久坂大和は藤堂エルザに芹沢悠馬との出会いを尋ねる。
ご覧いただき、ありがとうございます!
「えへへー、ヤマトーヤマトー!」
初デート、そして、初キスから一週間経過後の昼休み。
俺は今、風紀委員会室でユーリがモーレツに甘えてスリスリゴロゴロしている。
や、ユーリさん? 周りが見てるんですけど?
「んふふー、今日も美味しいです!」
あ、藤堂エルザは弁当に夢中でコッチ見てなかったわ。
「ふむ……久坂くん、ついでに私も甘えていいか?」
「木戸先輩、ヤメテクダサイ」
今日の藤堂エルザ番である風紀委員長様が、また訳の分からないことを言い始めた。
この人、一体どこからどこまでが本気なんだろう……。
「えへへー、木戸先輩ダメですよ? ヤマトは私だけなんですから」
ユーリがそれはもうニコニコしながら先輩を窘める。
いやあ、ゴキゲンだから怒らないのな……いや違った。ユーリ、メッチャ怒ってる。
だって、眉毛がピクピクしてるし。
「ふむ、仕方ない。今日のところは諦めるか」
「「いや、明日以降も諦めてくださいよ」」
俺とユーリは二人同時にツッコミを入れるが、先輩は素知らぬ顔で弁当を食べ始めた。
ちなみに、今日はなぜか俺とユーリの分だけでなく、先輩、藤堂エルザの分も持ってきている。
いやあ、まさか藤堂エルザだけじゃなく、風紀委員の面々からも弁当の催促を受ける羽目になるとは思ってもみなかった。
何でも、ユーリが風紀委員会で散々自慢するのと、同席している委員達がどうしても食べたいとユーリと木戸先輩に懇願したのが原因とか。
『いや……すまんが、これからはうちの委員達にも弁当を作ってやってはくれないか……?』
月曜日、あんなに神妙な面持ちで木戸先輩に頼まれた時は、さすがに断れなかったなあ……。
そしてそうなると、当然藤堂エルザだけ仲間外れにする訳にもいかず……結局、文香の分も入れて毎日五人分の弁当を作る始末だ……。
でも。
「ふああああ……今日もヤマトのお弁当は美味しいなあ……」
「ええ……本当に美味しいです……」
「ふむ……どうだ久坂くん、ぜひともうちの婿に……?」
まあ、みんなこうやって美味しそうに食べてくれるんだから、作り甲斐あるんだけどな。
つか先輩、そのうちユーリに刺されますよ?
それより。
「なあ藤堂さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「? 私ですか?」
俺が藤堂エルザに声を掛けると、彼女は箸を口にくわえたままキョトンとした。
うーん……この仕草、本当にアイドルなんだろうか……。
「あ、うん……その、藤堂さんは芹沢の奴とは仕事か何かで知り合ったんだよな?」
「ええ、そうですね。今年の春くらいにバラエティ番組の収録でご一緒したんですが……」
そう言うと、藤堂エルザが途端に暗い表情を見せた。
何かあったんだろうか……。
「え、ええと……実は私、その収録の時に失敗して、大御所のタレントさんを怒らせてしまって……」
「ふんふん」
ユーリも箸をくわえながら興味深そうに頷く。
や、ユーリさんや、藤堂エルザと同じ仕草をしてますぞ?
「その時です。沖田晴斗……いえ、芹沢悠馬さんが私を助けてくれたのは」
藤堂エルザは俯いていた顔を上げ、真剣な表情でみんなを見る。
「悠馬さんは、その大御所のタレントさんと私の間に入り、その方とまるで私の話題を逸らすかのように話をしながら離れ、しばらくすると戻って来てこう言いました。『あの人には僕からちゃんと話をしておいたから、君は心配することはないよ』って」
「へえ……」
「それからも、番組などでお会いする機会があるたびに、色々と声を掛けたり気を遣っていただいたりして……わ、私、芸能界で……いえ、プライベートを含めて、その……と、友達がいなくて……それでその、悠馬さんのお気遣いが嬉しくて……」
藤堂エルザは静かに目を瞑りながら、そっと胸に手を当てた。
成程ねえ……それで、藤堂エルザ……いや、藤堂さんは、芹沢の奴に絆されちまった、ってことか。
「それで私は一念発起して、マネージャーさんにお願いして悠馬さんが通う学校を調べて、この学校に来たんです……」
「そっか……」
ふうむ……何つーか、行動力がすげえ。
この行動力こそが、トップアイドルたる所以なのかな。
「ふむ……で、この学校に来てみてどうだ?」
先輩が顎をさすりながら藤堂さんに尋ねる。
すると。
「はい! すごく楽しいです! そ、その、最初は私も色々と勘違いしたりして、久坂さんや中岡さんにひどいこと言ってしまったり、その……で、ですけど、こうやってご一緒にお弁当を食べたりして、本当に嬉しい……です……」
そう言って、藤堂さんは顔を赤らめながら俯いてしまった。
ああ、こんな彼女を見ちまったら、男ならほぼ全員魂を持ってかれちまうな……。
「そっか。まあヤマトのお弁当を一緒に食べる“友達”としては、そう言ってくれると嬉しいかな」
「っ! は、はい!」
ユーリは藤堂さんを見ながらニコリ、と微笑む。
ああ、こういうところ、だよなあ。
ユーリのこういうところに、俺は惹かれるんだよなあ。
俺は楽しそうに話すユーリと藤堂さんを眺めながら、気がつけば頬を緩めていた。
すると。
――キーンコーン。
「む、予鈴が鳴ったな。早く行くぞ」
俺達は慌てて弁当を片づける。
「あ、そうだ藤堂さん、最後に一つだけ。その、君に絡んだ大御所タレントって誰?」
「あ、ええと……さすがにそれを他の方に言うのは……」
「えー、いいじゃん。誰にも言わないから、ね?」
藤堂さんは困った表情を浮かべるが、それでもなお俺は拝む仕草をみせてお願いすると。
「はあ……絶対にナイショですよ? その……“山南藤十郎”さんです……」
「ええ!? そうなの!? そっかー……本当にありがとう!」
「あ、い、いえ」
渋々答えてくれた彼女に驚いたフリをしつつ、俺は心からお礼を言うと、三人で急いで教室へと向かった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の夜更新予定です!
少しでも面白い! 続きが気になる! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




