久坂大和は転校生のアイドルに辟易する。
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「晴斗さん!」
転校生……藤堂エルザは芹沢の正面に立つと、満面の笑みで叫んだ。
「え? 晴斗?」
「アイツ、そんな名前だったっけ?」
「つか、アイツの名前、このクラスで知ってる奴いるの?」
「なに? あの陰キャと知り合い?」
「まさかあ! ないない!」
クラスメイト達が藤堂エルザの突然の行動にざわつく。
「晴斗さん! 私、転校してきちゃいました!」
「ちょ、ちょっとエルザ!?」
嬉しそうにしながら一生懸命話しかける藤堂エルザに、芹沢は困惑した表情を浮かべながら立ち上がると。
「どうしたんです……ムグ!?」
「と、とにかく黙って!」
あろうことか、芹沢は藤堂エルザの口を手で塞いだ。
や、それ、多分逆効果だと思うぞ。
だって。
「テメ、エルルンに何やってんだよ!」
「何アイツ、クソ生意気なんだけど?」
ほらあ、案の定クラスの連中(特に男子全員)が芹沢に射殺すような視線を送ってるよ。
まあ、芹沢の正体が、若手俳優の“沖田晴斗”だって誰も知らねーもんなー……って。
「…………………………」
うわあ……中岡に至っては、それこそクソでも見るかのような視線をぶつけてやがる。
よっぽど芹沢のことが嫌いなんだなあ……。
「もう! いい加減にしなさい! 藤堂さん、あなたの席「私は、晴斗さんの隣を希望します」……はあ……もういいわ、ちょうど空いているからそこに座りなさい」
先生が額を手で押さえながら深い溜息を吐き、かぶりを振った。
「うふふ……隣同士、ですね?」
「はあ……」
嬉しそうに話す藤堂エルザとは対照的に、芹沢の奴は先生と同様、深い溜息を吐いた。
そして。
俺は教室中を俯瞰して見ると……おーおー、どいつもこいつも忌々し気に芹沢を睨みつけて。
コレ、HR終わったらひと悶着あるんじゃね?
「……見ての通り、藤堂さんはお仕事の都合でこの学校に転校してきました。みんなも仲良くしてあげてね……」
そう言うと、先生は藤堂エルザと……なぜか芹沢も睨みつけていた。
——キーンコーン。
お、ちょうどHR終了のチャイムが鳴ったぞ。
さあて、巻き込まれる前に俺は避難すっかな。
「おい、面倒そうだから教室出ようぜ」
「あ、久坂。面倒って?」
「ホラ、あれ見てみ」
そう言うと、俺は立ち上がって芹沢のところに向かう男子四人を指差した。
「あー……アイツ等、悠馬にイチャモンつけに行ったのか」
「そういうこと。変に巻き込まれてもなんだし、廊下にでも出ようぜ」
「え!?」
そう言って、俺は中岡の手をつかむと、廊下へと連れ出そうとして……。
「おいオマエ! なんか調子乗ってねーか?」
あーあ、始まっちまったか。
「つーかよ、オマエみてーな陰キャがエルルンと会話するなんざ、百年早えーよ」
何だよソレ。完全にモブの台詞じゃねーか。
「あー……さすがにアレは止めなきゃ、だね」
「えー、いいんじゃね?」
「そういう訳にもいかないよ。私も風紀委員なんだし」
中岡は俺の手を離……さずに、そのまま芹沢達のところに行こうとするの!?
「ま、待て待て!? なんで俺まで一緒に連れて行くんだよ!?」
「えー……来てくれないの?」
そう言うと、中岡が上目遣いで俺の顔を覗く。
な、なんだよそのあざとい表情は!
「お、俺が行く義理はない!」
俺はそんな中岡の表情にいたたまれなくなりつつも、顔を背けて断固拒否の姿勢を貫く……んだけど、中岡はわざわざ回り込んで潤んだ瞳で見つめやがる。
「……私は、久坂にも手伝って欲しい、な」
……ああモウ!
「分かったよチクショウ!」
「えへへ……ありがと」
ありがと、じゃねーよ!
その……嬉しそうにしやがって……。
という訳で、俺は諦めて中岡と一緒に芹沢達のところに向かう。
「ハイハイ、ケンカするなら風紀委員会室に来てもらうけど、いいよね?」
「「「「う……」」」」
中岡(と俺)が間に割って入り、男子達をキッ、と睨みつけると、男子達は思わず後ずさりした。
その時。
「すいませんが、邪魔をしないでもらえますか?」
……オイオイ、なんでここで藤堂エルザがしゃしゃり出てくるんだよ。
「邪魔? えーと、藤堂さんだっけ? 私は今、風紀委員としてケンカの仲裁に入っているんだ。君こそ邪魔しないで欲しいんだけど?」
藤堂エルザの言葉にイラっとしたのか、中岡は彼女が人気アイドルだってことをまるで知らないとでも言わんばかりの様子で、結構キツめに彼女に当たる。
「関係ありません。せっかく晴斗さんが、かっこ良くこの方達を撃退するところだったんですから」
「「ハイ?」」
それを聞いた俺達は、思わず二人揃って聞き返してしまった。
コイツ、頭おかしいんじゃないのか?
「ふう……あなた達は同じクラスなのに、晴斗さんを何も分かってらっしゃらないんですね……」
そう言うと、藤堂エルザは額を押さえながらかぶりを振った。
あー……これって、コイツの正体のこと言ってるのかな。
「ハ? いやいやエルルン、コイツは空気みたいな陰キャモブですから」
モブ(クラスの男子)の一人がモブ(芹沢)を指差しながら、諭すように藤堂エルザに語り掛ける。
だが。
「晴斗さんほど素敵な方が、どうしてこのクラスでそのような扱いを受けているんですか! あなた達は晴斗さんを知らなさ過ぎです! 晴斗さんは……晴斗さんは……!」
おおっと、藤堂エルザが肩を震わせながらぽろぽろと涙を流し始める。
すると。
「エルザさん……」
「だって……だって、悔しいじゃないですかあ……!」
それを見かねた芹沢が優しく藤堂エルザの肩を抱くと、彼女はポスン、と芹沢の胸に顔を預けた。
えーと、何? この茶番。
俺はどうしたもんかと中岡を見ると……うん、お前も俺と同じ思いか。
だけど、仮にもその可愛い顔で、そんな汚物でも見るかのように顔を歪めるのもどうかと思うぞ。
「ね、ねえ、エルルンは、どうしてこの陰キャモブと知り合い、なの……?」
「そ、そうそう。それに、コイツのこと“晴斗”って……」
男子達は泣き出した藤堂エルザに戸惑いながらも、おずおずと尋ねる。
おっと、さすがにこれは正体明かすことになるのか?
「グス……彼は“沖「エルザさん」」
藤堂エルザが正体を明かそうとしたところで、芹沢の奴が有無を言わせないほど強い口調でそれを咎める。
だけど、“沖〇晴斗”の時点で、正体丸分かりだと思うんだけど……。
「エルザさん、僕の名前は“芹沢悠馬”、だよ……」
「晴……悠馬、さん……?」
「うん……それが、僕の本当の名前」
そう言うと、芹沢は藤堂エルザをキュ、と抱き締めた。
「悠馬さん……」
……よし。
「中岡、行こうぜ……」
「うん……キモチワルイ」
俺と中岡はこれ以上耐えることができず、その場を離れて廊下に緊急避難した。
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すいません、今日もついつい更新してしまいましたw
次話は今日の夜投稿予定です!
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