう。でも、僕は何も悪くない。悪くないのに何で謝らなければいけないんだ。

 ・・・土下座しないと助けてくれない・・・僕はまだ、死にたくない。



「助けて・・・助けて下さい・・・」



「ふん!繰り返すが、お前に何が出来る?」



 物語に出てくるような異世界物だと算数が出来る人は多くはないはずだ。しかし、あんなロボットじゃなくてギアだっけ。それを量産するだけの技術があるのだから、算数なんて出来て当たり前か。

 どうしよう?良く考えるとこれだと言うものが何もない。



「今は何も出来ません・・・助けて頂ければ必ず、役に立って見せます」



「・・・嘘じゃないな?スター、お前が面倒を見ろ。但し、3カ月経ってもワーカー一つ乗りこなせないのなら、見捨てる。小僧、それで良いな。話は終わりだ」



「ボス。小僧のワーカーは?」



「・・・ジミーの乗っていたのを修理しろ・・・」



「・・・了解です、ボス」



 3か月、たった3カ月で俺はあれに乗り自由に動けるのか?


 次の日には要塞都市ゲレンに着いた。

 

 連れて行かれた所は、巨大な体育館の様な格納庫が複数ある。1つの格納庫に6台のハンガーがあった。見ると破損したワーカーが1機、ハンガーに有ったので、多分、修理が終わり次第、僕が使うワーカーだろう。


 


 あっという間に3カ月を経とうとしている。朝から食事作りのお手伝い、それが終わったらワーカーのメンテナンスのお手伝い。

 残りの時間で実際にワーカーを操縦したり、ワーカー用シミュレーションキャブがあるので、そこで操縦方法を学んでいる。



「ユーゴ!そこだよそこ!!・・・あーあ、また駄目じゃないか」



「トニーさあ、今のは仕方がないよ。無理なものは無理なんだからさ」



「そんな事じゃあ、隊長の試験に受からないよ。それにさあ、今のは実際に遭った事をシミュレートしてるんだ」



「今のが実戦で遭った事・・・冗談じゃない。こんなことが遭っていいのかよ。そういえばジミーと言う人は、これが原因で?」



「シーッ!その話はタブーだよ。特にスターさんの前で言っちゃあダメだ」



 僕の前任者のジミーさんはスターさんが面倒を見て、可愛がっていたらしい。それが無残な死を遂げて今じゃあ、ジミーさんの話をスターさんの前で話すのはNGとの事だ。


 しかし、このシミュレートの内容が酷い。僕らは隊長を頂点に冒険者の荷物や弾薬、魔物の素材を運ぶ運び屋だ。

 そこで、冒険者から倒した魔物から素材を取るように指示が出る。その指示に応じて魔物の素材を取ろうとすると、隠れていた魔物が複数出て来て至近距離から撃たれるというものだ。

 魔物を目視してからの回避は無理だ。冒険者から指示が出て5秒以内に指示に従わないとアウト。勿論、目視だけでセンサーは妨害されていて使えない。

 しかも、冒険者からは近くの敵を呼び寄せない為、発砲は禁止されている。


 本来は、バトルギアに搭乗している冒険者が危険を確認するのが当たり前で、だから、軽量級のワーカーギアが魔物の素材採取で危険に晒される事は余りない。



「トニー、僕思うんだどさ。これって、危険がないか(おとり)にされていないかあ?」



「・・・これは話してはいけない事になっているんだけど。実際、そうなんだ。ジミーは冒険者に囮に使われて・・・」



「それって犯罪だろう?ここは警察に・・・いや警察はない。そうだ衛士に訴えれば良いじゃん」



「・・・無理だよ。実際に囮にされても訴えようがない。魔物が突然現れたと言われればそれで終わりだよ」



「そんな・・・そんな事・・・」



 そうだ。ここに来て3カ月が経とうとしているのに未だに日本での生活が忘れられない。ハンガーに置かれたワーカーでさえ、破壊出来る強力な魔物がウロウロしている世界にも拘らず。

