久坂大和は中岡悠里の背中を押す。
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「な、なあ、あれ……」
「シッ!」
俺達は曲がり角の陰から、ユーリの家の前にいる高級車の後部座席の誰かと話す、芹沢の様子を窺う。
「アイツ……!」
そして、ユーリは唇を噛みながら忌々し気に芹沢を睨みつけた。
「な、なあ……」
俺は状況が飲み込めず、そんなユーリに恐る恐る声を掛ける。
「……今、悠馬が話してるの、私のお父様なんだ……」
「ユーリのお父さん?」
俺は思わずユーリに聞き返す。
つか、なんで芹沢の奴がユーリのお父さんと話してるんだ?
しかも、ユーリの家の前で。
「……お父様と悠馬の父親が親友同士で、その関係で悠馬とは子どもの頃からの顔見知り、なんだけど……」
ユーリは少し悲しそうな表情を浮かべ、俯きながら訥々と語り出した。
◇
私と悠馬が初めて出遭ったのは小学一年の入学式の時。
その時、元々親友同士だったお父様と悠馬の父親がばったり会って、それで、入学式が終わった後に、お父様から悠馬を紹介されたんだ。
『ぼ、僕は“芹沢悠馬”です! よよ、よろしくお願いします!』
『“中岡悠里”です』
その時の悠馬は、なぜだか分からないけどすごく緊張しながら私に自己紹介をしてたのを覚えている。
私もお父様の手前、社交辞令として悠馬に自己紹介をしたんだけど……。
『悠里、悠馬くんとは特に仲良くするように』
それからというもの、なぜかお父様は私に悠馬と積極的に仲良くなるように強く勧めたんだ。
だから、お互いの父親同士が集まる時には、いつも私も同席させられて、そして、その時は悠馬と一緒に遊ばされたんだ。
そして、お父様が決まって『悠馬くんと仲良くなるように』と言うんだよ……。
それからかなあ。
悠馬が、やたらと私に干渉するようになったのは。
『悠里、あの子の言うことなんか聞いちゃダメだ』
『あの子は悠里に悪いことを教えるから近づいちゃいけない』
『そんなことをするのは、悠里には似合わないよ』
『この学校で悠里に相応しいのは、僕だけだよ』
事あるごとにそんなことばかり言う悠馬が、私にはすごく鬱陶しくて、小学校の中ではずっと悠馬のこと、無視してたんだ。
そしたら。
『悠里、悠馬くんから聞いたぞ。お前は中岡家に相応しくない行動ばかりしていると』
『わ、私はしてません!』
『嘘を吐くな。とにかく、悠里は悠馬くんとだけ付き合うようにしなさい』
悠馬がお父様にあることないこと告げ口して、私は何もできなくなっちゃったんだ……。
小学校では悠馬に監視され、それ以外はお稽古事とお父様の付き添いで悠馬の相手をさせられる。
なのに……なのに、お父様からは『中岡家に相応しい振る舞いを』といつも強要されて……だけど、それを惰性で受け入れていた自分がいて……。
◇
「……そして、そんな私は“あの時”、ヤマトに救われて、お母様はそんな私を抱きしめてくれて……」
「……うん」
「だけど……だけど! アイツは今でもああやってお父様に告げ口して! お父様も、今でも私に『中岡家らしく』って、『悠馬と仲良く』って!」
ユーリは怒りに満ちた表情で、その拳を強く握りしめた。
だから、俺は。
「そっか……だけど、ユーリには俺だっているし、それに、ユーリのお母さんだって、ユーリのこと大切にしてくれてるんだろ? だったら“あの時”も言ったけど、ちゃんと声に出して言わなきゃな?」
俺はユーリの頭をポンポン、と撫でながら、微笑みかけた。
「うん……ヤマト、また“あの時”みたいに、私に勇気をくれる?」
「おう! 俺はいつだって、ユーリの背中を押してやるよ!」
そう言って、柔らかい笑顔を見せるユーリの背中をバシン! ……とはいかないまでも、軽く叩いた!
「えへへ……うん! これで、家に帰ってお父様に何か言われても、ちゃんと言ってやるんだ!」
「はは、その意気だ!」
俺とユーリはお互い頷き合っていると。
「お、芹沢の奴が車から離れてどっか行ったぞ?」
そして、ユーリのお父さんは車から降りてくると、そのまま家の中へと入り、車はどこかへ行った。
「さてさて、ユーリさんや?」
「なあに? ヤマトさん?」
「ここに一人、明日のデートを最高なものにしたいがために、お節介を焼こうとしてるバカが一人おりますが?」
「プ……あはは! そうだね! それだったら、一緒に家までついて来てもらっちゃおう、かなあ?」
おどけて言う俺に、ユーリは俺の顔を覗き込みながら、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「よろしい。ならば参りましょう、お嬢様」
「えへへ……うん!」
俺と恭しく手を差し出すと、ユーリは自分の手をそっと乗せた。
ユーリ……絶対に俺がお前を……って眩しっ!?
いきなり後ろから車のヘッドライトで照らされ、俺は目を細めながら振り返る。
すると。
「あらあら! ユーリじゃない!」
高そうなスポーツカーの運転席から、綺麗な女性がにこやかに声を掛けてきた。
「お母様!」
へ? “お母様”?
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