久坂大和は藤堂エルザを夕食に誘う。
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「ぐす……ひっく……」
号泣していた藤堂さんは、先程よりは少し落ち着きを取り戻したようだ。
それでも、まだその涙が止まる気配はない……。
何とか……してあげたいな……。
「な、なあ、藤堂さん」
俺はいてもたってもいられず、藤堂さんに声を掛ける。
「ぐす……はい……」
「藤堂さんは、今日はこれから仕事とかあったりする?」
「っ! ヤマト! 今はそんな話「い、いいえ……今日は元々予定はありません……」」
俺の言葉に反応したユーリが窘めるように声を上げるが、それでも藤堂さんは俺の質問に答えてくれた。
「そ、その、だったらさ……俺ん家、今日焼肉なんだよね……」
俺は頭をポリポリと掻きながら、そんなことを言ってみる。
「そ、そうだ! 藤堂さんもヤマトの家で一緒に焼肉食べようよ!」
すると、それを察したユーリが、早速藤堂さんを誘った。
藤堂さん、俺の弁当を喜んでくれたんだから、乗ってくれるといいんだけど……。
「ぐす……で、ですが……私がお邪魔しても、その……いいんですか……?」
よし! 食いついたぞ!
「も、もちろん! だって俺達、同じメシ食った“友達”だろ? 全然オッケー!」
「そ、そうだよ! 私も、藤堂さんと一緒に焼肉が食べたい!」
俺達は身を乗り出すようにして、藤堂さんに追い打ちをかける。
その時。
――ぐう。
「あ、あわわわわわ!?」
突然、藤堂さんのお腹が鳴り、彼女は顔を真っ赤にしてお腹を押さえた。
「あはは! よし、藤堂さんのお腹はバッチリ焼肉を食べたいって言ってるみたいだな!」
「うんうん! これはもう、ヤマトの家に来るしかないよね!」
「あうう……」
うん、ナイスタイミングで腹が鳴ってくれたもんだ。
お陰で藤堂さんも泣き止んで、すっかり意識が切り替わったみたいだ。
「さて。んじゃ、あんまり藤堂さんの腹を空かせたままじゃ悪いから、急いでスーパーに行こうぜ」
「うん!」
「あ、あうう……あんまりイジメないでください……」
うん……とりあえず、もう大丈夫、かな。
◇
「「ただいまー」」
俺は家の玄関を開け、三人で中に入ると。
「あ、お兄、悠里さんお帰りー……………………って、はあ!?」
出迎えた文香が、もう一人の来訪者を見て口をパクパクさせる。
「お、おじゃまします……」
「ペ……“ペール・ガーディアン”の、エルルン……!?」
うむうむ文香よ、初対面の人に向けて指を差すのは失礼だと思うぞ?
「あ、は、初めまして。“藤堂エルザ”です」
そう言うと、藤堂さんがペコリ、とお辞儀をした。
「ちょ! ちょちょちょっと! お兄!」
「わ!?」
「(な、なんでエルルンがうちの家に来てるの!?)」
俺は文香に強引に引っ張られ、そんなことを耳打ちされるが。
「決まってる。藤堂さんは俺達のクラスメイトで、“友達”だからな。今日は一緒に晩メシ食うことになった」
「はあああああ!?」
おうふ……耳元で叫ぶなよ。
「えへへー、そういうことで、今日は焼肉だよ!」
ユーリさんや、そういうことってどういうことだよ。
でも。
「焼肉! わーい!」
単純なうちの妹君は、焼肉というフレーズに完全に意識を奪われ、諸手を挙げてその喜びを表現していた。
「さあさあ、藤堂さんも上がって上がって!」
先に上がったユーリが、藤堂さんを手招きする。
「は、はい……」
藤堂さんはおずおずと中に上がると、「コッチだよ!」と案内するユーリの後をついていった。
さて……んじゃ、みんなが『美味い!』って言うような晩メシ、作るか。
俺はまっすぐキッチンに向かい、買い物袋から焼肉の食材を取り出す。
まず野菜類を綺麗に水洗い……って。
「と、藤堂さん!?」
「わ、私もお手伝いします!」
そう言うと、藤堂さんは俺の隣に立ち、テキパキと野菜を洗い始めた。
う、うーん……とりあえず、任せてみるか……。
手の空いた俺は、メインである肉の用意をする。
ボウルに買ってきた牛カルビと牛ロースを入れ、そこに醤油、酒、砂糖、コチュジャン、すりごま、ごま油と刻んだネギを入れ、さっくりと混ぜ合わせる。
次に、ウインナーに切れ目を入れて、と。
んで、藤堂さんの様子は、と……おお、意外と包丁捌きは様になってるぞ。
うんうん、料理スキルに関しては、圧倒的に藤堂さんのほうが上……ハッ!?
俺は急に冷たい視線を感じ、恐る恐るリビングに目を向けると、そこには頬っぺたをパンパンに膨らませたユーリが、洗濯物をたたみながらコッチを睨んでいた。
さ、さあて、料理の続きをするかな……。
「く、久坂さん! 野菜は一通りできました!」
「お、どれどれ……うん、綺麗にカットできてるな。藤堂さんが料理できるのは本当だったんだな」
「え、いや、そんな……」
俺が笑顔で褒めると、藤堂さんは恥ずかしそうにしながらはにかんだ。
うん、ここにファンがいたら、俺は確実に刈られていたことだろう。
「むうううううううううううう!」
……いや、俺の命も風前の灯火かも……。
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