 毎日のお手伝いで、平穏な時を過ごしてすっかり忘れていた。


 この平穏は、危険な運び屋でお金を稼ぎ得たものなんだ。何故?自分の命を賭けてお金を稼がなければならないんだ。もっと安全な仕事があるんじゃないか?こんな危険な事をしてお金を稼ぐのは真平(まっぴら)だ。


 ここを抜け出そう。ここに居たら殺される。でも、何処に行く?トニーの話では身寄りがハッキリした者以外は町では働く所が無いらしい。

 ・・・考えたら当ても無いし、何処も行く所が無い。


 物語りだと冒険者になって、お金を稼いで仲間達と面白可笑しく暮らしていくんだろう。冒険者に成りたくてもバトルギアも無いし、そもそも操縦出来るかも怪しい。兎に角、死にたくない。

 この世界の教育を受けていない非常識の人間をまともに雇う人間がいるとは思えない。


 僕の人生は詰んでいる。


 

「おーい、隊長が呼んでいるぞ!坊主、隊長室へ今すぐ行け!!」



「・・・はい!了解です」



 まずいよ。変な心配しているから現実になるんだ。今、試験をさせられたら、落ちる。落ちたら・・・行く所が無い。

 不味い、部屋についてしまった。


「コンコン、優吾です。入ります」



 部屋に入ると、隊長の他にスターさんがいた。



「おう、来たか。少し早いが、入団テストをこれから行う。俺は来週行く所があるからな」



「えっ!?・・・これからですか?」



「そうだ。シミュレートの結果と実機に乗り森の中の活動でお前の今後を決める。先ずは、森の中だスター用意をしろ!坊主、後はスターの指示に従え」



「了解しました」



 どうにかワーカーを操り森に着くと、スターさんが用意した。色々なコンテナをバックパックに詰め込み、予め決められた森のコースを時間内に走れるか測定される。

 コンテナも色々な大きさがあり考えてバックパックに収納しないと全て収納出来なくなる。コンテナの収納から森のコースのゴールまでの時間が決められているが、森のコースも障害物がわざと置かれていたり足場が悪かったりと、初心者のワーカー乗りがまともに通れるようなコースではない。


「着いたか。タイムはまあ、合格だな。おい!誰かバックパックからコンテナを出して荷物の確認をしろ!!」



「・・・スターさんこのコンテナに入っている物は割れています。あー、こっちも駄目だな・・・」



「えっ!?それって最初から割れていたんじゃあ・・・」



「はあ!?何言ってるだ?・・・お前な。お前の目指す職業は何だ??運び屋だろう。つまりだ、テメーが運ぶ荷物は自分で確認するのが当たり前だろう???それを怠るって言う事は運び屋失格だ」



「でも・・・誰も教えてくれなくて・・・」



「どうしようもねえな。この3カ月お前は何をして来た?ただ飯を食べて生きて来ただけだろう?運び屋で大事な事を怠ったような奴が運び屋に成れる訳がねえ」



「・・・」



 確かに、皆、自分が運ぶ荷物は自分で確認していたけど、これは試験だろう?だから、荷物を渡されれば運ぶしかないじゃないか!

 全く、狡いよ。僕を初めから落とすつもりなんだ。僕だってこんな所にいたい訳じゃない。好きじゃないけど、生きる為に我慢してるんだ。

 それをみんなして虐めて・・・竹内君達と一緒じゃないか。僕が考えていた異世界転移とは全然違う。



「しょうがねえな。お前なあ、これはお前の試験なんだからよ。他人事じゃねえんだ。何かねえのかよ!」



「・・・初めから・・・初めからやらせて下さい!」



「お前、馬鹿じゃねえの?繰り返すが、これはお前の試験なんだよ。何処に試験の結果が不満だからやり直させて欲しいと言われて、ハイ分かりましたと、試験のやり直しを認める馬鹿がいるんだ??甘ったれるのもいい加減にしろ!」



「だったら、どうすればいいんですか?教えて下さい!こんな試験一つで僕の人生を決められたら堪らない!!」



「こんな試験とお前は見くびっているが、お前が言うこんな試験一つ合格できねえ奴が何言ってやがる!・・・まあ、いい。次はシミュレーション試験だ。付いて来い」



 どうすれば、どうすればよい?まずい、まずい、このままじゃあ。助けてよ、みんな、助けてよ!


