久坂大和は藤堂エルザに意表を突かれる。
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「久坂さん……私は……私は、あなたのことが好きです」
…………………………は?
彼女、今なんて言った?
俺を、好き、だって?
俺は藤堂さんから放たれた一言に思わずフリーズしてしまい、教室内に沈黙が訪れた。
そして、我に返った俺の中から現れたもの……それは、今まで感じたことがないほどの強い“怒り”だった。
拳を強く握り、俺はその“怒り”に任せて言葉を発しようとした、その時。
「お「……と言うように、私は指示を受けました」……………………へ?」
完全に機先を制され、しかも、藤堂さんにすまし顔でそんなことを言われてしまい、俺の思考は今度こそ完全に停止した。
「久坂さん、本当にごめんなさい……私が馬鹿だったばっかりに、こんな真似をしてしまいました……」
藤堂さんは深々と頭を下げ、震える声で謝罪する。
「え? え?」
俺は理解が全く追いつかず、ただただマヌケな声を出すばかりだ。
「その……一からご説明します……」
藤堂さんは、事の仔細について丁寧に説明してくれた。
ユーリが毎日俺の家に通っている事実を知っていた藤堂さん達は、俺達が駅前に来るのを待ち、現れたタイミングを見計らって、藤堂さんと芹沢がわざと仲違いする場面を見せたこと。
学校内でも険悪なムードを演出しつつ、それをきっかけとして風紀委員(江藤)を通じて俺達に接近したこと。
そして、俺達との関係が深まったところで、藤堂さんが俺に嘘の告白することで俺とユーリを揺さぶること。
「……そして、その隙を突いて悠馬さん……いえ、芹沢悠馬が中岡さんを説得して、お二人の関係を解消させる……そんな計画でした……」
そう言うと、藤堂さんは今にも泣きそうな表情で、唇をキュ、と噛んだ。
はあ……成程ね。
「……なあ藤堂さん、二つほど聞いていいか?」
「っ! は、はい! 私でお答えできることでしたら何でも!」
俺が藤堂さんに声を掛けると、彼女は勢いよく顔を上げ、必死の表情で答えてくれた。
「まず一つ目だけど、どうして藤堂さんはそんな芹沢のずさんな計画に加担しようと思ったの?」
「はい……本当にお恥ずかしい話ですが、私はあの男から、『僕の大切な幼馴染が、久坂大和というクズに騙されている。だから、どうか手助けをして欲しい』と頼まれたんです……」
オイオイ、陰で俺のことをクズ呼ばわりかよあのストーカー!
「そして、その後に聞かされた久坂さんの悪事の数々と、以前あの男に救われた恩もあり、私は二つ返事で協力することにしたんです……」
つか、俺の悪事の数々、超気になるんだけど!?
「えーと、色々聞きたいことがあるのはやまやまなんだけど、とりあえず二つ目。それで、どうして藤堂さんは計画をぶち壊しにして、そのことを俺に話したんだ?」
「それはっ! ……それは、久坂さんと中岡さんのことを、知ったから……二人が本当は優しくて、お互いのことを想い合っていて、そして……久坂さんがそんな真似をするような人じゃないと、知ったから……」
そう語ると、藤堂さんは今まで見たこともないような悲しい表情を見せた。
それこそ、泣いてはいないんだけど、それ以上に泣いているかのような……そんな顔。
「そっか……ありがとう」
俺は藤堂さんにそう告げると、彼女に向かって微笑んだ。
「っ! …………………………うう」
そして、そんな俺を見た彼女は、とうとう泣き出してしまった。
あーあ……あの野郎共、本当にクズだな。
「さて、と。ユーリ、いるんだろ?」
俺は教室の扉のほうへと振り向き、そう声を掛けた。
すると。
「ヤマト……」
ユーリは今にも泣き出しそうな、そんな表情で俺をじっと見つめる。
まあ、俺とユーリを仲違いさせるなら、現場を直接見せるほうが効果的だからな。クソが。
「おう。ま、聞いてたと思うけど、どうやらそういうことらしいぞ」
「うん……」
俺が努めて明るくそう言うが、ユーリは顔を伏せてしまった。
ああ、本当にムカつく。
「それと! もう一人いるんだろ!」
俺は腹の底から大声で叫ぶ。
この二人の女の子にこんなに悲しい思いをさせた張本人……“斎藤一哉”に向けて。
「……いや、俺は覗くつもりはなかったんだが、つい「今回の件、仕組んだのはオマエだろ?」」
言い訳がましく説明を始めた斎藤の言葉を遮り、俺は確信めいた言葉を告げた。
「待て。言っている意味が分からないが?」
それでもなお、斎藤はとぼけながら肩を竦める。
「そもそも、この俺が仕掛けたというのなら、そこにいる藤堂さんに確認してみたらどうなんだ?」
そう言うと、斎藤は口の端を吊り上げ、藤堂さんを指差した。
「……藤堂さん」
ユーリが少し弱々しい声で尋ねる。
「……いえ、私はこの計画を芹沢悠馬から聞きましたから、斎藤さんが関与しているかどうかは……」
そう言って、藤堂さんはかぶりを振った。
「ふう……大体、なんでこの俺があの男の手助けをしないといけないんだ? そもそも俺と芹沢には接点がないんだぞ?」
藤堂さんの言葉を受け、斎藤は少し勝ち誇るかのようにそう言うが、オマエ、自分で自分の首を絞めてるぞ?
「ええと? 『僕にはたった一人、大切な親友がいます。それは、三組の芹沢悠馬です』だったっけ?」
「っ!?」
俺がそう呟くと、表情や態度こそ変わらないものの、明らかに斎藤の様子がおかしくなった。
「え、ええと……ヤマト……?」
俺の言葉の意味が分からず、ユーリはおずおずと俺に尋ねる。
「ん? ああ、コイツと芹沢……もちろんユーリもだけど、同じ中学出身なんだ。だよなあ? 三年一組、斎藤一哉くん?」
「…………………………」
揶揄うようにそう告げると、斎藤は俺を睨みつけるが……ぶっちゃけキレてるのはコッチなんだよ!
「ええと、何だっけ? 小学校でイジメられてたところを、芹沢の奴に助けてもらって、それから親友になったとかなんとか「黙れ!」」
俺がふざけながらそう言うと、斎藤が醜悪な顔で怒鳴った。
「そんなわけで、コイツは芹沢と繋がってたってことだ。んで、アイツに協力して色々とコソコソ動いてたっつーことなんだけど……俺、何か間違ったこと言ってるか?」
「…………………………」
俺は齋藤に尋ねるが、結局は無言を貫く。じゃあ初めから怒鳴るなよ。
「ま、黙ってる時点で認めているのと同じなんだけどな。とにかく、オマエ等の計画は失敗したんだから、サッサと芹沢にでも伝えに行ったらどうだ? つか、案外教室の外にいたりして」
「…………………………」
俺の言葉に歯ぎしりしながら、斎藤は無言のまま教室を出て行った。
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