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藤堂エルザは密かに想う。

ご覧いただき、ありがとうございます!

今回は番外編第二弾!

藤堂さん視点でお送りします!

■藤堂エルザ視点


「あれ? エルザ、こんな日でもそのお弁当あるの?」


 アイドルグループ“ペール・ガーディアン”のリーダーである“伊東ひかり”が、最近ではお馴染みになりつつある私の持つお弁当を指差した。


「はい! これは私の元気の源ですから!」


 そう、今日もマネージャーに無理を言って、久坂さんの元にお弁当を受け取りに行ってもらったんです!


 本当はさすがに大晦日なのでお断りしようと思ったのですが……。


『ダメだ! 大晦日だろうが何だろうが、ちゃんと栄養のあるものを食べないと! それこそ身体を壊しちまうだろ!』


 と、久坂さんに窘められてしまいました。


 でも、大晦日にも久坂さんのご飯が食べられて嬉しいと思っていることは、久坂さんにはナイショです。


「はあ……だけど、そこまでマメに作ってくれる彼氏がいるなんて、羨ましいなあ……」

「なななななななななな!?」


 同じく“ペール・ガーディアン”の同期、“鈴木美樹”が不意に放った言葉に、私は思わず赤面してしまった。


「ち、違います! そもそも“ペール・ガーディアン”は恋愛禁止じゃないですか!」

「「アハハハハ!」」


 もう……二人共、笑い過ぎです……。


 それに久坂さんには、“悠里”さんという素晴らしい彼女さんがいるんですから……。


 ◇


 私には、幼い頃からお友達がいなかった。


 物心ついた頃から、私は子役として芸能界で活動していた関係で、学校の授業が終われば迎えの車ですぐに仕事に向かう、そんな日々を送っていた。


 当然そんな生活なので、私にお友達なんてできるはずもなく、撮影現場などでもチヤホヤしてくる大人達ばかり。


 だから、私はいつも一人で過ごすことが多く、当時マネージャーを務めていたお母さんくらいしか話し相手はいない。

 そんなお母さんも、芸能界に染まりきっていて、会話の内容は私の演技や仕草のことだけ。


 そんな中学三年のある日、私は新たに結成されたアイドルグループ“ペール・ガーディアン”に加入することなると、すぐにセンターに抜擢された。


 もちろん、そのことについて他のメンバーからの反発などもあったけど、そこは私もプロ、仕事としてハッキリと割り切っていた。


 そして、それからはアイドルとしての日々を、芸能界という場所になんの疑問も持たずにただ惰性で過ごしてきた私だったけど、十七歳を迎えた春の日。


 その日はバラエティの収録現場で、私はいつも通りスタジオ入りした。

 もちろん、芸能界にいる者の礼儀として、共演者の挨拶は欠かさない。

 この時もマネージャーとしっかり確認し、全ての出演者の楽屋へ行き、事前に挨拶を済ませた……かと思っていた……はずだった。


 本番前になり、スタジオに入った私に待っていたのは、大御所タレントからの罵声だった。


「若い娘が少し人気があるからといって、最低限の礼儀も知らんのか!」


 そんなバカな!?

 私はちゃんとマネージャーと出演者の確認もしたし、しっかりと挨拶もした!

 なのに……なのに、なんでこの“山南藤十郎”が共演者になっているの!?


