表と裏でギャップがある娘はかわいい
優里と二人で自宅までの帰路を徒歩で辿っていると、いつも持っているはずのものがないことに気づく。
「…あ、やべ、スマホどっかに忘れてきた」
「えー、どこにー?」
「多分教室だと思うんだが…悪い、ちょっと取りに戻るわ」
「んー、じゃあ先に雄馬の部屋で待ってるね」
優里と別れて学校へ小走りで向かう。
ちゃんとポケットに入れたはずなんだが…
「うーん、階段にも廊下にも無い…やっぱり教室か?」
この学校で一度通った道をもう一度通り、自分のスマホが落ちていないかチェックする。
だが階段と廊下での創作で見つけることはできなかった。
そのため本命である自分の教室へ向かうことにする。
しかしその道中、教室への廊下であの芸能人の名取とすれ違う。
相変わらず芸能人オーラが凄い。
それと今日一日見ていて分かったことだが、名取一華は『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』ということわざをまさに体現しているような人間だった。
教室でのクラスメイトを見ていて思ったが、完璧すぎる人間には近づきづらいのかもしれない。
そんなことを考えながら教室へ入る。
「お、あったあった」
スマホは壁と机の間の床に落ちていた。
拾い上げて異常が無いか確認してからポケットにしまう。
目的を達成したことで踵を返そうとすると、何かが視界に入る。
「ん?なんだこれ…手帳?」
机と机の間に落ちている手帳のようなものの真上でしゃがみ込み手に取ってみる。
大きさは掌サイズで、表紙には『友達の作り方』と表記されている。
気になって中を拝見してみると、友達との妄想上のやりとりや汎用性の高い話題、遊びの誘いかた等どが書かれていた。
もうなんか最初の1ページ目で何となく察した。
あまり触れていいものではないな。
「あんた…それ…!」
元あった場所に再び置こうとした瞬間、教室のドアが開き、さっきすれ違ったばかりの名取が驚愕の表情で佇んでいた。
「見たわね…!」
やがて驚愕が憤怒へと変貌し、こちらとの距離を詰めてくる。
「…もしかして、これ名取さんの?ご、ごめん。確かに勝手に見るのは良くなかった」
「今更謝ったってもう遅い。あんたにはこの手帳を見た責任を取ってもらうんだから!」
「せ、責任…?」
「そ、そうよ!」
名取が俺の目の前で俯く。
若干震え、何かを切り出そうとしている。
「……わ、わたしと友達になりなさい!」
恥ずかしさで真っ赤に染まった顔をこちらに向けて、言葉を放ってきた。
「え、友達…?」
「手帳を見たんならわかるでしょ、わたしが友達を欲しがってること」
強引すぎるだろ。
せめて手帳に書いてあったみたいなほんわかする誘い方で来てくれよ…
「あんたをわたしの友達1号にしてあげるわ!」
「ええ…なんかその言い方だと上下関係できそうで嫌なんだけど…」
「口答えしない!わたしの手帳を見た時点であんたに拒否権なんてないんだから」
今更だがこの人見た目と性格にギャップありすぎでは…
とにかく、入学初日から面倒ごとはごめんだ。
「だがことわ」
「だめ」
「こと」
「だめよ」
「こ」
「だめだって言ってるでしょ」
「えーー」
名取との強制的な友人関係が始まる。