久坂大和は中岡悠里にご褒美をもらう。
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「ホラホラ、あと少しだから」
「ぐむむ……」
数学の問題集とにらめっこしながら呻く俺に、ユーリは副委員長モードで追い立てる。
くそう、確かに凛としたユーリもカッコ可愛いけど、今ばかりは苦痛と恐怖の対象でしかない。
「ヤマト、ここはこの式を代入して……」
や、もちろんユーリは懇切丁寧に教えてくれるんだけどね。
「よ、よし……あと一問……」
「そうだよ! ラストスパート!」
残り一問になり、俺は必死で問題を解く。
ええと……アレを因数分解して、この式を……で、できた……のか……?
俺は顔を上げ、恐る恐るユーリの表情を窺う。
すると。
「んー……うん! オッケーだよ!」
「よ、よっしゃあああああああ!」
ユーリのお墨付きをもらい、俺は思わず両の拳を突き上げてガッツポーズした。
いやあ……俺、ぶっちゃけここまで勉強したの、初めてかもしれん。
ま、まあ、俺もユーリと同じ大学行きたいし、これからは真面目に……って。
「ユ、ユーリ、何してんの?」
「ん? ヤマトが頑張ったから、頭を撫でてあげてるんだけど?」
イヤイヤ、頭撫でるって、子どもじゃねーんだから。
でも……なんだか懐かしい……。
まだ母さんが生きてた頃は、よくこうやって撫でてくれたっけ。
そんなことをしみじみ思い出していると。
「ん? ユーリ?」
いつの間にかユーリは顔を覗き込んでいた。
「ね、ねえヤマト」
「ん?」
「そ、その、ヤマトはすごく頑張ったよね?」
「おう! こんなに勉強したことはないくらい真面目に取り組んだぞ!」
そう言って、俺は胸を張った。
「そ、そっか。じゃ、頑張ったヤマトにご褒美をあげるね?」
すると、ユーリはその顔を近づけ……俺の頬に、そっとキスをした。
「あの……ユ、ユーリ……」
「え、えと、その……ご、ご褒美、だから……」
ユーリはすぐにその唇を離すと、顔を真っ赤にさせて俯いた。
俺? 俺はあまりの出来事に、ただ呆けて自分の頬を撫でることしかできなかったぞ?
だけど……じわじわと俺の中で、実感が湧いてきて。
そして。
「う」
「う?」
「うおおおおおおおおおおおおお!」
「ふああああ!?」
俺はあまりの嬉しさと興奮で、過去類を見ない程の大絶叫をカマすと、ユーリは驚きのあまり後ろへ倒れ込んだ。
――ドスドス! バン!
「お兄! ウルサイ!」
俺の声を聞きつけ、文香が俺の部屋を勢いよく開けた。
だけど、この時の俺とユーリは、両腕を突き上げて興奮する俺と、倒れ込んで床に寝そべるユーリがいる訳で……。
「……し、失礼しましたー」
文香が顔を真っ赤にしながら、パタリ、とドアを閉めた。
「あああああ! チョット待て! 違う! 誤解してる!」
「ふああああ! 文香ちゃん! 違うから!」
俺とユーリは慌てて文香に説明しようとするんだけど。
「あ、いや、分かってるから……」
そう言って顔を背けながら、そそくさと部屋に籠ってしまった……。
「「ち、違うのに……」」
俺とユーリは、文香の部屋の前でガックリとうなだれた。
◇
「「はあ……」」
ユーリの家の最寄り駅を降りた俺達は、大きな溜息を吐く。
つか、ここまでの道中ずっと溜息吐きっぱなしだったけど。
「ああ……文香ちゃんの誤解が解ければいいけど……」
ユーリはものすごく困った表情でそう呟く。
「ま、まあ、文香には俺からもう一度説明するとして……そ、そこまで心配しなくても「心配するよ!」……お、おおう……」
俺が慰めも兼ねてそう言うと、なぜかユーリは不安そうに叫んだ。
「な、なあユーリ、なんでそこまで気にするんだ?」
俺はユーリの様子が気になって尋ねると。
「だって……文香ちゃんに変に思われて、ヤマトとこのまま付き合うことを反対されたりしたら、嫌だもん……」
そう言うと、ユーリは悲しそうに俯いた。
はあ……本当に俺の彼女は。
「バーカ、文香が俺達のこと反対するわけねーだろ」
俺は、落ち込むユーリの頭をくしゃ、と少し乱暴に撫でた。
「だ、だけど……」
「今回の件は、ユーリじゃなくて絶対俺が怒られるパターンだ。『悠里さんに何してるの! 捨てられたらどうするの!』ってな」
俺は少しでもユーリんお不安を取り除くために、努めて明るい表情でユーリを見る。
すると。
「ホ、ホントに?」
ユーリがおずおずと聞き返す。
「おう、間違いねーな。だからユーリは、何一つ心配することなんかねーって」
「うん……」
するとユーリは安心したのか、柔らかい表情になって、頭に置いている俺の手にそっと触れた。
「それに、たとえどんなことがあっても、ユーリを手放す気なんか、これっぽっちもねーからな」
「あはは、うん……もちろん私だって、ヤマトと離れるつもりなんかこれっぽっちもないんだから」
「はは」
「えへへ」
そう言うと、俺達はお互いを見つめ合って、そして、笑った。
「さて、それじゃ早くお前を家まで送り届けないと。それこそユーリの親御さんに変に思われて、『あんな男と会うのはやめろ!』なんて言われたくないしな」
「あはは! 大丈夫だよ! だって、お母様はヤマトのこと気に入ってるもん!」
「へ?」
え? なんで?
俺、ユーリのお母さんなんて会ったことないんだけど。
「あ、ああ、私がいつもヤマトのことお母様に話してたら、お母様が気に入っちゃって……」
「あー、そういうことか」
成程、それなら納得だ。
そして俺達は、明日のデートのことなんかを話しながら歩いていたら、あっという間にユーリの家に着いたんだけど。
「な、なあ、あれ……」
「シッ!」
俺達はユーリの家の手前の曲がり角で隠れるようにしながら、家の前を覗く。
そこには……高級車の後部座席に乗っている誰かと話す、芹沢の姿があった。
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