久坂大和は中岡悠里に勉強を強いられる。
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――キーンコーン。
放課後になり、クラスメイト達が帰り支度を始める。
そんな中。
「ヤマト! 一緒に帰ろ!」
ユーリが俺のところにやって来て、元気に声を掛けてきた。
「おう。今日も風紀委員会はいいのか?」
「うん! 今日は定例日じゃないし、アッチのほうは、私は関わっちゃダメだし」
そう言うと、ユーリは窓際の席をチラリ、と見た。
当然そこには、風紀委員に守られ(監視され)ている芹沢と藤堂エルザがいる。
そして、その二人は今日も険悪なムードで、お互い視線すら合わさない。
ま、俺達には関係ないけど。
「そか。んじゃ、今日もスーパー寄って帰ろうぜ」
「うん!」
俺は席を立ってカバンを持つと。
「ふあ……」
もはや教室内だろうとお構いなしに、俺はユーリの手を握った。
どうせクラスの奴等は芹沢達しか見てないだろうし、何より、ユーリは俺の彼女なんだって、俺はユーリの彼氏なんだって、学校の連中に知らしめたいと思ってるから。
そうすれば、芹沢もユーリをいい加減諦めるだろうし。
そして……これは、ユーリを絶対に渡さないっていう、芹沢への宣戦布告でもあるのだ。
で、俺達は手を繋いだまま教室を出るんだけど……芹沢は思った通り今にもつかみ掛かってきそうなほど怒りの表情を俺に向けている。ザマアミロ。
「あ、ヤマトが悪い顔してる」
「ん? そうか?」
ユーリがニシシ、と含み笑いをしながら俺の顔を覗き込む。
ま、指摘通りの顔なんだろうけど。
◇
「ただいまー、っと」
「ただいまー!」
俺とユーリは鍵を開けて家に入ると、俺は早速キッチンへ向かう。
ユーリ? ユーリはベランダに干してある洗濯物の取り込みだ。
ユーリは俺と付き合うようになって、本当に家事の手伝いを率先して、してくれる。
お陰で、最近は時間にもかなり余裕ができて、休日なら一日分くらいの隙間が作れるようになった。
だから。
「なあ、ユーリ」
「ヨイショ……ん? 何?」
洗濯物を取り込んで中に入ってきたユーリに声を掛けると、彼女は柔らかい微笑みを浮かべた。
あ……可愛い。
「? ヤマト?」
「あ、ああ、悪い……その、あ、明日って土曜日じゃん?」
「んー、そだね……」
うーん、俺ってば話の切り出し方がヘタクソだなあ……。
とはいえ、ユーリも何かを察したようで、少しモジモジしている。
「その、さ……例の指輪、サイズを合わせに行くついでに、その……デ、デートとか……どう……?」
オイオイ、俺がモジモジしたところで、需要は皆無だろーが! ……って、思っても、やっぱりチョット恥ずかしい……。
で、俺は恐る恐るユーリを見るんだけど……。
「ふあ……う、うん……その……よ、よろしくお願いします……」
ユーリは顔を真っ赤にしながら、両手で口元を押さえて俯いた。
な、何だよもー! いつもの凛としたユーリも可愛いけど、こうやって女の子らしい仕草をするユーリ、超可愛いんだけど!
「お、おう……そういうことだから……あ、明日、何時に待ち合わせにする?」
「う、うん……じゃ、じゃあ、朝の十時に駅前で待ち合わせで、い、いいかな……?」
「りょ、了解……」
俺達はお互い視線を合わすことができないまま、明日のデートの約束をした。
とはいえ、俺はキッチンカウンターの向こう側で密かにガッツポーズしていたのは内緒だ。
「二人とも……」
「うおっ!?」
「ふああ!?」
いきなり現れた文香に、俺達は思わず仰け反る。
「はあ……全く、一緒に家事までする仲なのに、たかだかデートの約束するだけでそこまでモジモジするって……どうなの?」
「う、うるせー!」
大きく溜息を吐いてかぶりを振る文香に、俺はそんな捨て台詞を吐くのが精一杯だった。
◇
「「ごちそうさまでした!」」
「うむうむ、お粗末様でした」
今日の晩メシ……カボチャの味噌汁と筑前煮、ブリの照り焼きを食べて至福の表情を浮かべる二人を見て、俺の顔も思わず綻ぶ。
本当にコイツ等、メシの食わせ甲斐があるな。
「ホレ、デザートだ」
「「わあい!」」
ウサギにカットしたリンゴを並べた皿を差し出すと、二人が嬉しそうに飛びついた。
うむうむ、今日も久坂家は平和なり。
「ソレ食べたら、文香はちゃんと勉強するんだぞ」
「もー! 分かってるよ!」
俺がそう忠告すると、文香が露骨に顔をしかめる。
や、でもお前、俺が言わないと勉強しねーじゃねーか。
「あはは。そういうヤマトはちゃんと勉強してるのかな? もうすぐ期末テストだけど?」
ハムスターみたいにはむはむとリンゴをかじるユーリが、ニヤニヤした顔でそんなことを聞いてきた。
つか、俺にも威厳があるんだから文香の前で聞くな。
「お、おう! もちろんだとも!」
「ホントに~?」
まるでこれっぽっちも信じてないとばかりに、ユーリは俺の顔を覗き込まれ、俺はつい顔を逸らしてしまった。
「あはは。もう、仕方ないなあ……ヨシ! リンゴ食べたら、私が少し勉強見てあげようじゃないか!」
「ナ。ナンデスト!?」
ユーリの提案に、俺は思わず目を白黒させる。
や、そりゃ学年トップの成績を誇るユーリに見てもらえたら、俺の勉強もはかどるのかもしれん……。
だが! 俺は勉強が嫌いなのだ!
なので。
「い、いやあ、遅くなっちまっても悪いから、今日のところは、その、いいんじゃないかなあ?」
俺はせわしなく頭を掻きながら、遠回しにイヤだとアピールする。
だけど。
「ダメだよ! ちゃんと勉強しなさい! そんなんじゃ文香ちゃんに偉そうなこと言えないよ!」
「そーだそーだ!」
くそう、文香の奴め……ユーリを味方につけて、ここぞとばかりに追い込んできやがる……!
「ホラホラ、私も見てあげるんだし」
「ぐむう……」
苦笑しながらポンポン、と俺の肩を叩くユーリに対し、うめき声を上げるしかない俺。
「それに……」
ま、まだ何かあるのか!?
「そ、それに……?」
俺は次の言葉が怖いながらも、オウムのように聞き返してしまう。
「それに……私、ヤマトと同じ大学に行きたいから……」
「っ!」
く、くそう……そんなこと言うの、反則だろ……。
こんなの、頑張るしかねーだろ……!
そうして妙に気合が入った俺は、それを素直に受け入れ、ユーリと一緒に勉強をすることになった。
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次話は明日の夜更新予定です!
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