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コロナ禍を生きた人々  作者: 西川悠希
医療対応編
40/75

≪KK編 05話 -ふたりに時間を-(2/3)≫

 休憩を終え、業務に戻ったふたりは年末に向けての対策を話し合っている議事録、資料に目を通していた。


「でも僕だって、かっこいい嘘をつけるならつきたいよ」


 小須戸はつぶやく。それは小須戸の本音である。

 小須戸だって正直、女の子にちやほやされたい。という願望はある。

 しかし、それが願望でしかないことも自覚はしていた。


「あー、もう。しょうのない人ですね、なんでそんな自信もてないんですか」


 ため息交じりの言葉とは裏腹に、みさをの表情は柔らかい。

 でも、いや、だって。と言葉を返す小須戸にみさをが告げる。


「ウチが良いと言ってるんだから、良いやないですか」


 みさをにそう言われると小須戸は返す言葉が無い。


「小須戸サンががんばってくれたおかげなんです。そうやって自分の仕事に自信を持てへんから、女子連中に好き勝手言われるんよ」


「面目ない」


「ウチはいいんですよ。小須戸サンがそんな人じゃないって知ってますから。許せないのは何も知らないのに好き勝手言ってる人達です。今回の専門家会議でもそうですけど、あんなにがんばってる人達がいるのに、誰も気にもとめへん。みんな好き勝手。緊急事態宣言だってそうじゃないですか。みんな問題をはき違えてる」


「ただの風邪だから問題ないってやつ?」


 みさをは小さくうなづく。


「ウチも同じでした。あの最後の最後の議事録を聞くまで。心のどっかでちょっと強めの風邪なんだから。って思ってました。でも問題はそうじゃない。緊急事態宣言に風邪かどうかは関係ない。要は医療体制が持つかどうか。ずっと最初に小須戸サンが見せてくれた基本方針にもしっかり書いてあったのに」


 みさをの両こぶしにぎゅっと力が入る。


「でもそれは無理もないよ。みんな頭に血が昇っちゃってるから、聞く耳なんて持てるわけない」


「でもあの議事録はドラマや漫画じゃないんですよ。実際に、現実に話し合われた内容じゃないですか。ウチは自分が情けなくて恥ずかしくて、しにたくなります」


 みさをはまだ思うところがあるのか、声を荒げ、そして、悔しそうにつぶやく。


「うん……」


 小須戸はただうなづくしかできない。


「みんなが言う事聞けないのもわかってます。 ……わかってるつもりです」


 重ねた言葉は小さなつぶやき。


「PCR検査もそうだね。むやみやたらに使うものじゃない。陽性率7%を基準に多いか少ないか。その数字で感染拡大の兆候を見るべきであって、全頭検査は無理がある」


「全頭検査って、ウシじゃないんですから」


 みさをは笑った。笑わせるつもりではなく素で間違えたのだが、小須戸はその笑顔にホッとする。


「集団感染、クラスターでの濃厚接触者もそうですよね。濃厚接触者をPCR検査で追っていって陰性の人達が出てくれば、感染拡大がそこで止まってることがわかる」


「仮に感染してるけど検査で陽性となっていない場合でも、二週間の隔離で重症化しなければ問題ない」


「今はもう隔離後のPCRの再検査は無くなってはりますね」


「症状がなければ、二週間経過で感染させるほどのウイルス量は出ない。減衰していく」


「普通の人の感覚とは違うのがまた問題ですよね。寝込むが軽症、入院治療が必要なのが中等症、意識不明が重症」


「無症状患者が風邪どまりって考えるべきだよね」


「無症状患者が感染を広げて、回りまわって高齢者に感染して重症者が増える。医療機関がひっ迫する」


 みさをの表情が暗くなる。


「重症者における年齢別割合は65歳以上の高齢者が7割」


「じゃあ高齢者が、おじいちゃんおばあちゃんが家に引きこもれば解決するかと言われたらそうやない」


「感染拡大の兆候としてはまず20~30代の年齢から感染拡大が始まり、そこから年齢層が高い方へと感染が広まっていく」


「だからみんなに、心当たりのある人にPCR検査を呼び掛けて、早め早めのクラスター対策をしてる」


「隔離してしまえば、そこで感染は止まるからね」


「陰性証明があるからそれでいいか。ってそうやないんですよね」


「PCR検査は感染拡大を食い止めるためにしているものであって、単純な陽性陰性の判定をするためにしているものではないという部分が理解されていない」


「みんな、自分の事しか考えていませんね」


 みさをはモニターの議事録に目を通し、会長の発言を読み上げる。


「『明らかに、今の状況のまま患者が推移して横ばいになるのは、よほどのことがない限りないので、1.2倍、1.5倍というふうに上昇してくると、だいたい12月の初めから中頃に病床がパンクしてしまうということになってまいります。』」


 会議の開催時期は11月中旬、時間は一時間ほど。

 既に感染拡大の兆候が見え始めており、話し合われている内容は年末年始に向けて想定されている感染拡大の対策についてだった。


「『第二波のときは夜の街なんかで感染してくる若い人が多かったので、入院してもほとんど手がかからなかったです。ところが、今回はちょっと違いまして、高齢者が非常に多くて、そういう人は当然重症化しやすいですし、仮に重症化しなくても、もともとある合併症であるとか、高齢であるために介護が必要であって、コロナで入院されて 2週間を過ぎても退院できないという患者さんはたくさんおられます。これらの患者さんを後方病院というか、別の病院へ移すようなシステムを作らないと、すぐにコロナ病床が一杯になってしまいますので、そこのシステム作りをやらないといけないのではないかと思います。』」


 小須戸が返答代わりに委員の発言を読み上げた。

 そして、みさをが続く別の委員の発言を読み上げる。


「『今してる議論は以前に一度やってるんですよね。高止まりしている状況下で流行れば、当然の如く多くなってしまう。早く体制を整えようって言ってて、今、この状態ですよ。これをどう考えるのかということを、もっと反省しないといけないと思います。』」


 ふたりの読み上げはもう議事録を順々に追っていくものではない。

 会社から一回目の報告書として、過去四回にわたって開かれた府の専門家会議を医療対応に絞った形でまとめたものを提出しており、これまでのように一字一句読み上げて内容を確認しなくても、お互い理解できるようになっていた。

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