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なぜかクラスの有名人と交換日記することになったんだが

圧倒的モチベーション不足です。

ありがとうございました。

「じゃあな。気を付けて帰れよ」

「うん!また明日!」


改札前で軽く手を振り返しながら、優里を見送る。

優里の姿がエスカレーターの上昇で見えなくなった頃に、ようやく自宅への帰路に就く。


「ねえ」


しかし、背後からかけられた声に振り返ってしまった。

振り返った先の声の主は、帽子と眼鏡を身につけた制服姿の名取一華だった。


「あー、あんたは昨日の」

「名取一華よ。友達の名前くらいちゃんと覚えておきなさい」


いや、覚えてましたよ。

クラスメイトに芸能人なんてインパクト強すぎるから、嫌でも覚えるわ。

思い出す前に言われただけで。


「別に、友達になった覚えはないんだが」

「昨日はいきなりだったから仕方なく帰しちゃったけど、今日は付き合ってもらうわよ」


聞いちゃいねえ。


「急だな。それで付き合うって、何に?」

「もちろん、遊びに」


片腕を掴まれ、さっきまでいた建物の中に連れていかれる。


「さっきのとは違うゲームセンターに行きましょ」

「ちょっとまて。芸能人が異性と二人っきりでいるのって、まずくないか?」


スキャンダルで週刊誌に載るのは勘弁。


「変装してるし、大丈夫よ、きっと」


変装っつっても、帽子と眼鏡だけじゃ全然本人だってわかるけど…。

せめて、サングラスとマスクぐらいはしとかないと。


「正面から見たら、名取ってわかるぞ。その変装」

「いいから、つべこべ言わずに行くわよ」


こちらの意見を突っぱねて、強制連行されていく。

こいつ、学校じゃあんなにおとなしそうにしてて、THEクール系って感じの寡黙清楚美人のイメージだったのに、外じゃこんなにグイグイ来るタイプだったのか。

友達宣言された時よりも、キャラ崩壊が凄まじいな。

そんなことを考えているうちに、目当てのゲームセンターに到着する。


「手始めにクレーンゲームからね」


手始めに、とは何だろうか。

どんだけ遊ぶつもりなんだよ。

しかも二人いてクレーンゲームか。


「これ俺要るか?名取だけでよくね?」


クレーンゲームってやってる側は楽しいけど、見てる側は基本暇なんだよな。


「友達同士で遊ぶってなったら、まずはクレーンゲームでしょ」


()()()クレーンゲームなんだ…。


「どこ情報なんだそれは。もっと他にあるだろ」

「あ、これがいいわ」

「聞いてないし」


お菓子の詰め合わせっぽい景品が並んだ筐体へ駆けていく。

普段学校で見せるあの芸能人オーラは、いったいどこへ行ったというのか。

まるで無邪気な子供のようだ。


名取に追い付くころには既にお金を入れてゲームを始めていた。

無駄に洗練されたボタンさばきで、一発で景品を取り出し口に落とす。


「余裕でとれちゃったわ」


なぜか嬉しいのやら悲しいのやら、よくわからない微妙な表情で佇んでいた。

普通なら景品が取れて嬉しいはずなんだが。


「結構うまいんだな」


素人とは思えないほどに。


「こうゆうときのために、一人で練習してたから」

「そ、そうなんだ」


あれ、この人結構闇深い…?

…いや、まさかな。


「そんなことは置いといて。次はあなたがやってみさい」

「はいはい。じゃあこれにするか」


適当に隣の筐体を選ぶ。

これもお菓子の詰め合わせっぽいが、見たところ中身が違うようだった。

奇しくも、名取と似たような操作をして一発で景品をとる。


「案外うまいじゃない」

「よく優里と、どっちが多く取れるかって遊びしてたからかな」

「な、なんて羨ましいことを…」


羨望と絶望が入り混じった眼差しを向けてくる。

といっても、優里は基本的に下手だから、あまりの取れなさに途中から泣きついてきて、勝負じゃなくてレクチャーになるんだけどな。


「そうだ、わたしたちもそれしましょう」

「…どっちが多く取れるかってやつ?」

「そう。いかにも友達らしいじゃない」

「まあ、別にいいけど」

「それじゃあ30分後に、またここに集合ね」


そういって、そそくさと別の筐体へ向かっていった。


「さすがにここで帰るのは薄情か。しょうがない、付き合ってやるか」


渋々、比較的景品が取りやすそうな筐体を探し始める。







先に待ち合わせ場所で待っていると、大きな袋を二つ持った名取が角から姿を現した。


「じゃじゃーん。わたしはこんなに取れたわ。あなたは?」

「俺はこんな感じ」


名取の袋から中身が飛び出すほどの大きさの景品に対して、こちらは手のひらサイズのものを数個見せる。


「小さいものばかりじゃない」


まあ名取の景品の大きさには見劣りするかもな。


「あくまで多さの勝負だったんで」

「まあ、そうだけど」

「ぱっと見、俺の方が多そうだし、俺の勝ちってことで」

「なんか腑に落ちないけど、仕方がないわね。今回は価値を譲ってあげる」


次回もあるのかよ…。


「…どうも」

「でも次はわたしが勝つわ。絶対」


ふと時間が気になって、腕時計を見る。

針はいつの間にか9時を示していた。


「もうこんな時間か」

「あら、ほんとね」

「そろそろ帰るか。芸能人がこんな時間に、こんなところにいるのはまずいっしょ」


ましてや異性と一緒だなんて。


「そうね。…じゃあこれ、はい」


名取はかばんから一冊のノートを取り出し、こちらに差し出してくる。


「なにこれ?」

「交換日記よ。知らないの?」


交換日記とか久しぶりに耳にしたよ。


「いや知ってますけど…。これを俺にどうしろと」

「もちろんするのよ。交換日記を。わたしと」

「名取と?俺が?交換日記?」

「そう。友達なら当然でしょ」


うっそだろ…?


「いまどきの友達って交換日記しないでしょ」

「するわ。漫画で描いてあったもの」

「フィクションだぞ。現実を見ろ」

「うるさい」


ジト目でこちらを見つつ、なおもノートを差し出し続けている。


「日記付けるのとか面倒でやりたくないんだけど」

「やりなさい」

「うーん」

「どうしてもやりたくないと」

「うん」

「しょうがないわね、この手は使いたくなかったんだけど」

「?」


名取はおもむろに懐からスマホを取り出し、こちらの横に並び立って自撮りの姿勢になる。

明滅したスマホの画面には、名取と俺がはっきり写っていた。


「見なさい。わたしとあなたがばっちり写ってるわ。これを学校の生徒達に見せたらどうなるでしょうね」

「…脅しってわけか」

「そう。あなたが素直に応じてくれると嬉しいわ」


正直悩むまでもないんだが、自分の意思じゃなく、脅されて決断するということがなんだか腑に落ちない。

けど、ここで変に断って、学校生活滅茶苦茶にされるよりはましか…。


「…わかった。やるよ」

「っし、決まりね。書き終わったら、学校の一階の階段裏に放置されてる机の中に入れておいて。じゃあまた明日!」


急激にテンションを上げた名取は、ノートを押し付けて、大きく手を振りながら去っていった。

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