久坂大和と中岡悠里は勉強会をする。
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「ヤマト! おはよー!」
土曜日の朝、俺は駅前で待っていると、ユーリがやってきて元気に朝の挨拶をする。
なお、今日のユーリは、グレーのダッフルコートにデニムのホットパンツ、黒タイツにこげ茶のローファーというコーデだ。眼福眼福。
「おう、おはよー!」
俺はそんなユーリに手を挙げて挨拶を返した。
うむうむ、やっぱりユーリは元気が一番だ。
「えへへー、今日はビシバシいくからね!」
ユーリはそう宣言すると、ビシッと俺を指差した。
「あ、あははー……お手柔らかに頼む」
俺は思わず冷汗をかきながら、苦笑いをした。
そう、今日は予定通りユーリとの期末テストに向けた勉強会なのだ。
そして……今日、家には誰もいない。
うう、それを考えたら緊張してきた……。
「と、ところでユーリ、昼メシは何が食べたい?」
「え? お昼?」
「おう。まずスーパーで昼メシと晩メシ買い込んだほうが手間も省けるし、そ、それに、その……これって、いわゆるお家デート、だろ?」
俺が恥ずかしそうにそう告げると。
「えーと……昨日の夜が焼肉だったから、お昼はさっぱりしたものがいいかなあ……そ、それと……ふああ、そんな風に言われちゃうと、緊張しちゃうよお……」
俺の緊張が伝わったのか、ユーリも両手で頬を押さえながら恥ずかしそうにした。
や、余計なこと言っちまった……。
「とと、とりあえずスーパーに行くか」
「う、うん……」
俺とユーリはどちらからともなく手を繋ぎ、近所のスーパーを目指した。
◇
「あああああ! チクショー、分からねーよ!」
俺は英語の長文を睨みながら、大声で叫んだ。
「ほらほら、長文問題は全部を訳す必要はないんだ。問題に関連する単語の前後を見ると、ある程度答えが予測できるから」
ユーリは一生懸命解き方を説明してくれるんだけど……そもそも、単語の意味がほとんど分からねーんだよ……。
「うーん……英語に関しては、まずヤマトに単語を覚えてもらうことが先決かも……ええと、ちょっと待ってね」
そう言うと、ユーリはカバンの中をゴソゴソと漁り、そして。
「はい」
ユーリが差し出したものは……うん、単語帳だな。
「私が英単語を覚えるために作ったものなんだ。これ、ヤマトにあげるね」
「そ、そりゃありがたいけど……い、いいのか?」
俺は差し出された単語帳とユーリの顔を交互に見ながら、おずおずと尋ねる。
や、だって、この単語帳作るのに、ユーリはすごく頑張ったわけで……。
「もちろんだよ! 私はヤマトにもっと勉強頑張ってもらって、そして……同じ大学に通うんだもん!」
そうか、そうだったな。
「悪い、ユーリ」
俺はユーリから単語帳を受け取り、強く握りしめた。
ユーリがここまでしてくれるんだ……ここでやらねーでどうするんだ!
