久坂大和は新たな“絆”を紡ぐ。
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「ただいまー」
「おかえりー」
家に帰って挨拶すると、文香から返事が返ってきた。
リビングにいるのかな?
俺はリビングに入ると、そこにはバスタオルを頭に巻きながら、ソファーでくつろぐ文香がいた。
「全く……だらしないぞ、文香」
「もーうるさいなー、オカンか」
ナヌ? 俺がオカンだと? 最高の誉め言葉だ。
「それより、ちゃんと悠里さんは送ってきたの?」
「おう」
そう返事すると、俺はおもむろに冷蔵庫を開け、中からコーラのペットボトルを取り出す。
コップに注ぎ、それを一気にあおる……………………ゲフ。
「さーて、俺も今日は疲れたし、風呂入ってさっさと寝るか」
「……へえー」
「? 何だよ?」
なんだなんだ? その何か言いたげな感じ。
「や、お兄ってさ……今日、ソシャゲしてないでしょ?」
「ん? ……あー」
そういえばそうだな……奥さん達を放ったらかしにするとは、俺もヒドイ男だな。
「それって、悠里さんのお蔭かもね」
「何だよ、アイツのお蔭って」
全く……今日はたまたま忙しかっただけだっての。
「……ねえ、お兄」
すると、文香は急に真面目な顔になって姿勢を正した。
「な、何だ?」
俺はそんな文香の様子に思わず身構える。
や、小遣いアップには応じられんぞ! 俺は断固拒否する!
「私、もう中学三年だよ?」
「お、おお……それがどうかしたか?」
や、やっぱり小遣いアップか……!
「もう……お兄も自分のために「文香」」
文香が何を言いたいのか察した俺は、その言葉を遮った。
「お前を一人前にするのが俺の役目だ。だから、俺には自分のために使う時間はないんだよ」
「っ! お兄!」
「……風呂入ってくるわ。お前も風邪引かないように、早く寝ろよ」
俺は文香と目も合わさず、そのまま風呂へと向かった。
……まあ、文香の奴は「もう! お兄のバカ!」なんて悪態吐いてやがるが、無視だ無視。
俺は、二次元の彼女で充分なんだよ。
◇
「はよーっす」
俺は教室に入るなり、独り言のように朝の挨拶をする。
「ふああ……」
カバンを机の横に掛けると、席に座るなり俺は大きくあくびをした。
ウーン、今日は朝早くから張り切りすぎたせいで、眠気が……。
すると。
「フム……相変わらず眠そうな顔してるな」
現れたのは、いつものように斎藤だった。
「ウルセー、俺にも色々あるんだよ」
「ほう……? お前の奥さんの誰かが“大破”でもしたのか?」
「んなわけねーだろ。うちの奥さん、マジ最強だぞ?」
何つっても、最終進化までしつつ、課金アイテム使ってまで最大レベルまで強化してあるからな。もちろん全員。
すると。
「おはよー」
教室に、中岡が挨拶しながら入ってきた。
それを見たクラスメイト達が、思わずどよめく。
「オ、オイ……“御前様”が、校内放送の呼び出しをしなかったぞ……!」
「だな」
そりゃそうだろ。
もう、俺の“絆の証”を取り締まることもなくなったんだし。
中岡は自分の机にカバンを置くと、スタスタと俺の席に向かって歩いてくる。
「ふむ……すまんが俺は失礼する」
そう言うと、斎藤は口の端をわずかに吊り上げながら自分の席に戻っていった。
「久坂、おはよ」
「おう、はよー」
俺の席に来た中岡と笑顔で挨拶を交わすと……オイオイ、みんな一斉にコッチ見てやがる。
当然、斎藤の奴も。
「き、昨日はありがとね」
「おう、またいつでも来いよ。ただ、その時は放課後までに教えてくれると助かる」
「え? どうして?」
「スーパーで買う食材の量を計算する必要があるからな」
「あ、そっか」
中岡は納得した表情でウンウンと頷く。
「それよか、今日は“呼び出し”はしないのか?」