 ハンガーの片隅に置かれたシミュレーション装置に入れられた。


 クソッ!どうせあのシミュレーションだろう?冒険者のバトルギアが魔物を倒した直前に冒険者から魔物の素材を取るように指示される。でも、指示に従って素材を取ろうとすると別の魔物が隠れていて、そいつに殺される。かといって、冒険者の指示に従わないとライフルの銃口をこちらに向けてくる。いずれにしても僕の死は決まっているんだ。


 下らない。本当に下らないシミュレーションだ。僕を馬鹿にしている。



「小僧、用意は良いか?」



 隊長自ら操作かよ。もう勝手にしやがれ!



 いつもの場面だ。この糞野郎!僕に・・・いや、俺に銃口を向けるんじゃねえ!!どうせシミュレーションなんだ。本当に死ぬ事は無いし、もう不合格は決まっている。


 どうせ死ぬのなら俺に敵対したことを後悔させてやるぜ。


 俺は素材を取りに行くと見せかけて、振り向きざまに冒険者のバトルギアの頭部を思いっきりアームで殴りつけてやった。

 すると、驚いた事にライフルが手から離れて地面に落ちた。俺は当然の如く、ライフルを拾い至近距離からバトルギアのコックピットを目掛け銃弾を一発放った。


 コックピットに穴が開き、そこから真っ赤な血が流れ出て来た。俺は気持ちが悪くなり吐きそうになったが、その時、草むらから例の隠れていた魔物が俺を殺そうと飛び出て来た。


 俺は迷わず、魔物に向かって引き金を引いた。


 狙いをつける暇もない為、弾が無くなるまで打ち続けると、そこには魔物だったものの血と肉の破片が転がっていた。


 俺は、シミュレータ―から飛び出て吐く物が胃液に変わるまで吐き続けた。

 


「・・・合格だ。ユーゴ。お前は暫く、スターの指示で動け。そして、最初の命令だ。自分の吐いたゲロをかたずけろ。以上だ!」



「・・・了解です」





 あの日から俺は変わった。いや、変わらざる負えなかった。俺には何の余裕もない。自分の事で精一杯で他人の事を考える暇もなかった。


 ただ分かった事は、生きる為には敵に負けない強い力を持つ事だ。そして、敵とは魔物だけではない。人間も含まれる。つまり、自分と敵対する奴は全て敵なんだ。


 弱いうちは逃げれば良い。でも、いつかそいつが俺より弱くなれば、その時に決着をつけてやる。

 そんな事を思いつつ過ごしていたある日の事だった。



 今回は、軽量の任務という事でスターさんを頭に俺とトニーとの3人での任務だった。この3人での任務はもう既に慣れたもので、特に問題もなくいつも通り冒険者の支援を行っていた。



「ユーゴよ。あれから1年が経ちお前もそろそろ一人前だ。次の任務からはお前、1人でやってみろ!」



「本当ですか?俺1人で・・・」



「何だ?お前。泣いているのかよ・・・相変わらず、しみったれた奴だな」



「エ―――、ユーゴが一人前って、スターさん俺はどうナンス?俺の方が先輩なんですよ(3カ月ほど)」



「ああ、トミーてめえは、まだ掛かりそうだ。人はな。それぞれ、成長が違うんだよ」



 その時、前方の冒険者の乗るバトルギアのレッグが轟音と共に根元から吹き飛び、その音が合図だったのか草むらからゴブリンどもがわらわらと湧いて来た。



「クソ―、ゴブリンどもめ。調子に乗りやがって!」



「糞野郎が!索敵センサーをケチって粗悪品をつかまされやがって!!お前達、そこを動くなよ。動いたら死ぬぞ」



「トミー!スターさんの指示に従え!!そこを動くんじゃない!!!」



「だってよう、あのままじゃあ、あの倒れている奴は・・・」



「金をケチって死ぬのは勝手だが、巻き添えは御免だぜ。自業自得だ。ほっとけ!今はそれどころじゃねえ。どうやら、地雷原に入っちまった様だ。俺らの金属探知機じゃあ、たかが知れているが、周りの状況を確認するから動くんじゃねえぞ!!」



