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コロナ禍を生きた人々  作者: 西川悠希
行政対応編
65/75

≪GT編 05話 -怒りの日- (4/5)≫

「だって府の会議の議事録、医療対応の事、私達、気づけなかったじゃない。うがい薬騒動の時に私達、無能知事だと決めつけてそこで終わってしまった。あの時、ちょっと府のホームページに行って知事の仕事ぶりを確かめれば確認できたことが、それすらしなかった」


 打って変わって事務的なリョーコの語り。そこにはショウも返す言葉が無い。


「でも、みさをちゃん、府の隣の(みやこ)生まれだって言ってたから、春先から府の対策会議の存在は知ってたんじゃないですか」


「だとしても、この報告書にはならないんじゃない」


 リョーコは手元のタブレットを掲げる。そこには報告書が映されていた。


「私もこの報告書の後に府の専門家対策会議を見たけど、あの内容から医療対応に絞った形での報告書にはならないわよ」


「そうなんですか」


「だってそうでしょ。一回目はインフルエンザとの対比をからめた新型コロナの症状の話。二回目は統計学、獣医学、ウイルス学を絡めた話。三回目は緊急事態宣言の影響と総括、各国との比較、医療機関の対応の話」


「『医療も資源であって、経済の一部だと思います。例えば府内でバックアップのために今も188の重症ベッド、1065の軽症ベッドを確保していますが、現在、大部分が空床で、実際は使っていない病床に対しても、設備や医慮スタッフの配置が必要で、病院側にとっても経営面、人的確保の面からも、負担になっています。』」


 ショウの割って入って来た言葉に、リョーコは驚く。


「『配置されたスタッフにとっては、もっと患者のために働きたいのに、することがなく、ストレスの増悪、モチベーション低下の原因になっています。できるだけ効率よく医療資源を使うことを考えていただくように希望したい。』」


 パソコンのモニターを見ながら読み上げるショウの発言は、第三回の議事録のものだった。


「俺だって仕事はできるんですよ、これでも」


 読み上げを終えて、ショウは言った。


「一般診療所でもコロナで亡くなったけど遺族の要望で非公表って話もあるし、みんなの顔を立てるってのは難しいものね」


 リョーコは苦笑しながら答えた。


「そして、四回目は夏までの総括と医療機関の対応の話。読んで思ったのは、世間で言われてるほど悲壮感感じないんですよね。大変なのはそうなんだけど、思ってたより明るく話してる」


 四回目の総括をしたのはショウである。


「そうね。実際、自分達の対応が結果として数字で出てきていることを感じているからだろうし、ワクチンが出てくれば終わるってわかってるからでしょうね」


「本当にワクチンがこのコロナ禍の救世主になるんですかね」


「実際に現場で対応している医療機関の人達がそう言ってるじゃない」


「まあ、そりゃそうなんですけど」


「来春になればワクチンが来る。そしたら目に見える結果で出てくるでしょ。今はこの冬をどう乗り越えるか」


「保健所とか対応する医療機関は悲鳴を上げてますけどね。さすがはみさをちゃん、いいところに目をつけましたよ」


 ショウも自分のモニターに映る報告書に視線を移す。


「そこよね。やろうと思えばいくらでも膨らませられるものを、よくここから医療対応に絞れたものだと思うわ」


「もっと褒めてあげてくださいよ」


 なぜかショウがエッヘンと胸を張った。


「ずいぶん、ロリ巨乳にご執心ね」


「そりゃかわいいかわいい後輩ですから。って、ロリ巨乳って」


 面識が無いからとはいえ、あんまりな言いようではないだろうか。


「私、ここは小須戸クンだと思うけどね。パッと見ただけじゃわからないもの。会議資料にも記載がない部分じゃない、医療機関の苦労してる部分。記載があるのは議事録の最後の最後だけ。普通、ここをピックアップしようなんて思わない」


「奴がそこまで気の利いた仕事できますかね」


「じゃあ社会に出てまだ何の実績も無い小娘が、そこまで議事録を読み込めるとでも?」


 対立する二人の意見。


「センパイはずいぶん小須戸を評価してるんですね」


「あなたこそずいぶんこのロリ巨乳を買ってるじゃない」


 二人の主張はもはや私情まみれ。本人達に確かめでもしない限り、決着のつかない終わりなき争い。

 ショウはいったんため息をついた。


「……わかりましたよ。実際に出てきたものはこの報告書なんだし、二人の良いところがでたってことで手打ちにしませんか」


「そうね。お菓子もあるし、いったん休憩しましょうか」


 ショウはリョーコに両手を上げて降参の意思を示し、リョーコも矛を収めたのだった。



 さっくりとした歯触りの外皮と、中にはしっとりとした甘味の餡が入った和菓子。

 外皮の部分はいわゆる麦こがしと呼ばれるものを用いており、それを和菓子としてアレンジしたものということだった。

 ショウはその外皮の風味にかすかにだが覚えがあった。


「これ、最近売り切れになっている麦芽飲料の味と似てますね」


「ああ、外側が麦の味だからじゃない。麦こがしとか食べたことはないの?」


「和菓子系はあんまり食べないんですよね。せんべいとかしょっぱいやつならいいんですけど」


「男の子ねえ」


「でも和菓子って食べてみると、意外に甘くないんですね。素材の味もちゃんとわかるし。甘みももっとべたべたしてると思ってた」


「そりゃきちんとした和菓子屋さんだからね、このお菓子」


「和菓子っていっても色々なんですね。この前のバカみたいに硬いやつもあるし」


「あれはおかしいわよ。かたっぽ硬いだけで味がなかったじゃない」


 二人が話に出したお菓子は、ショウが通販で取り寄せたものであり、素材の味だけのものと砂糖で味付けしてあるものとで二種類あった。素材の味だけのものはリョーコには硬いだけでとても食べられたものではなかった。


「でも自分はあの硬さが良かったですよ。あそこまで硬いと逆にそれが味になるっていう。味付けされてない素朴な味がまたいいもんだなと。自分的にはアハ体験でした」


「アハ体験って……、それいつの言葉よ」


 リョーコは言いながらわずかに噴き出した。

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