≪KK編 06話 -ふたりで朝食を-(2/3)≫
「『民間病院でもコロナ患者を受け入れている病院は、出来るだけ多くの患者を入院させています。ステージⅣとなり、受け入れをさらに要請されましても、まだ受け入れる余地があります。ゾーニングを見直し、一般病床を減らし、スタッフをコロナ病棟に回せば可能と考えています。』」
年末に行われた府の対策協議会の議事録。
話し合われているのは、高齢者対応についての話だった。
この一年、はっきりしてきたことは重症化しやすいのは60代以上の高齢者。そこに集中的に医療資源の割り振りを行い、早期に対応を行えば、死亡者数は低く抑えることができ、通常の医療運営にも影響を及ぼさずにすむ。
「『しかし、二次救急病院だから「コロナ患者を受け入れろ」と言われても、急に対応できない病院が多いと思われます。現在、一般の救急患者を受け入れているだけで精いっぱいという声があります。当直医が発熱患者を診てくれないという声も聞こえてきます。救急病院だからコロナ患者も診よというなら、人材や機器の整備必要なところもあります。未整備であっても対応せよというなら、大阪府、保健所等の強力な支援・指導があり、専門の医師や看護師の支援等が必要です。』」
言うは易し、行うは難し。
「『「このようなときに言うなよ、もっと最初のころに言えよ」ということが、私たちの言い分です。しかし、二次救急病院で協力できる病院がまだまだあるかもしれません。声をかけていきたいと思います。』」
やることはやるし、全力も尽くすが、それでも言いたいこと、言わなければいけないことは言う。
「『陽性患者をホテルや在宅で経過観察することは、感染拡大につながり、よくないと思います。特に、高齢者施設で陽性患者が見つかった時、受け入れ病院が見つからないという理由で、施設で経過観察していくことは反対です。ゾーニングなどの整備もなく、防護具も不足気味で、職員教育も徹底できていないことが多くあります。感染拡大し、クラスターを覚悟せねばなりません。従って、コロナ受入病床を何としても増やさねばなりません。』」
「『まず、「コロナのような感染症は特別な病院で診ればいい」という風潮を改めねばなりません。病院は発熱外来を必置し、専用の待合・トイレの整備も必要です。職員教育も徹底せねばなりません。また、人工呼吸器やエクモを取り扱える病院を増やして欲しいと思います。このように逼迫した状態ではありますが、取り組まねばならない課題も多くあります。』」
「みんな、しんどいですね」
互いに議事録を読み合ったあと、みさをがポツリとつぶやいた。
議事録はまだ4分の1程度。
「『何でも保健所にやってもらう今のやり方は、保健所の機能が壊れてしまいます。感染症は初動操作が遅れると感染拡大につながります。発見時、ハンマーで叩かねばなりません。早く見つけ、早期診断、隔離が必要です。効果的な薬がなく、ワクチンもまだ使えていない現状では、殺菌しかありません。コロナ発生の病室は2~3日消毒が必要と考えています。』」
「『老人保健施設や特別養護老人ホームでコロナが発生すれば、入所者にPCR検査を行い、陽性患者は一刻も早くコロナ受入病院に転医させねばなりません。しかし、一気に多くの患者を受け入れる病院がなく、施設で待機することになります。発生した施設で療養を続けることはクラスター発生の要因となり、危険です。受入病床を確保するため、発生した施設の完全滅菌が必要となっています。』」
二人が読み合いを交代するタイミングももう息が合ったもので、ある程度の分量を読み上げた時点で一呼吸置けば、それが交代の合図となっていた。
「『今マスコミで、「大阪では一般ベッドが6万5,000床あるものの、コロナ用は1,500床にとどまっており、あとのベッドは何しているのか」と言われています。これはずっと歴史があって、今まで療養を抑制してきたツケが全部回ってきているのです。民間の病院は何とか運営をやって、余裕などありません。そのような状況下でコロナが生じても、対応できる余裕が全くなくなってしまっています。自分のとこへ持ち込まないようにするのが一生懸命なのです。このようなことから民間病院はなかなか協力できない状況にあります。』」
「『これは国の施策で医療費を抑制してきたツケが回ってきているのです。だから私たちは今後に向けて、先生が言われたように、医師・看護師が感染症の研修を受けていくとか、看護師さんの役割分担のために、業務するところに研修を加えて感染ベッドに入れるようなことを、府の協力も得て、しっかりワーキングチームを作ってやっていければよいなと考えています。これはすぐやっていきたい。ただすぐ間に合うかといえば、なかなか難しいです。』」
「『一部のマスコミで病院がサボっているとか、色々なことを言われますが、そうではありません。今まで国がやってきた抑制で、このようになってしまっているのです。皆保険制度の下、国民に適切な医療を提供いくことに精一杯であったのです。このため、コロナ対応する余裕が全くないというのが現状であって、ここをきちんと国も考えていただかないといけないと思うのです。ですから、民間の先生方にも協力していただけるところは、例えばCTを2つ、3つ持っているとか、病院が2つあるとかというところには、何とかベッドを作っていただく努力をしていただくことが、精一杯ではないかなと思います。』」
斜向かいのみさをからグスグスと鼻をすする音。
みさをはこの類の内容にはどうしようもなかった。
四回目の専門家会議の読み上げが終わった後、手洗いから戻って来たみさをは放射能の影響で巨大化してしまった怪獣のように怪気炎を吐き散らかした。
何も知ろうとしない世間も、そして知ろうとしなかった自分も、何もかもが許せない。
正直、そこには小須戸も思うところはある。
読みながら感じたことではあるが、やはりコロナは風邪とは違う。
現在も新型コロナは国が2類感染症に指定している。
他の2類感染症にはポリオ、結核、ジフテリア、SARS、MARS、鳥インフルエンザ。
そして、新型コロナの分類を2類から季節性インフルエンザと同じ5類に落として、もっと広く対応できるようにすべきだ。という議論も耳にするようになっていた。
『感染対策の面で、テレコ(互い違い)に患者を入れることができないので、切り出して患者を入れている。だから例えば5類感染症にして、テレコで入れていいよと言われたらひっ迫しなくなるだけの話で、ただそれであればコロナの人の隣に、あなたは入院できますかという問題も解決しないといけない。』
会議の中での会長の発言である。
結局のところは患者だけの問題ではない。医師、患者、その家族、医療に携わる大勢のスタッフ、そこに今まで通常の医療にかかっていた人々、これからかかる人々。
人はみな独りで生きているわけでないし、生きていけるわけでもない。このご時世、誰もがみなコロナの影響を受けている。
話は簡単ではない。
「だから、うちはなんでもいいから、何かをしたいと思ったんです。これをまとめただけじゃ気がおさまりませんから」
それがみさをが自分の分まで弁当を作り始めた動機との事だった。