 スターさんがバックパックから金属探知機を取り出し、辺りを調べ始めたがゴブリンどもは容赦なく迫ってくる。

 どうも、ゴブリン程度の重量では地雷は爆発しないようだ。先に倒れた仲間を他の冒険者の乗るバトルギアが救出しようとしているが、倒れているバトルギアのコックピット目掛けゴブリン共がゴブリンライフルを集中的に打ち込み始めた。


 早くしないとこちらへも奴らが来てしまう。ゴブリンライフルと言えど至近距離から撃たれればワーカーギアのコックピット程度では簡単に穴が開き俺達の命はない。



「クソッ!ユーゴ。お前の右足元に地雷がある。動けば俺達のペラペラの装甲ではお陀仏だ。今、取り除く作業をするからジッとしていろ!!」



「クソッがあ!こんな所で・・・こんな所で・・・ゴブリンにやられて・・・」



 スターさんが作業に取り掛かろうとすると、更にもう1機のバトルギアが吹き飛んだ。3機あった冒険者のバトルギアが残り1機となり、仲間を助けるか退却するかで迷っているようだった。



「スターさん。不味い!バトルギアが残り1機になっちまった。奴は多分、仲間を見捨てて逃げますよ。俺達も退却しないと、やばいですよ!!」


 

 「うるせい!黙ってろ!!」



 ゴブリン共が迫る中、俺の足元の地雷の除去が終わった。



「よし!退却・・・」



 その時、俺の目にはスターさんのコックピットが一発の銃弾によって撃ち抜かれるのが見えた。

 それと同時に銃弾により空けられた穴から血が零れ落ちて来た。



「スターさん!スターさん!!トミー、バックパックを棄ててスターさんの機体を抱えて退却するぞ!!!」



「馬鹿野郎!・・・いいかよく聞け・・・俺達は運び屋だ。運び屋が荷を棄ててどうする?・・・いいか?今から俺のバックパックを外す。それを持っていけ!!」



「スターさん。俺にはそんな事は出来ねえよ。俺は・・・俺は・・・」



「・・・馬鹿野郎。トミーだからお前は半人前なんだよ・・・ユーゴ・・・頼んだ・・・」



「・・・はい」



「ユーゴ!嘘だろう!!・・・スターさんはお前の所為で怪我をしたんだ。それを見捨てるのかよ!!!」



「これは、スターさん・・・いや(かしら)の命だ。トミー従うんだ・・・従うんだよ!」



 俺達がスターさんのバックパックを抱え、退却して暫くすると、ワークギアが爆発するのが見えた。

 スターさんが自爆のスイッチを入れていたんだろう。


「・・・スターさん・・・ユーゴ、これで本当に良かったのか?」



「・・・分からない。分からないけど、俺達の命はスターさんに救われた。そして、命の恩人を見捨てた・・・クソ野郎だという事だ」


 

 そうだ。この1年間、嫌と言うほどチームの誰かが死んでいった。皆、冒険者に憧れて、現実を知りここへやって来る。お金を貯めていつしかバトルギアを買い冒険者に成る事を夢見るんだ。


 だが現実は、厳しい。


 1か月生きれれば、次の1カ月を生き残る事が出来る。1年生きれば次の1年を生き残る事が出来る。経験を積んだ分だけ長生きする事が出来る。

 そうして精々長生きしてワーカー乗りとして暮らすか、無理して死ぬかだ。


 自分の所属している隊しか知らないが、この1年間にバトルギアを手にした者は誰もいない。他も似たようなものだろう。


 スターさんには、生きる為に必要な事を沢山教わった。その中で常に言っていた言葉がある。


『誰が死のうと気にするこたあねえ。だってよ、死ぬ奴が悪いんだからよ。それとな死ぬ奴を良く見ておけ。何が原因でどうやったら死んじまうかだな。似たような事をしなければ死ぬ事はないからな』