俺はちょっとだけ皮肉を込めてそう言うと、中岡は申し訳なさそうな顔をした。
え、や……そんなつもりで言ったんじゃないんだけどなあ……失敗した。
「も、もう呼び出したりしないよ……」
「そ、そうだよな……悪い」
「あ、ううん……悪いのは私だから」
「いや、今のは俺が全面的に悪い」
「違うよ、悪いのは私だ」
「俺だ!」
「私だ!」
いつの間にかヒートアップした俺達は言い争いになり、そして。
「プ」
「クク……」
「「あはははははは!」」
俺達は声を出して笑った。
「ま、どっちが悪いとか、どうでもいいな」
「もう……久坂は……」
俺はやれやれとかぶりを振ると、中岡は笑顔で呆れながら俺を見やった。
その時。
「ん?」
なんか誰かに見られてるような……。
俺はキョロキョロと教室を見回すと……うん、クラスの奴のほとんどが俺達を見ていやがった。
ま、気のせいか……。
「オ、オイ! みんな! うちのクラスに転校生が来るぞ!」
息を切らしながら入ってきたクラスメイトの男子が、デカい声で叫んだ。
「転校生だってよ」
「そうみたいだね」
「女子かな」
「イケメン希望!」
クラスメイト達は口々に噂するけど……ま、俺には関係ないかな。
どうやら中岡も同じ考えのようで、チラリ、と叫んだ男子を見たけど、すぐにこちらに向き直った。
「そんなことより、今日も眠そうにしてるけど、その……また例の二次元の彼女達に逢ってたの?」
「いや? まあ別に一日くらい逢わなくても、俺と彼女達との“絆”はバッチリつながってるからな」
俺が指輪に触れながら得意気にそう言うと、中岡は複雑な表情を浮かべた。
「そ、そんなゲームの女の子なんかじゃなくて、その……!」
中岡は何かを訴えようとして。
「ホラホラ、HR始めるわよ!」
担任の新見先生が教室に入ってくるなり、手をパンパン、と叩いて着席するよう促した。
「あ……じゃ、じゃあ席に戻るね……」
中岡は少しがっかりした様子で、重い足取りで自分の席に戻っていく。
「……お前も俺のメシ、食ったんだ。お前とだって、ちゃんと“絆”はつながってるよ……」
俺は誰にも聞こえないほどの小さな声で、そう呟いた。
すると。
「うん……」
気づけば中岡は俺のほうを見ていて、頬を染めながらはにかんでいた。
なあ!? ひょっとして今の、聞こえてたのか!?
は、恥ずかしい……!
「さて、今日のHRを始める前に……どうぞ、入ってきて」
全員の着席を確認すると、先生は教室の扉に向かって声を掛ける。
お、例の転校生かな?
「失礼します」
そう言って、件の転校生が扉を開けて入ってくると……教室中にどよめきが起こった。
それもそうだろう。
「本日付けで転校してきました、“藤堂エルザ”です」
なんたって、今をときめく人気アイドルグループ、“ペール・ガーディアン”の不動のセンターが転校してきたんだから。
つか、やっぱトップアイドルだけあって実物は可愛いもんだな。
スペイン人とのハーフだけあって、綺麗な金髪をツインテールにまとめ、その鳶色の瞳は宝石のように輝いており吸い込まれそうになる。
整った鼻筋にぷっくりと柔らかそうな唇、そして、そのスタイルも抜群。
人気があるのも頷けるよな。
といっても、俺はこれっぽっちも興味ないけど。
「どうぞよろしくおねが……!」
その藤堂エルザがお辞儀をしようとして……その動きがピタリ、と止まった。
そして、急にツカツカと教室内を歩きだす。
「え!? ちょっ!?」
先生が制止しようとするけど、藤堂エルザはお構いなしに歩き、窓際一番後ろの席に座る芹沢の前に立つと。
「晴斗くん!」
藤堂エルザは満面の笑みで芹沢の芸名、“晴斗”の名を叫んだ。
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