ユーリの優しさと想いを受け取って気合が入った俺は、今までになく黙々と勉強をこなす。
そして、気づけば。
「んー……! ヤマト、そろそろ休憩しようよ!」
「え? 休憩? ……って、もうこんな時間かよ!?」
スマホの時計を見ると、時刻は既に一時を過ぎていた。
「わ、悪い! すぐにメシの準備するから!」
「ヤ、ヤマト、落ち着いて!」
俺は慌てて部屋を出ようとすると、ユーリが俺の脚にしがみついて制止した。
「もう……別にお昼過ぎたくらいで慌てなくたって……」
「や、だけど、せっかくユーリが勉強教えてくれてるのに、そのユーリを放ったらかしにするなんて……」
少し苦笑するユーリに、俺は申し訳なさでいっぱいになる。
けど。
「えへへ……でもそれって、ヤマトが私と同じ大学に行きたいって思ってくれて、それで真剣に勉強してくれた結果だよね?」
そう言うと、ユーリはニコリ、と微笑んだ。
「そ、そうだよ……俺はユーリと同じ大学に行きたいんだよ」
「えへへ」
うう、口に出すと恥ずかしいな……。
「と、とにかく、腹が減ったら勉強に集中できねーし、急いでメシ作るわ」
「あ、私も手伝……わないで、見守るだけにする……」
ユーリは勢いよく手を挙げようとして、シュン、としながらその手を引っ込めた。
「おいおい……ユーリはいつも、メシ以外の家事のほとんどを手伝ってくれてるじゃねーか。それに、今日だってこうやって勉強まで教えてくれてる。だったら、美味いメシを作ることは、むしろ俺に任せてくれよ」
「ヤマト……うん!」
俺の言葉に、ユーリの表情は明るさを取り戻した。
全く……ユーリがメシまで作れるようになったら、俺の存在意義が問われるっつーの。
てことで、俺はユーリのリクエストもあり、しめじとしその和風パスタとコンソメスープを簡単に作った。
「ふああああ……美味しそう……!」
「はは、まあ食おうぜ」
「「いただきます!」」
手を合わせるなり、ユーリが素早くフォークを持ってパスタ麺をクルクルと巻くと、そのまま口へ。
かなり時短で作ったから、ユーリの口に合えばいいんだけど……。
「うん! やっぱりヤマトの作るご飯は美味しいなあ……!」
ユーリは頬っぺたを押さえながら、最高の笑顔で咀嚼する。
ああ……本当にユーリは可愛いなあ……。
「ユーリのためだったら、これから先ずっと、どんなメシだって作ってやるよ」
「ふあ……ヤ、ヤマト、どうしたの……?」
俺の言葉に、ユーリが頬を染めながら上目遣いで尋ねる。
「いや……ただの俺の本音」
「ふああああ……嬉しい……」
そんな感じで、俺達は今日も幸せに昼メシを食べると、後片づけを済ませ、午後の勉強に取りかかる。
そして。
「よし! 終わった!」
「ヤマト、お疲れ様!」
期末テストの出題範囲を全てクリアし、俺とユーリはガッツポーズした。
「うん、やっぱり明確な目標があると、勉強もはかどるな」
「うん! ……って、期末テストのこと?」
何だよユーリ、そんなの、聞かなくても分かってるくせに。
「もちろん、ユーリと同じ大学に行くことだろ」
「うん……えへへ……」
ユーリは俺の答えに満足したのか、嬉しそうにはにかむと。
――ピト。
俺の隣にやって来て、もたれかかった。
「えへへー、勉強も全部終わったし、その……もう甘えたっていいよね……?」
「もちろん」
そう言うと、俺はユーリの髪を撫でる。
ユーリから、シャンプーのいい匂いがする……。
そっとユーリの顔を覗き込むと、ユーリは気持ちよさそうに目を細めていた。
ユーリ……。
「あ……ヤマト……」
俺はユーリに顔をそっと近づけ、そして。
「ん……ちゅ……」
ユーリにキスをした。
だけど……今日の俺は、ユーリが愛おし過ぎて、ついこんなことをしてしまう。
「っ! ……ちゅ、ちゅぷ……」
俺はユーリの口の中に舌を差し込む。
するとユーリは一瞬驚くけど、今度はユーリから俺の舌に絡めてきた。
「ちゅ……くちゅ……れろ……ちゅぷ……」
静まり返る部屋の中で、俺とユーリの舌を絡め合う音だけが響く。
「ちゅく……ぷは……ヤ、ヤマト……」
しばらく続いた濃密なキスを離すと、ユーリは上気した顔をしながらその潤んだ瞳で俺を見つめる。
ユーリ……俺、は……。
俺はそんなユーリの身体に手を回し、そっと触れ……。
「ただいまー!」
「なあああああああああああああ!?」
「ふあああああああああああああ!?」
玄関から元気よく聞こえてきた文香の声に、俺もユーリも思わず大声を上げた。
つ、つか、なんで文香がもう帰ってきてるんだよ!?
「ヤ、ヤマト、ほら……」
ユーリがガッカリした様子で俺にスマホの画面を見せる……って。
「も、もうこんな時間……」
スマホの時計は夕方の五時を示していた。
チ、チクショウ……! こんなことなら、昼の休憩の時に……。
俺は悔しさのあまり、ガックリとうなだれていると。
「(……こ、今度はちゃんと、その……ね?)」
蕩けるような表情を見せるユーリに耳元で囁かれ、逆にその興奮を静めるのに必死になる俺だった……。
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次話は明日の夜更新予定です!
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