久坂大和は中岡悠里の気持ちに気づく?
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「で? 中岡さんがごはん派だってことが、そんなに嬉しいの?」
文香の奴はスプーンを咥えながらそんなことを言ってやがるが、コイツは本当に分かってない。
「嬉しいかだと? 嬉しいに決まってるだろ! 俺は今日、最高の同志を得たのだ!」
「ふあああああああ!?」
ん? オイオイ中岡よ、そんなに驚かなくてもいいだろうに。
「大体、お前が中学に入った途端にパン派に寝返ったのがいけねーんだぞ!」
「は? 友達みんながパン派だったんだからしょうがないじゃん!」
「何だと! すぐにそうやって周りに迎合しやが「お兄?」……すいません、言い過ぎました……」
チクショウ、都合が悪くなるとすぐそうやって低い声出して凄みやがって。
少しはお兄ちゃんをリスペクトしやがれ。
「あ、あはは……」
「む、それより中岡、シチューなら大量に作ったからおかわりもあるぞ?」
俺は苦笑いしながらスプーンが止まっている同志を見て、おかわりを勧めてみた。
だって、シチューとごはん、交互に食べたらスプーンと箸が止まらなくなるからな。だよな? な!
「じゃ、じゃあおかわりもらおうかな」
「よしきた!」
俺は中岡から器を受け取ると、追加のシチューをよそって渡した。
「はふはふ……だけど、本当に美味しいよ」
「だろ! だろ! いやあ、最近は文香の奴、あんまり美味いとか言ってくれないからなあ。中岡が美味しそうに食ってくれると、やっぱ嬉しいもんだな!」
満面の笑みを浮かべてウンウンと頷いていると、そんな俺を見つめていた中岡は、柔らかい微笑みを浮かべていた。
なんだよ、その表情……超可愛いじゃねーかよ……。
「あーハイハイ、それは悪うございましたね! そんなに嬉しいんだったら、また中岡さんに晩ご飯、食べに来てもらったら?」
ほんの少し皮肉交じりにニヤニヤしながら、文香は頬杖とついてそんなことを提案した。
「おお! そりゃいいな! 中岡、また俺ん家にメシ食いに来いよ!」
「ふあ!? だ、だけど、迷惑だったり……しない、の?」
俺が誘うと、中岡は驚いた表情を見せた後、申し訳なさそうに上目遣いでおずおずと尋ねる。
「迷惑? んなわけねーだろ。大体、二人分も三人分も大して変わんねーよ」
「そ、そうなの? ていうか、お父様の分が入っていないような……」
「マテ中岡、うちの親父を“お父様”呼ばわりしないでくれ。見ろよ」
そう言ってクイ、と顎で指し示すと、文香が食ったシチューを今にも吐き出しそうなほど気持ち悪そうにしていた。
「あ、あははー……」
「ま、それに親父はいつも帰りが遅いから、テキトーに外で食ってくるんだ。つーわけで、中岡の分も入れて三人分ってこと」
「アレ? もう数に入っちゃってる!?」
なに驚いてんだよ、当然だろ?
「じゃ、じゃあ……ありがと」
「おう」
中岡は口元を緩めながら、「えへへ、やった」と呟きながら小さくガッツポーズした。
ああもう、今日一日で大分印象が変わっちまったんだけど!?
「ま、まあそれよりシチューが冷めちまうから、早く食べようぜ」
「う、うん!」
そうして、俺達三人はくだらない雑談をしながら楽しく夕食を過ごした。
◇
「おじゃましました!」
「悠里さん、いつでも遊びに来てね!」
「うん、文香ちゃんまた来るね!」
すっかり打ち解けた中岡と文香は、そんな会話をしながらハイタッチを交わした。
俺が後片けしてる時に、コイツ等ヒソヒソと何の話してたんだ……?
