久坂大和は中岡悠里達に奪われる。
ご覧いただき、ありがとうございます!
「「「「いただきまーす!」」」」
俺達は熱したホットプレートで焼かれている肉や野菜を眺めながら、もう待ちきれないとばかりに手を合わせた。
そして。
「ふああああ……お肉美味しいよお……!」
「んふふふふー! 美味しいです! 美味しいです!」
「あ! お兄! その肉は私が育ててるんだから、取っちゃダメ!」
と、三人とも存分に焼肉を楽しんでいる模様。
やっぱり焼肉の魔力はすげえ。
「つか、シメに焼きそばするから、ちゃんとペース配分考えろよー」
「「「了解!」」」
うむ、ならよし。
さて、それじゃ俺も……って。
「あのー……ユーリさん?」
「ふああ! 美味しい!」
俺が取ろうとした牛カルビ肉を、まるでハゲタカが掻っ攫うかのように自分の口に放り込むユーリ。
はあ……仕方ない、隣の……って。
「そのー……藤堂さん?」
「んふー!」
牛ロース肉を、まるでハイエナが盗み取るかのように自分の口に放り込む藤堂さん。
ふう……しょうがない、ウインナーでも……って。
「えーと……文香?」
「お兄、食べないの?」
キョトンとしながら、俺が取ろうとしたウインナーをシレッと口に放り込む文香。
あーはいはい、分かりましたよ!
俺は熱くなる目頭を押さえながら、ひっそりと焦げかけのピーマンに箸を伸ばした。
◇
「「「ごちそうさまでした!」」」
「はいはい、お粗末様でした」
シメの焼きそばまでペロリと平らげ、ご満悦の表情を浮かべる三人。
つか三人ともあんな細い身体してるのに、よくあれだけの量が腹の中に入るよな……。
そして、そんな三人を尻目に、俺が後片づけを始めると。
「あ、私もお手伝いします」
そう言って、テーブルの食器類をまとめる藤堂さん。
「むうううううう! 私も後片づけするもん!」
藤堂さんに妙に対抗意識を燃やし、こちらも後片づけに加わるユーリ。
や、手の数は多ければ多いほど助かるけど……何だろう、ちょっとギスギスしている気が……ま、まあいいか……。
俺はこれ以上深く考えないようにし、黙々と後片づけをする。
すると。
「久坂さん、こちらのお皿はどちらに片づければいいですか?」
「あ、ああ、それは後ろの棚に……」
そう言って、後ろに振り返ろうとしたところで……うおお!?
なんと、目の前には藤堂さんの顔があった。
「う、うおっと!?」
「キャッ!?」
危うくぶつかりそうになり、俺は仰け反ると、流し台に腰を打ってしまった。
「ア、アタタ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
藤堂さんが慌てて俺の傍に寄り、心配そうな表情で俺を見つめる。
つ、つか、顔がものすごく近いんだけど!?
「あ、だ、大丈夫だから」
「ほ、本当ですか?」
俺は手で制してそう告げるも、藤堂さんに引き下がる様子はない。
う、うーん……藤堂さん、やっぱりかなりの天然なんじゃ……。
「ハイハイ! ヤマト、少したるんでるんじゃないかな!」
見かねた……というより、イライラしたユーリが俺と藤堂さんの間に割って入り、キッ、と俺を睨む。
イヤイヤ、不可抗力だろ!?
「とにかく! ここは私とヤマトでするから、エルザはリビングに行ってて!」
そう言って、ユーリはカウンター越しにリビングを指差した。
「あ……は、はい!」
すると藤堂さんは嬉しそうにパタパタとリビングへ向かった。
「はあ……」
ユーリがホッと一息吐く。
「それより、藤堂さんのこと、エルザって呼ぶことにしたのな」
「だって、友達なのにそんなよそよそしい呼び方、変だよね?」
俺がニヤニヤしながらそう言うと、ユーリは苦笑しながら肩を竦めた。
「それより……ヤマト、浮気したら許さないんだからね?」
お、おおう……ユーリさん、何やら疑っている様子。
だけど。
「バーカ、俺は未来永劫ユーリ一筋だって何度も言ってるだろ?」
「えへへ……ホントはそうだって分かってるんだけど、ね……」
ユーリははにかんだ後、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
はあ……全く。
「わ!」
「だけど、そうやってヤキモチ焼いてくれるのは、ユーリが俺のこと好きなんだって示してくれてるみたいで、その……俺としては悪くない気分だけどな」
ユーリの頭を少し強引に撫でながら、俺はそんなことを言ったんだけど……やべ、この台詞、チョット恥ずかしい。
「うん……ヤマト、大好きだよ」
「ああ、俺もだよ」
◇
「お邪魔しました!」
藤堂さんが靴を履きながら、文香に挨拶をする。
「はい! エルルンもまたぜひ来てくださいね!」
文香も文香で、エルルンが家に来てくれたことが殊更嬉しかったようで、満面の笑みで手を振った。
「さあて、それじゃ二人とも、行こうか」
「「うん!(はい!)」」
という訳で、俺達三人は家を出た。
「ええと、藤堂さんの家はどのあたりなの?」
「あ、はい。私はここから五つほど離れた駅なんですけど……さすがに一般の方に見られるとまずいので、いつも駅からタクシーを利用してます」
「あ、そういえば」
確か駅前で芹沢とケンカしてるフリをしてた時も、タクシーに乗って行ったもんな。
「了解。んじゃ、藤堂さんも駅で」
「はい」
だけど、藤堂さんがすっかり元気になって良かった。
やっぱ焼肉の威力はすげえな。
なんてことを考えていると。
――ピト。
「ん? ユーリ、どうした?」
「ん……エルザ、元気になって良かったね」
「ああ……そうだな……」
俺とユーリは、すっかり機嫌が良くなった藤堂さんを見ながら、二人微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!