久坂大和は藤堂エルザに話を持ちかけられる。
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――キーンコーン。
「おっしゃあ! 今週も終わり!」
金曜日の授業終了を告げるチャイムが鳴り、俺は思わずガッツポーズをする。
何つっても、明日もユーリが家に来て、一緒に期末テストに向けた勉強会をすることになっているのだ。
や、ユーリは毎日来てはいるんだけどね。
とはいえ。
「ヤマト! 明日はよろしくね!」
ユーリもそれはそれで嬉しいようで、駆け足でこちらにやって来ると、笑顔で念を押してきた。
「お、おう」
ヤベ、ユーリを見てたらちょっと緊張してきた。
だって……明日、文香は友達と遊びに行くっつって、いないんだよ……。
「あー、えへへ……ヤマト、緊張してるでしょ?」
ユーリが俺の顔を覗き込みながら、悪戯っぽく微笑む。
どうやら俺の考えていることは筒抜けだったようだ。
「そ、そういうユーリはどうなんだよ?」
「ふあ……私は緊張と期待で半々、かなあ……」
頬赤らめ、ユーリはひとみを潤ませてそう答えた。
き、期待、ですか……そ、それって……い、いやいやいや! そ、それはまだ早いと思います!
「と、とにかく! ユーリはこれから風紀委員会だろ? 今日は終わるまで待ってるからさ、早く行って来いよ」
「え? そうなの?」
俺が終わるまで待つと告げると、ユーリは意外だったのか不思議そうな顔をする。
「おう。今日の晩メシは焼肉でもしようかと思ってるから、あんまり準備とかもないしな」
「焼肉!」
おおう、ユーリが“焼肉”というフレーズに飛びついたぞ。
「つーわけで、俺は教室にいるから早く行って来い」
「うん! やっきにく♪ やっきにく♪」
ユーリが焼肉の大合唱をしながら教室を出て行く。
うん、やっぱりユーリは可愛いなあ。
さて、と。
「ふわあ……ユーリが戻ってくるまで、昼寝でもするかあ」
俺は席で突っ伏すと、そのままスヤスヤと眠りについた……んだけど……。
「……さん」
ん? 誰かが俺を呼んでるぞ?
「……さん、久坂さん」
どうやら気のせいじゃないみたいだな……。
俺は眠っていた頭を無理矢理たたき起こし、気怠そうに顔を上げると。
「すいません、久坂さん……」
そこには、申し訳なさそうに俺を見つめる藤堂さんがいた。
「あ、ああいや、別に構わねーけど……どうしたの?」
「あ、は、はい……少し、お話が……」
そう言うと、藤堂さんは教室をキョロキョロと見回す。
俺も同じように周りを見ると……うん、教室には俺と藤堂さんしかいないぞ。
……この状況、藤堂さんのファンに見つかったらかなりマズイんじゃ……。
◇
■中岡悠里視点
「……では、今日の定例会議は終了する」
木戸先輩が会議終了の宣言をすると、風紀委員達はそれぞれ肩の力を抜いた。
さーて……えへへ、今日は焼肉だ!
楽しみだなあ……って、ひょっとしてだけど……まさか、その、せ、精をつけるために焼肉にした、とか、そんなことはない……よね?
ど、どうしよう……そう考えると私、すごく恥ずかしいことを嬉しそうに!?
「む、悠里、どうした?」
「ふあ!? いいいいえ! 何でもない! 何でもないです!」
「? そうか?」
突然声を掛けられて慌てふためく私を、木戸先輩は不思議そうに眺める。
うう……こ、これ以上追及される訳にはいかない!
「す、すいません! ヤマトを待たせているので、これで失礼します!」
「あ、ああ……お疲れ?」
そう言うと、私はそそくさと風紀委員会室を飛び出す。
すると。
「ああ、中岡さん」
「あれ? 斎藤くん?」
部屋を出たところで、斎藤くんにバッタリ出くわした。
だけど、斎藤くんの様子が少しおかしい……。
「中岡さん……少しいいか?」
神妙な面持ちで、斎藤くんが私を手招きするけど……一体何だろう?
「どうかした?」
「ああ、いや……その……ついてくれば分かる……」
斎藤くんは気まずそうに、申し訳なさそうにそう呟くと、廊下を歩き出した。
「……?」
私は訳が分からないまま、とりあえず彼の後をついていく。
でも、向かっている先って……うちのクラスだよね?
そして斎藤くんは案の定、教室の前でピタリ、と止まった。
すると。
「(ここからは声を出さないで欲しい……)」
斎藤くんが人差し指を立てて口を塞ぐ仕草をしながら、小声でそんなことを言った。
本当に、一体何があるんだろう……。
「(そっと教室の中を覗くといい)」
? 教室?
訳が分からないまま、私は言われた通りに扉の隙間から教室の中を覗くと。
「っ!?」
そこには、ヤマトと藤堂さんが二人きりで話をしていた。
え? え!? これって……!?
この状況に思考が追いつかず、頭の中がパニックになる。
「(シッ、静かに……とりあえず、様子を見てみよう……)」
傍に寄る斎藤くんの言葉に頷くと、二人を凝視しながら私は耳を傾ける。
「え、ええと……藤堂さん……?」
「あ、は、はい……その……私、今まで本当に久坂さんのことを誤解していました……」
「あ、ああうん、それは前にも聞いたよな?」
「はい……そして、久坂さんとお昼をご一緒するようになり、久坂さんの人柄を知るにつれ、その……ますますその印象は変わって……」
「あ、そ、そう……」
たどたどしく話す藤堂さんに、ヤマトは戸惑いながら聞いている。
こ、これって、ひょっとして……。
「そ、それで……その……私の中で久坂さんの存在がどんどん大きくなって、気がつけば、私の中は久坂さんでいっぱいになって……!」
藤堂さんの顔が上気し、潤んだ瞳でヤマトを見つめる。
あ、こ、これ、やめさせなきゃ……!
だけど。
「(……今、出て行ってはいけない)」
「(っ!? お、お願い! そこを退いてよ!)」
立ち塞がる斎藤くんに、私は小声で懇願する。
でも、斎藤くんは静かに首を横に振る。
そして。
「(……中岡さん、酷なことを言うけど、藤堂さんは仮にもトップアイドルだ。結局は久坂も、彼女を受け入れることになるだろう……それでも、君はあの男を選ぶのか?)」
え!? さ、斎藤くん何を言って……!?
その時。
「久坂さん……私は……私は、あなたのことが好きです」
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次話は明日の夜更新予定です!
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