「じゃ、行くか」
「へ?」
俺が靴を履いてそう言うと、なぜか中岡はキョトンとした。
「や、こんな夜に一人で帰らせるわけねーだろ」
まあ、中岡なら変質者が現れてもアッサリ撃退するだろうけど。
つーか、俺のほうが確実に足手まといになる自信すらある。
「あ、で、でも、そこまでしてもらっちゃ悪いよ」
「お前を一人で帰らせるほうが、俺の精神衛生上よくないの。つーことで文香、先に風呂入っとけよ」
「了解。お兄こそ、ちゃんと悠里さんを送ってくんだよ! ……オオカミになったりしないでよね?」
「するか!」
つーかそんな真似してみろ、間違いなく俺は母さんとご対面することになっちまうわ。
「んじゃ、行ってくる」
「文香ちゃんバイバイ!」
俺達はマンションを出ると、中岡の案内で彼女の家へと向かう。
「しかし、結構寒いな」
「それはそうだよ、もうすぐ冬だもん」
そう言って、中岡は掌にハア、と息を吐いた。
あ、そういえばあのこと聞いとかないと。
「なあなあ、芹沢の奴のことなん「アイツの話はしたくない!」」
芹沢の正体の件について尋ねようとしたけど、アイツの名前を出した瞬間、中岡に即座に拒否された。
ウーン……こりゃ、アイツとなんかあるのか?
「そうかー……んじゃ、別の話題。なんでマンションの前で待ち伏せてたんだ?」
俺はもう一つ気になってた、中岡が俺の家にわざわざ来た理由を尋ねた。
「あ、そ、それはその……」
そう言うと、中岡はおずおずと俺の左手を指差した。
あー、そういうことか。
「で、でも! それは私がバカだったからで、その件はもう……」
中岡は落ち込んだ表情をしながら、その言葉は尻すぼみになっていく。
「はいはい、お前の言う通り終わった話なんだから、いちいち落ち込むなよ」
「う、うん……ごめんね……」
「だーかーらー、謝るのもナシだっての」
「うん……」
それからは、話題を変えるために俺はあえてくだらない話をしながら、中岡の家に向かった。
◇
俺の家の最寄り駅から電車で一駅。
そこから歩いて五分のところに、中岡の家があったんだけど……。
「こ、ここがお前の家……?」
「う、うん……」
そこは、かなり立派な和風建築の家だった。
「なあなあ、お前の家って金持ちなの?」
「ふあ!? ど、どうなんだろ……」
俺の問い掛けに、中岡が気まずそうに顔を逸らした。
それ、答え言ってるようなもんだろ。
「ほえー、すげー!」
「あうう……もうやめて……」
俺が感嘆の声を漏らすと、中岡は嫌そうに顔をしかめた。
「ま、いいや。それじゃ中岡、また明日な」
「あ、う、うん! 送ってくれてありがとう!」
嬉しそうな、だけどちょっと名残惜しそうな表情を浮かべながら、中岡が手を振る。
俺も手をヒラヒラさせながら踵を返そうとして。
「なあ……」
くるり、と振り返り、中岡を見つめる。
「ん? どうしたの?」
「や、その……今日さ、俺、中岡の手を握ったり、頭をポンポンと叩いたり、その……したじゃん?」
「ふあ!? あ、う、うん……」
「……お前、嫌だったりしなかったのか……?」
「そ、そんなこと、絶対にあるわけないよ!」
俺のそんな質問に、中岡は真剣な表情で否定した。
「そ、そうか。だ、だったらいいんだ」
「? 本当に変なこと聞くなあ……まあ、いいけど」
中岡は訝しげな表情を浮かべながらも、それは一瞬で、すぐにいつもの顔に戻った。
「じゃ、今度こそ帰るわ」
「うん、バイバイ」
俺は来た道を戻ろうとすると。
「久坂! シチュー美味しかったよ! また明日!」
「おう、また明日」
嬉しそうに手を振る中岡に、軽く返事した後、駅に向かって歩き出した。
「……中岡、お前……」
俺はあの言葉を思い出す。
『私に触れていい男の人は、私が大好きな人だけだよ』
「中岡は、俺のことが……好き、なのか……?」
だけど。
「いや……まさか、な……」
俺はそれを無理やり否定するかのように大きくかぶりを振ると、足早に帰路についた。
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すいません、今日もついつい更新してしまいましたw
次話は今度こそ今日の夜投稿予定です!
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