 私は訳が分からなくなり、困惑してただオロオロした。


 その時。


「山南さん! おはようございます! それで、せっかくですし向こうでお話が……」


 そう言って、共演者の一人、沖田晴斗が山南さんを連れてスタジオの隅へと移動した。


 山南さんの怒りを鎮めるためにどうしていいか分からず、私は不安で押しつぶされそうになっていると、沖田晴斗が戻って来て。


「あの人には僕からちゃんと話しておいたから、君は心配することはないよ」


 そう言うと、沖田晴斗はニコリ、と微笑んだ。


 今までこうやって気にかけてくださった方がいなかった私は、彼の気遣いが嬉しかった。


 その後も、彼はいつも私に優しくしてくださり、また、私と同い年ということもあって、私は。


「あ、あの! わ、私と“友達”になっていただけませんか!」


 勇気を振り絞って彼にそのことを伝えると、彼は微笑みながら快諾してくれた。


 私はそのことが嬉しくて、もっと友達である彼と色々お話がしたい、一緒に遊んだりしたいと考えるようになった。


 そして、高校二年の秋……私は思い切って沖田晴斗が通う学校に転校した。


 だけど……教室にいた沖田晴斗を見て私は愕然とした。


 だって、あの大人気俳優の沖田晴斗が、前髪でその顔を隠し、まるで目立たないようにしながらクラスメイト達からの嘲笑の的にされていたのだから。


 だから、私はそれが許せなくて、苦しくて、その時仲裁に入ってくださった久坂さんと悠里さんにキツく当たってしまった……。


 それからも、私は事あるごとに久坂さんと悠里さんに絡んでしまう。


 そのせいで、久坂さんがいわれのない中傷を受け、あまつさえ物を投げつけられる被害にまで……。

 あの時のことを考えると、私は罪悪感で胸が張り裂けそうになる。

 久坂さんは『気にしてないし、藤堂さんは悪くない』と言ってくださるけど、私は一生このことを自分自身への戒めとして忘れないでおこうと思う。


 教室で問題を起こした私達に対し風紀委員会の監視がつくようになった時、私は沖田晴斗……いえ、芹沢悠馬から提案を持ち掛けられた。


『僕の大切な幼馴染が、久坂大和というクズに騙されている。だから、そうか手助けをして欲しい!』


 私を見つめる芹沢悠馬のその瞳は真剣だった。

 だから、私は“友達”のためにと、その頼みを快諾した。


 私は芹沢悠馬と口論して仲違いをした振りをすると、久坂さん達に近づいた。


 もちろん、内心ではお二人……特に久坂さんに、嫌悪感を抱きながら。


 そして、お二人をお昼をご一緒した、その時。


「バカヤロウ! 栄養ってのはちゃんとご飯で摂るモンなんだよ!」


 久坂さんの突然の言葉に驚いてしまい、私は思わずキョトンとしてしまった。

 さらに、なぜか久坂さんはご自分のお弁当を渡しへと差し出した。


「あ、そ、その……食べても、いいんです、か……?」


 私はお弁当と久坂さんを交互に見ながら恐る恐る尋ねると、彼は力強く頷いた。


 そして、私はそのお弁当を口に含むと……優しくて温かかった。


 誰かの手作りのご飯って、いつ以来だったかな……。


 そんなことを考えていると、急に胸がポカポカして、思わず泣きそうになってしまった。


 私はチラリ、と彼の様子を見ると、苦笑しながらも優しい瞳で私を見つめていた。


 その姿に、私の頭の中は混乱を極めた。


 え? だ、だって、この久坂大和という男は悠馬さんの幼馴染をたぶらかす悪い人で、悠馬さんがクラスであんな目に遭っている原因を作った人で……。


 だけど……このお弁当を一口食べるたびに、彼の温かい視線を感じるたびに、そんな風にはどうしても思えなくて……。


 私はそんな思いを悟られないように、今まで映画やドラマでもしたことがないほど必死で演技をした。


 そして、私は久坂さんのお弁当の味をどうしてももう一度味わいたくて、また私の分を作って欲しいとお願いするけど、久坂さんからは無理だと断られてしまった。


 仕方なく諦めた私だけど、今日みたいにお弁当を交換してもらえる……そう思った私は、せめてにもと思い、次の日は一番豪華なお弁当を用意した。


 すると、今日も久坂さんは私の食事を見かねて交換してくれた。

 もちろん、用意しておいた豪華なお弁当を渡したけど、こんなものがなくても彼は交換してくれることは分かっていた。