「スターさん。死ぬ奴が悪いんだろう・・・悪い・・・クソックソッ、クソだこの世界は!俺もいつかは意味もなく魔物に殺されるのかよ・・・」






「・・・あれ?隊長から通信だ・・・他の冒険者を連れて半日後にここに来るって・・・ユーゴ!聞いているかい?」



「・・・ああ」




 冒険者と隊長達が到着したのは深夜かなり過ぎた頃だ。

 少しの休憩を過ごすと地雷の除去と周辺のゴブリンの始末並びにバトルギアだった物、つまりスクラップを回収していた。


「お前達だけか?」



「「はい」」



「そうか・・・スターは・・・そうか・・・それでは荷はこれだな。二人とも良くやった。少し、休むが良い」



「良くやった?!・・・スターさんが死んだんだぞ!それを良くやった?!ふざけるな!ふざけるなよ!!俺は怪我しているスターさんから荷を預かり、スターさんを見捨てたんだぞ!!!隊長よ!俺は最低の人間なんだ!!・・・それを良くやった・・・笑える、気が狂うほど笑えるよ」



「ユーゴ!隊長が誉めてくれているんだぞ!!お前、何言ってるんだ」



「お前はスターから何を習った?今のお前の言葉を聞いたら死んだスターは浮かばれねえな。スターの死は無駄死にだったという事だ」



「スターさんが無駄死に?ふざけるな!無駄死にな訳ないだろう!!」



「全く、スターも酔狂が過ぎる。こんなどうしようもない奴の為に死ぬなんてよ・・・もういい。ベースに帰ったら改めて話をする」





 俺とトミーは重たい足取りで隊長達の後に付いてベースへ帰還した。


 ベースで俺達を迎えたのは無機質な他の隊員の目だった。俺とトミーは直ぐに隊長室へ呼ばれた。



「おう、来たか。そこに座れ。話と言うのはお前達のこれからだ。スターから頼まれている事が合ってな。いいかよく聞け!スターは孤児院育ちでな。身寄りはいない。だから、奴の貯金の半分は奴が育った孤児院へ寄付する。残りは、ユーゴとトミーに渡すものとする。スターがバトルギアを購入する時の足しにでもしてくれってよ」



「そんな大事な金は貰えませんよ!」



「前の言いたい事は分かるが、これは決定事項だ。そして、お前たち二人は、首だ。明日にでも出て行ってくれ!最後にスターの頼み事だから聞いてやるが、お前達の乗っているワーカーギアをくれてやる。以上だ」



 暫く、俺とトミーは茫然とした。それから、思い出したように隊長に尋ねた。



「首って?ここを首になったら何処に行けばよいというのですか?」



「そんな事は自分達で考えろ!俺にはそこまでする義理がねえ。本当だったら、ワーカーギアだって取り上げてえところだぜ。まあ、精々生きる事を考えるんだな。さあ、いったいった!」



 


 次の日、早朝に俺とトミーは叩き起こされた。



「眠そうだな・・・ワーカーのバックパックに多少の食料を入れておいた。まあ、他の奴に殺されなかっただけは付いてたな。そうだ、言い忘れていた事が有る。俺達のチームから抜けたのは他のチームの奴らも知っている。その原因もな。だから、ほとぼりが冷めるまで、何処も雇っちゃあくれねえ。まあ、生きる事だけを考えて無理しない事だ」



「分かったよ。あんたには世話になったな」



「ユーゴ!どうすんだよ?」



「どうする?どうするって、生きて行くしかねえだろう。トミー、出発だ!」






「(スターよ。これで良かったのか?孤児院を出た時は6人いたんだぜ。今じゃあ、俺一人になっちまった・・・)精々頑張んな。生きてりゃあ、また会う事もあるだろうよ!」








 ユーゴの新たな冒険が始まる。






   

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