 だって、彼は誰よりも優しい人だから。


 それからの私は、久坂さんや悠里さんと昼食をご一緒し、彼のお弁当に舌鼓を打ちながらも、気がつけば私の瞳には……いつも久坂さんが映っていた。


 そして、とうとう芹沢悠馬から私のスマホにメッセージが入る。


『明日の金曜日、悠里は風紀委員会に行く。その時を見計らって、久坂大和に告白する振りをしよう』


 それを読んだ時、私の中を占めたのは、こんなくだらないことに加担した私自身への怒りと、久坂さんと悠里さんに対する罪悪感だった。


 だから。


「久坂さん……私は……私は、あなたのことが好きです」


 そう告げた後、久坂さんが何かを言う前に。


「……と言うように、私は指示を受けました」


 そうハッキリと伝えた。


 それから、私は芹沢悠馬の企みを包み隠さず全て話した。

 久坂さんに罵られることも、嫌われてしまうことも覚悟の上で。


 だけど……だけど、彼は。


「そっか……ありがとう」


 そう言って、微笑んでくれた。

 こんな……こんなひどいことをした、私なんかのために。


 今まで我慢していた涙が、私の瞳から溢れ出る。

 申し訳なさと、こんな私を包み込んでくれた彼への想いで。


 その後、彼と悠里さんに励まされ、支えられ、そして救われた私は、完全に芹沢悠馬と決別するけど……卑劣なあの男は、うちの事務所に圧力をかけてきた。


 その結果、私は“ペール・ガーディアン”を無期限活動停止となった。


 でも、このことについては私は仕方ないと思っていた。

 だって、それだけのひどいことを、久坂さん達にしたんだから。


 なのに……なのに悠里さんは、あろうことかそれ以上の力を使って、私はすぐに“ペール・ガーディアン”に復帰するどころか、業界最大手で中岡グループ傘下の“ランド・サポート・コーポレーション”にグループごと移籍し、ますますアイドルとしての高みに上ることとなった。


 本当に……かなわない、なあ……。


 本当は、分かっていた。

 久坂さんの隣には悠里さんという素敵な女性がいて、そんな悠里さんがいるからこそ、あの優しく素敵な久坂さんがいるんだってことを。


 ◇


「ふふ……あの時、もっと早くに気づいていれば、こんなことにはなっていなかったかもしれませんね……」

「? エルザ?」


 どうやら私の呟きを聞いていたらしく、リーダーが不思議そうな表情を浮かべた。


「ふふ、いえ……ちょっと思い出し笑いです」

「そう? それよりも! いよいよ大晦日のほとんどの日本人が観るあのステージにこれから立つんだから、気合入れるよ!」

「大丈夫です! お弁当を食べた私は無敵です!」


 リーダーの檄に、私は小さなガッツポーズで応えた。


「よし! “ペール・ガーディアン”、行くよー!」

「「「「「おー!」」」」」


 久坂さん……私の想いはかないませんが、せめて……せめて今日だけは、お伝えしてもいいですよね……?


『人気絶頂のアイドルグループ、“ペール・ガーディアン”がお送りする曲は……!』


「――“届け、ナイショのこの想い”」

お読みいただき、ありがとうございました!


番外編の藤堂さん視点はいかがだったでしょうか?

ヤマトはしっかりと藤堂さんを餌付けしてましたw


これにて番外編は終了です!

ひょっとしたらまた、ヤマト達のアフターストーリーを書くかもしれませんねw


少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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[一言] 番外編、ひとまず完結お疲れさまでした。 あなたのために、歌います、ですか。届きはしないけれど。 でも、何があってもユーリより先に出会うことは出来なかったのですから、ifを考えてもしようがな…
[良い点] 更新お疲れ様です! やはりエルルン、胃袋を掌握されておったか… 汚い、さすがヤマトくん汚い…!おかわりください(←) 胸に秘めたナイショの思い…今頃TV見てる誰かさんはふくれっ面やろな…
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